2016年最初の記事となる今回は、『風ノ旅ビト』をご紹介したいと思います。
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『風ノ旅ビト』(原題:『JOURNEY』)は、2012年3月15日にソニー・コンピュータエンタテインメントからPlayStation Storeで配信開始された、プレイステーション3用のアドベンチャーゲームです。2015年7月23日からはプレイステーション4版も配信開始されています。
本作を開発したのは、アメリカのゲーム制作会社「thatgamecompany」。オンライン配信専用のゲームながらも、2013年に開催された第13回「Game Developers Choice Awards」ではGame of the Yearを含む6部門にノミネートされ、そのすべてを制し6冠を達成するという偉業を成し遂げました。他にも多数のゲームアワードを獲得し、高い評価を得た作品です。
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本作では、プレイヤーは赤いクロークのような衣装を纏った「旅ビト」となって、広大な砂の世界を、はるか彼方にそびえる山へ向かって旅をしていきます。
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この作品には「言葉」というものがいっさい存在せず、登場人物も言葉をまったく話しません。この不思議で神秘的な世界を、プレイヤーは旅していくことになるのです。
そして、本作で非常に魅力的な要素なのが音楽です。本作の音楽を手掛けたのは、Austin Wintory(オースティン・ウィントリー)氏。全体的に流麗な弦楽器の音色をメインにした、幻想的で美しい楽曲が多く、この不思議な世界での旅を存分に盛り上げてくれます。
どの楽曲も素敵なのですが、個人的に本作の中で印象に残っているのは、旅ビトが砂漠をすべり下りていくシーンで流れる「The Road of Trials」という楽曲ですね。ゆったりと雄大に、かつアップテンポで軽快に奏でられるリズムが絶品です。この音楽に合わせて美しい砂の景色を滑り降りていくのは本当に爽快で、気持ちいいですよ!
もうひとつ、僕が本作の中でとても大好きで胸に刻み込まれているのは、ゲームの終盤、山の頂上に向かっていくシーンで流れる「Apotheosis」という楽曲です。オーケストラで奏でられる雄大で美しい旋律が、雲海の上に臨む山々の凛々しさを描く美麗な映像、そしてまっすぐに頂上へと向かってゆく旅ビトの姿と見事にマッチしていて、僕は思わずゾワッと鳥肌が立ちました! 僕はこのシーンをプレイしていて、コントローラを持つ手が感動で震える……という体験を久々にしました。この高揚感と気持ちよさは、すさまじいものがありましたね。ゲームを未プレイの方は、ぜひプレイして体験してみていただきたいです。
あと、エンディングで流れる本作唯一のボーカル曲「I was Born for This」も素敵です。Lisbeth Scott氏による、壮大で神々しいほどに美しい歌声が、本作を綺麗に締めくくってくれますよ。
この『風ノ旅ビト』のサウンドトラック(後述)は、第55回グラミー賞の「Best Score Soundtrack For Visual Media」部門にノミネートされるなど、非常に高い評価を受けたとのことです。実際にゲームをプレイしてみて、その評価にも大いに納得できる、素敵な楽曲群でした。
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本作は、音楽の美しさもさることながら、グラフィックが非常に綺麗です。一粒一粒がきらめく砂の質感や、光と影の表現など、じつにアーティスティックで素晴らしく、幻想的な世界を作りあげています。
美しい映像と音楽で織りなされる不思議な世界。そこに一切の言葉はなく、プレイヤーは各自で想いをめぐらせ、展開を見守ることになります。プレイヤーの皆さんそれぞれでいろんな解釈ができますので、プレイヤーそれぞれの物語が生まれゆくことでしょう。
『風ノ旅ビト』のプレイ時間は2~3時間ほどのボリュームなので、一本の映画を観るような感覚でプレイできます。僕が本作をはじめてプレイした際には、この数時間というわずかなあいだで、自分でも驚くほどこの世界にぐいぐいと引き込まれてゆき、終幕を迎えた時には不思議な感動と余韻、そして満足感を味わっていました。この幻想的な世界を旅する体験は、この作品でしかできない、唯一無二のものだと思います。
……というか、本作に関して、僕があれこれと語るのは野暮かもしれません。まずは、できるだけまっさらな気持ちで『風ノ旅ビト』を体験してみてほしい、と心から思います。これは頭ではなく、心で感じる作品です。 ご興味をお持ちの方は、ぜひ体験してみてくださいね。
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ちなみに、このゲームはオフライン状態だと自分1人だけでのプレイなのですが、オンラインにしていると、時々ほかの旅ビト(プレイヤー)と出会うことがあり、一緒に旅をすることができます。ほかの旅ビトと言葉を交わすことはできないのですが、○ボタンを押すとちょっとしたコミュニケーションを取ることができます。ほかの旅ビトの人が、さりげなく道を教えてくれていたりすると、少し嬉しくなりますよ(笑)。
僕は初プレイの際に、まったく見ず知らずの旅ビトといっしょになって最後までクリアしたのですが、ラストシーンでは不思議な高揚感と感動を味わいました。ちょっと今までに体験したことのない新しい種類の感動でしたので、ぜひ皆さんにも味わってみていただきたいです。
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なお、『風ノ旅ビト』のサウンドトラックCDは、海外版『JOURNEY』のものがamazonなどで販売されています。また、iTunes Storeではデジタル版が配信されていますので、ご興味をお持ちの方はお聴きになってみてくださいね。(個人的には、まずゲームをプレイしながら音楽を聴くことをおすすめしますが!)
また、プレイステーション4では、『風ノ旅ビト』の公式サウンドトラックアプリが配信されています。こちらも、ご興味をお持ちの方はチェックしてみてください。
■『風ノ旅ビト』公式プロモーション映像
hide / 永芳 英敬
ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、主にゲーム音楽関係の記事を執筆。去年末から扁桃炎で苦しんでいましたが、点滴で回復しました。今年もマイペースでがんばります!
[Twitter] @hide_gm [ブログ] Gamemusic Garden
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