
土本
今年も1年間、おつかれさまでした。今回は年末らしく2015年を振り返って、2016年を展望するお話をお願いします。
平林
ですよねー。そういう時季ですからね。私も編集者時代は年末といえば重大ニュースの特集をつくっていました。ですからメディアの人が派手な総括を求めるお気持ちはわかるんですが、ここ数年のゲーム業界は地味。「地味なことが特徴です」と言っては皆さんをがっかりさせています(笑)。
土本
地味? ですか?
平林
新型ハードや新ジャンルのソフトが出て、産業界全体が様変わりするようなことはなく、静かに時が過ぎています。スマホゲーム市場が一気に立ち上がったのが、パズドラがリリースされた2012年でした。あの頃を勃興期・黎明期とすると、わずか3年程度で今は安定期に突入していると見ています。なので、今年を振り返ると時代を動かすビッグウェーブというよりは、小さな動きですね。水でたとえると滲み(にじみ)や染み(しみ)や滴り(したたり)がジワジワっと広がっていくところから特徴を見つけたいと思うんです。
安田
ゲーム、ITの分野では劇的なイノベーションを追いかける習慣があります。けれども、むしろ静かな変化を見ていこうという話ですね。たとえば「女性とゲーム」の関係が徐々に変化しているというのはどうですか?
平林
はい。まさにそういう静かな現象を見たいですね。
安田
女性のゲームユーザーの増加は、ここ数年続いている現象ですが、同時に猛スピードでコアゲーマー化が進んでいる気がします。俗に言う「ゲーマー女子」の登場を実感しています。女性=カジュアルゲームのイメージがありましたが、導入部分をきちんと設計すれば複雑なゲームシステムでも遊んでもらえると思います。
土本
ちなみに現在、インサイドの読者の男女比は6:4ですね。もちろん女性比率は増え続けています。
平林
もうすぐ5:5になりそうですね。女性が増えているというレベルを超えて「ゲームは男女兼用の趣味」の時代が来たってことでしょうね。
安田
あと今年、じわっと広がったものとして動画配信があるんじゃないですか?
土本
ここ数年間、来るぞ来るぞと言われていたNetflix(ネットフリックス)が。あとはゲーム実況のTwich(ツイッチ)が日本でもサービスを開始しました。

Netflixの上陸。日本でもオンデマンドの動画サービスが本格化してきた

Netflixの上陸。日本でもオンデマンドの動画サービスが本格化してきた
平林
私はプレイステーション4の「テレビ&ビデオ」のメニューを開いている時間がすごく増えました。昔から愛用しているtorne(トルネ)、あとはYouTube、Hulu、Amazonビデオ、Netflix、たまにTwich、プレイステーションビデオを見ています。昔はネット動画をテレビで観るときはアップルTVを使っていましたが、今は圧倒的にプレイステーション4の稼働率が高いです。
安田
僕は民放のテレビドラマをネットで見られるサービス。「TVer(ティーバ)」を使うようになりました。
土本
TVerも今年の10月からはじまったサービスですね。アプリのダウンロード数が目標よりも早く「100万を超えた」とニュースになっていました。『下町ロケット』が見られるのが人気の秘密だとか。
安田
そうなんです。僕も『下町ロケット』を見るために使いはじめました。見逃したドラマが1週間無料で視聴できるので、「見逃し配信」と呼ぶ人もいるようですが、TVerがやっていることは仲介です。民放各局は、もう昨年のうちから独自に配信サービスをやっていたのですが、あまり知られていなかった。それがひとつのポータルに集まることによって利便性が増して、一気にユーザーが増えたようです。局ごとの縦割りになっていたものが、横つながりになって成功した例ですね。
平林
テレビ放送の地上デジタル化によって空いた周波数帯を使って新しい放送を始めよう、という話があったのを覚えています?
土本
ありましたね。モバキャスでしたっけ?
平林
そうです。で、モバキャスを使った「NOTTV(ノッティーヴィー)」というスマホ専用の放送局ができたのですが、採算性が悪くて来年6月にサービスが終了するそうです。iPhoneが使えないなど、突っ込みどころ満載でした。このような放送局の失敗事例をたくさん見てきたのですが、TVerは順調のようです。
安田
ところで、映像や音楽はストリーミングサービスのシェアがあがってきたという話をしてきたわけですが、ゲームソフトはダウンロード販売の比重が高まっていますね。
平林
今年のE3直後のオールゲームニッポンでSteamのユーザー数の伸びについて触れました。国内の専用機市場でも確かにダウンロード販売は増えていて、昨年、2014年のデータでは携帯機のソフトの22%がダウンロード販売になっています。この比率はさらに高まるでしょう。
土本
女性ユーザー、動画配信、ダウンロードなどのキーワードがあがっていますが、ほかには?
平林
先月のオールゲームニッポンで角川ゲームズの『ルートレター』と島根県の取り組みを安田さんからうかがって紹介しましたが、地方・地域とゲームのタイアップは今後増えるかもしれません。

実在の地域、場所、人物を登場させる『ルートレター』の試み

実在の地域、場所、人物を登場させる『ルートレター』の試み
安田
それは良い傾向ですね。
平林
大々的にゲームをつくるほどではなくてもコンテンツで地域活性化する動きは各地で起きています。香川県が来年もさぬき映画祭2016を行います。電子ゲームではないのですが、人狼をアドリブ劇で演じるTLPTの公演があります。あと今年から2月22日が忍者の日に制定されていたのをご存知でしたか?
安田
知りませんでした。
平林
伊賀忍者で有名な三重県、甲賀忍者で有名な滋賀県が中心になって実行委員会を結成して忍者を盛り上げようとしているんです。特に来年5月には三重県で伊勢志摩サミットがあるじゃないですか。その時期にはインバウンド需要を狙っていろいろな催しがあるようです。この実行委員会の関係者は、当然のように世界に発信できる忍者ゲームとのタイアップを狙っています。2016年は忍者コンテンツの当たり年になるかも? と予想しておきますか。
土本
ところでインバウンドといえば、海外から日本のゲームへの投資も活発になっているんじゃないですか? 中国のオンラインゲーム企業(37Games)がSNKプレイモアを買収なんてニュースもありましたし。
平林
企業買収だけではないですね。2016年は意外な組み合わせでお金が動くかもしれません。ソフト単体だったり、いわゆる有力IPの売買だったり、開発チームへの投資だったり、いろいろな形で海外資本が入ってきていて、いわばキャピタルインバウンドのような兆候が見られます。
安田
確かにインバウンドの多様化は起きていますね。ビジネスのしくみは複雑になりますが、資金集めの選択肢が増えるのはゲーム会社にとって明るい材料ととらえて来年も頑張ります。
土本
今年一年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
安田
では、皆さん、良いお年をお迎えください。
(次回配信は1月29日予定です)
■パーソナリティの紹介

安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『GOD WARS』『ルートレター』の開発に取り組む。

平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。