さて、2017年最初の記事となる今回は、『Flowery』(フラアリー)をご紹介しましょう。
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『Flowery』は、2009年2月12日にソニー・コンピュータエンタテインメント(現 ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から、PlayStation StoreにてPlayStation 3用ダウンロード専売でリリースされた作品です。開発は、『風ノ旅ビト』や『flOw』を制作したthatgamecompanyが手掛けました。なお、2014年2月にはPS4版およびPS Vita版が配信開始され、2016年3月からはPS4・PS Vitaなどで使用できるストリーミングゲームサービス「PlayStation Now」での配信も行われています。
※記事中の使用画像は海外版のものです。なお、本作の原題(海外でのタイトル)は、そのものスバリ『Flower』(フラワー)です。日本では、商標の関係でタイトルが『Flowery』(フラアリー)となっています。
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『Flowery』は、夢の世界を舞台にした“ポエティック・アドベンチャーゲーム”。「ストレスの多い外部世界と、穏やかで平和な夢の世界の対立」というテーマを詩的に描いた作品です。プレイヤーは一枚の花びらとなって、広い草原を自由に舞い、点在する花のつぼみに触れることで、たくさんの色とりどりの花を咲かせていきます。
本作の操作はとても簡単です。PS3のコントローラを傾けて(※コントローラに搭載されたモーションセンサー機能を使用します)花びらを動かすことと、コントローラのいずれかのボタンを押して風を吹かせること。たったこれだけ! 風を吹かせて花びらを舞わせ、それを花のつぼみに触れさせていって多くの花を咲かせると、どんどん美しい風景が広がっていきます。
“花びらになって空を舞い、花を咲かせる”――、言葉にしてしまうと非常にシンプルなゲームですが、想像力をかきたててくれる詩的なストーリーと、花々や風景を彩り豊かに描いた美しいグラフィックが織りなす幻想的な世界は、触っているだけでとても気持ちよく、魅力にあふれている作品です。操作も簡単なので、老若男女問わず誰でも楽しむことができるゲームですよ。
さて、そんな『Flowery』の大きな魅力のひとつが音楽です。作曲家のVincent Diamante(ヴィンセント・ディアマンテ)氏によって手掛けられた本作の音楽は、 ピアノを主体とした美しく繊細なもので、幻想的な世界観を見事に演出しています。とても優しく心地よい音楽が多いので、プレイしていると癒されますよ! それでは、本作の音楽をご紹介していきましょう。
●「Life as a Flower」
ステージ1の草原で流れる音楽です。このゲームは、草原に咲いている一輪の花のつぼみから静かに始まります。サウンドも、初めは穏やかなギターの音だけがゆったりと響いているのですが、風を吹かせて花びらが舞うと、ぽろんぽろん……と、ピアノのやさしい音が重なってくるのです。ゲームの進行に合わせてリアルタイムに曲調が変化していくのも、本作の音楽の特徴ですね。
また、草原の中にあるつぼみに花びらが触れると、花が咲くと同時に、ギターや鉄琴、ストリングスといった楽器による美しい音色が鳴り響きます。「花が咲くと同時に楽器が鳴る」というのが、花の美しさや生命力を印象深く演出しています! ちなみに、ピンク色のつぼみはギターの音、黄色のつぼみは鉄琴のような音、赤いつぼみはストリングスの音……といったように、花の色によって楽器がそれぞれ違うのもおもしろいです。
なお、花を咲かせると、そこから生まれた花びらが空を舞う花びらの中に1枚ずつ加わっていき、やがて一連の長い連なりになります。その様はじつに流麗な美しさで、一見の価値ありですよ。
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●「Splash of Color」
ステージ2で流れる音楽です。このステージは色の無いモノクロームの世界なのですが、ピアノによるせつない響きが、色を失ってしまった寂しげな雰囲気を演出しています。そしてステージ中の花を咲かせてゆくと、生い茂る草の緑や岩肌の褐色といった本来の色をだんだん取り戻してゆくのですが、それにしたがって音楽も、木管とストリングスが重なってゆき、だんだん美しさを増していくのです。
また、このステージの後半では赤い花のつぼみたちを咲かせていくのですが、そのたびに草原に青や紫の色が広がってゆき、その様はまるで宇宙のような神秘的な雰囲気があります。バックで流れる、ゆったりとしたピアノの音色も素敵ですよ。
●「Sailing on the Wind」
止まった風車が点在する、ステージ3の草原で流れる音楽です。ここではこれまでとは一転してアップテンポのリズムが刻まれているのですが、花を咲かせて風車を回すと、ピアノの疾走感あふれる旋律が重なってくるのです。爽快な音楽にノッて花びらを操作し、次々にたくさんの花を咲かせていくのは、筆舌に尽くしがたいほどの気持ち良さがありますよ!
また、このステージの後半には、次第に夕暮れになってゆく空の下、花びらが風車の風に乗って高速で舞ってゆくシーンがあります。ここで響く、ものさびしさを帯びたピアノと木管の流麗な旋律は、思わず聴き惚れてしまうほどの美しさです!
●「Nighttime Excursion」
深い宵闇に包まれている夜の草原が舞台の、ステージ4で流れる楽曲です。オーボエで奏でられるゆったりした音色は、夜の神秘的な雰囲気を彩っています。また、途中から重なってくるピアノの音色もとても落ち着いた雰囲気で、夜の心地良さを演出してくれますよ。なお、このステージでは、空を舞う花びらが草を撫でてゆくことで、たくさんの草に一斉に光が灯る壮麗なイルミネーションを見ることができるのですが、これが非常に幻想的で、思わず唸ってしまうほど見事な美しさですよ。これはぜひぜひ実際にプレイしてご覧になってみていただきたいです!
しかし、ステージの後半になると空がどんよりとした灰色になってゆき、雷が鳴り始め、カラスの鳴き声が響いてきます。なにやら不穏な雰囲気になってゆくのです……。
●「Solitary Wasteland」
これまでとは一転して暗く淀んだ雰囲気の、ステージ5で流れる楽曲です。このステージに登場する風景は、灰色の空から降る雨、轟々と鳴り響く雷、そしてたくさんの壊れた鉄塔という退廃的なもの。音楽も、重苦しく響くピアノが、けだるげで淀んだ空気を演出しています。
なお、このステージでは花びらが鉄塔に触れてしまうと、ビリビリッという大きな音を出して焼け落ち、黒コゲになってしまうため、プレイ中は若干のストレスを感じるかと思います。しかし、ここを乗り越えた先には強烈な爽快感が待っているので、ぜひ頑張ってこのステージを乗り越えて、ラストシーンを確かめてみてもらいたいです。
●「Purification of the City」
僕が本作の中で特にオススメしたい、ラストステージの楽曲です! このステージでは、街に散乱している壊れた鉄塔を浄化していくことで、たくさんの花が咲き乱れ、街並みが復活していく様が描かれます。そして音楽は、華やかなフルートの音色と、ピアノとストリングスが織りなす美しくも力強い響きによって少しずつ活気を取り戻して行く街の様子が演出されていて、思わず心が躍るほどの美しさですよ。壊れた鉄塔を次々と連続して取り除いてゆき、街をどんどん復活させていくのは凄まじい爽快感がありますので、ぜひ体験してみていただきたいです。
『Flowery』は、大自然の生命力や、花々の美しさをインタラクティブに体験できる素敵なゲームです。人間として生きてゆくうえでは、疲れてしまったり、ストレスを感じることも時にはあると思います。学校や仕事などで何かイヤなことがあり、「ちょっと心が疲れちゃったな……」という方は、ぜひ『Flowery』をプレイしてみてください。本作の美しい世界観と音楽は、触れる人の心をじんわりと癒してくれると思います。最後までプレイし終えた時には、少しすっきりした気持ちになれるかもしれません。
ちなみに僕は、少し心が疲れていた時に『Flowery』をプレイしてみて、だいぶ心理的にリフレッシュすることができました。これから先も、生きていく中でちょっと心がお疲れモードになってしまった時や、癒されたい時などに遊んでいきたいなと思っているゲームです。
少し余談ですが、このゲームには、キャラクターやセリフといったものは一切登場しません。最初から最後まで、ひたすら情景だけで語られます。抽象的といえば抽象的なのですが、この作品には、制作者の皆さんの深いメッセージが込められているように僕は思うのです。本作を最後までプレイすると、「ああ、こういうことを言いたいのかな」という解釈が、おそらくプレイヤーの皆さんそれぞれの中に生まれるかと思います。この作品をどのように解釈するかは、皆さんそれぞれで違ってくると思いますので、クリアした人たちで「俺はこう思った」「私はこう思ったわよ」と語り合ってみるのも楽しいかもしれませんね。
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本作のサウンドトラックは、海外版『flower』のものがiTunesにて販売されています(詳しくはこちら)。ご興味をお持ちになった方は聴いてみてください! また、PlayStation StoreでもPS3向けのサウンドトラックが販売されています。価格は309円(税込)とお手頃なので、気になった方はこちらもチェックしてみてください(詳しくはこちら)。
なお、本作は2013年の12月に、アメリカのワシントンD.C.に所在する世界最大級の博物館群・スミソニアン博物館の一部である、スミソニアン・アメリカ美術館の永久所蔵品になりました(公式声明文はこちら)。本作の持つ芸術性や美しさは非常に素晴らしいものがあるので、美術館に収められるというのも納得です。こういった素敵な作品を、ぜひもっと多くの人々に広く知っていただきたいなと思います。
テレビゲームという娯楽は、何かと戦ったり、争ったりという作品が多くを占めます。そんな中、ただひたすら花を咲かせてゆく、という本作は明らかに異彩を放つ作品です。しかし、この作品のアイデア、芸術性、爽快感、そして中に込められた深いメッセージ性は、本当に素晴らしいものだと僕は思います。ご興味をお持ちの方は、ぜひプレイしてみてくださいね!
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hide / 永芳 英敬
ゲーム音楽ライター&ブロガー。ゲーム音楽作曲家さんへのインタビュー記事、ゲーム音楽演奏会のレポート記事など、ゲーム音楽関係の記事を執筆。年末年始はテレビを見ながら食べて飲んでワイワイという生活だったので、ちょっと体重が増えた気がします(苦笑)。
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