連載第159回
■ 決してゆるくない強力なスタッフと俳優陣で超個性的な国際世界を構築
今年に入って擬人化した作品の舞台化が目立つ。秋には鉄道路線を擬人化した『青春鉄道』がミュージカル化したが、今度は国、だ。しかも、こちらもミュージカルである。
『ヘタリア』、由来は”ヘタレなイタリア”の略で第二次世界大戦におけるイタリアの弱さを評してのことだそう。原作の正式タイトルは『Axis powers ヘタリア』”Axis powers”は英語で枢軸国の意味である。単行本を紐解くと、ストーリーというものはない。世界の歴史や過去の政治・経済・文化・風俗・習慣等を勉強していれば、その奥の深いギャグや笑いは数倍面白い。
タイトル通り、イタリアが主人公ではあるが、その他の国々もかなり強烈な個性の持ち主だ。イタリアは女好きでラテンだし、ドイツは規律とマニュアルを尊重する超真面目な性格、日本は小柄で真面目、あまり自分の意見を主張しない、アメリカは強引でジャンクフードが大好き、といった具合だ。
さて舞台ではイタリアを演じるのは舞台『銀河英雄伝説』でユリアン・ミンツを演じた長江崚行。1998年生まれの新星だが、演技力は折り紙付き。どのくらい、”ヘタレ”になっているか注目したいところ。
堅物のドイツは近江陽一郎はミュージカル『忍たま乱太郎』でデビュー、その他ミュージカル『テニスの王子様』等、舞台で活躍中。日本は植田圭輔、舞台『弱虫ペダル』の真波山岳役で人気を博し、来年の舞台『ノラガミ』の雪音役が決まっている。アメリカは磯貝龍虎、イギリスは廣瀬大介、フランスは寿里、ロシアは山沖勇輝、中国は杉江大志、オーストリアは菊池卓也。脚本は舞台『ギャグマンガ日和』のなるせゆうせい(来年は舞台『ギャグマンガ日和』デラックス風味が決まってる)、演出は舞台『戦国無双』や超歌劇『幕末Rock』の吉谷光太郎が担当する。キャスト・脚本・演出は強力な布陣でファンの期待も高い。
■ 実際の歴史を押さえつつ”脳内変換”、茶化しながらも、良質な群像劇
まずは国同士の会議、ドイツが仕切ろうとするが、アメリカが勝手にしゃべり、それ以外の国々もそれぞれに言いたい事を言う。収拾がつかない状態に陥るが、実際の国際情勢も混沌としている辛口な出だし、しかも踊り出し、歌いだす、「会議は踊る」状態だ。
ストーリーの出だしはだいたい20世紀初頭ぐらい、サラエボ事件が勃発し、第2次世界大戦終結ぐらいまでを描いている。国同士の駆け引き、本当はドロドロとしたものだが、擬人化されているので、世界はコミカルに進んでいく。すぐに泣き言を言うイタリア、真面目で自分の信念を貫こうとするドイツ、日和見な日本、自分が一番でないと気がすまないアメリカ、自分は”世界のお兄さん”と思ってるフランス、友達少ないと言うロシア等それぞれの個性を発揮して世界を動かす。全体としてはオペレッタに近いミュージカルコメディになっているが、ところどころ、シリアスな場面もあり、そのコントラストでドラマ性をクローズアップする、
全体として単純に楽しく観やすいが、世界史やちょっとしたエピソードを知っていた方がより面白い。例えば、日本がビーフシチューを作る下りがあるが、実際に出来たのは肉じゃが。これは海軍司令官東郷平八郎がイギリス留学時代に食べたビーフシチューの味が忘れられず、料理長にビーフシチューを作れと命令し、困った料理長は手元にある調味料で作ったものの、醤油と砂糖、みりんで味付けし、結果的に肉じゃがになったエピソード(諸説あるが)が元になっている。こういったエピソードやギャグが随所に散りばめられており、実際の歴史を押さえつつ”脳内変換”して観るのは、オツな感じだ。
戦争に負けて、莫大なお金を要求されるドイツ、世界恐慌で倒れるアメリカ、三国同盟やドイツのソビエト侵攻等、戦争なので実際には相当ハードな状況。そんな人類の歴史を”茶化して”いる訳であるが、全体としては群像劇となっており、元の4コママンガが”ここまで進化するのか”といった発見がある。それぞれの口癖、エスニックジョークはしっかり、バックボーンもきっちり描かれているので、歴史に詳しくない観客は”世界史のお勉強”になる。
ラストはアニメ『ヘタリア Axis Powers』の主題歌『まるかいて地球』を歌うが、曲はそれぞれの国の特徴をとらえたアレンジになっており、振り付けもそれに合わせてシンクロされており、視覚的に楽しい。脚本を手掛けたなるせゆうせい、こういったコメディでは手腕を発揮、演出の吉谷光太郎は映像を使わず、正攻法なミュージカル演出で全体をきっちりまとめる。
1幕ものでおよそ1時間30分弱、初日がクリスマスイブとあってラストはクリスマスっぽい雰囲気、季節の”サービス”はライブである演劇ならでは。また反戦的なニュアンスも感じられ、単に楽しいだけでなく、クリエイター側の硬派な面も感じられる。長江崚行は全力で”ゆる~い、ヘタレな”イタリアを好演、近江陽一郎は眉間にしわを寄せてガチガチなドイツを表現、他のキャストも力いっぱい”ゆる~い”世界観を構築、良質な作品に仕上がった。
ゲネプロ前に囲み取材があった。順々に挨拶をしたが、中国役の杉江大志が怪しげな日本語で挨拶し、一気に場が和んだ。
長江は「キャストの絆やチームワークをそのまま『ヘタリア』の世界観に持っていけている」とまずはPR。そして見どころに関しては「どこからが台本でどこからがアドリブかわからないような、ゆる~い感じ」と発言。”これってアドリブ?”と想像しながら観るのも面白いかもしれない。
ロシア役の山沖は「お客様にとっても今年最後の舞台になるかもしれませんから、最高のクリスマスプレゼントをみなさまにお届けできれば」とコメントしたが、ラスト近くは天井から”あるもの”が降ってくる、そのあるもの……はお楽しみ。
杉江は「ワクワクして、もう『わー!』ってなって、『うわー!』ってなって、『あははは!』って……」と擬音でPRし、植田が「どうやって文章起こすんだよ!」とツッコミが入り、会見は終了した。
なお、12月26日の12時公演と17時公演は、ニコニコ生放送での配信も行われる。
ミュージカル『ヘタリア~Singin' in the World~』
2015年12月24日~12月29日
Zeppブルーシアター六本木
http://musical-hetalia.com
(C)日丸屋秀和・幻冬舎コミックス/ヘタリア製作委員会 (C)ミュージカル「ヘタリア」製作委員会
ミュージカル「ヘタリア~Singin' in the World~」、ゆる~い空気感のミュージカルコメディ
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