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その後、開幕講演「新しいものをつくろう ~新規IPをつくる意義~」と題して、再び日野氏が登壇。7月27日に開催されたレベルファイブ新作発表会「LEVEL5 VISION 2016」の反響をもとに、ゲーム会社が新規IP(知的財産)を創り出し、保持する意義について解説しました。日野氏は特に最新作『イナズマイレブン アレスの天秤』の反響が予想以上だったとして、会場に集まった聴衆に対してオリジナルIPの開発を呼びかけました。
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『ドラゴンクエストVIII』の開発参加をきっかけに、広く社名が知られることになったレベルファイブ。しかし真の成長は『レイトン教授』シリーズの制作と販売、すなわちディベロッパーからパブリッシャーになったことから始まりました。以後『妖怪ウォッチ』シリーズまで、さまざまなオリジナルタイトルをリリース。代名詞ともいえるクロスメディア戦略を筆頭に、「今ではゲーム会社の枠にとらわれず、多くのIPを保有する『コンテンツホルダー』に変化しつつある」と言います。
「オリジナルタイトルは社の財産である」と説明する日野氏。実際「某妖怪もの」(日野氏談)では7.5億円(第一作の開発費+宣伝費+アニメの第1シーズン制作費)の初期投資に対して、累計3400億円(ゲームの売上を除く)の市場が創出されました。こうしたビジネスの中核に位置するのがIPホルダーであるレベルファイブです。
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このほか、『スナックワールド』『メガトン級ムサシ』『オトメ勇者』とオリジナルタイトルの開発も進んでいるレベルファイブ。もっとも、IPには金銭面以外の価値がある・・・日野氏はこのように語ります。その好例がシリーズ第7作を迎える『イナズマイレブン アレスの天秤』です。約3年前に一旦終了したシリーズですが、「LEVEL5 VISION 2016」で公開したパイロットフィルムの動画再生回数が約40万回(※8/17時点。現在は約55万回)と、他のPVを大きく引き離す結果になったのです。
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日野氏は「『イナズマイレブン』は約10年前に企画したタイトル。第1作を小学生の頃に遊んだ世代が大学生くらいの年齢になって、あらためて最新作に期待してくれている。一度ファンを獲得できたIPは寿命が長い」と分析しました。そしてドラえもんやウルトラマンなどを例に、子ども向けのIPでもヒットすれば二世代にわたって楽しめるようになる。大人向けの作品も作るが、子ども向けの作品も積極的に取り組みたいとしました。
「ヒットコンテンツはいくらでも復活可能なビジネスの『種火』。しかし、なにより嬉しいのは自分たちが作った作品の記憶が未来に引き継がれていくこと。それを『イナズマイレブン』で改めて学んだ」と日野氏は語ります。実際、もう少しがんばったら子供と一緒に楽しんでくれる作品になるかもしれないので、そこまでがんばりたいとコメント。その上で「レッツIP創出!」と呼びかけ、これこそがエンタメ業界の最大の醍醐味だと説明しました。
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こうした講演の背景には、ディベロッパーが多く、開発力はあってもIPを保持している企業が少ないという福岡の産業特性があります。その一方でデジタル流通などの発展と共に、ディベロッパーでもオリジナルIPを開発し、パブリッシュする敷居がどんどん下がっているのも事実。そのための情報収集や勉強の場がCEDEC+KYUSHUというわけです。日野氏の呼びかけに応じて、どのようなオリジナルゲームが福岡から登場してくるか、期待を持たせる内容となりました。