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左から、亀岡氏、森田氏、黒田氏。
──まずはじめに、自己紹介をお願いします。
亀岡慎一氏(以下、亀岡氏):ブラウニーズ社長の亀岡です。『エグリア』ではディレクターやシナリオ・システム原案、キャラクターデザイン、アートディレクションなどを担当しました。
森田祐加氏(以下、森田氏):デザイナーの森田です。私はアイテムアイコンのデザインと、プロジェクトの後半からはデバッグのマネージメントを務めていました。
黒田真梨子氏(以下、黒田氏):デザイナーの黒田です。家具のデザインや、他社さんにお願いしていたデザインの監修を担当しました。
──早速ですが、お二人はお母さんということですが、ブラウニーズは働きやすい環境でしょうか?
黒田氏:働きやすいです。社長(亀岡氏)に保育園事情や無理のない勤務時間を相談しつつ働き方を考えていただいて、産後の復帰がとてもしやすかったですね。
──最初からフルタイムでお仕事をされていたのでしょうか?
黒田氏:いえ、最初はブラウニーズ社内の保育施設を利用して、その後も柔軟に対応していただきました。
森田氏:子どもの成長に合わせて、作業時間などを相談に乗っていただきやすい環境ですね。
──ブラウニーズ内の女性の割合はどのぐらいなのでしょうか?
亀岡氏:半分ぐらいいると思います。ブラウニーズでは女性がとても戦力になっているので、リタイアしてしまうより、まず都合の良い時間から徐々に復帰していただけたらと思っています。そのために出来る限りのことはしたいなと。
──それでは『エグリア』の開発について伺います。まず、家具のデザインはどのように行われましたか?
亀岡氏:プランナーもデザイナーもともに女性なので、とても女性らしいアイディアやデザインになっていると思います。一方、外注の男性スタッフが困っていましたね。
──男性の視点からデザインされたものには、ちがいがありますか?
黒田氏:ありますね。男性スタッフは機能面をリアルにとらえてデザインされることが多かったです。たとえば、ツヤを出しすぎたり角ばらせたりすると世界観と外れてしまうので押さえてくださいと提案しても、金属にはシャッとハイライトや影を入れたいという気持ちがにじみ出ていたり。現実にあるもの、構造的に辻褄が合うものをデザインしがちで、現実にはうまく使えなくてもかわいいものを、というコンセプトを伝えるのに苦労しました。
森田氏:家の中だけれどもカヌーや滝があるなど、「部屋の中」にこだわらない家具もたくさんあるので、コーディネート次第でちゃんと素敵な部屋からものすごくネタに走った部屋まで、プレイヤーのセンス次第でいろいろな楽しみ方ができますよ。
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──家具のデザインが個性的なので、部屋づくりが楽しくなりますね。
黒田氏:今回はまずユーザーがプレイして遊びが広がるラインナップかどうかを念頭に置き作りました。そのため、普通はあまり出てこないホウキと掃除桶や壁にかける燭台、ランプ、樽や木箱、壺など一通り生活感があるものをそろえてみようと。
亀岡氏:僕も、どうしてこんな家具があるんだと思うものもありました(笑)。
黒田氏:亀岡からは、ユーザーが欲しいと思えるものを作って欲しいとオーダーがありました。デザイン的な飾りを施すのは簡単なのですが、組み合わせて遊ぶためにはシンプルなものをいくつか用意しなければなりません。そこで、シンプルでありながら見ていてわくわくできるような飾りを意識しています。たとえば掃除桶に雑巾がかけられていたりといったものもそのひとつですね。
亀岡氏:家具ひとつとっても、周りの設定や世界観を凝って考えていましたね。
──『エグリア』では、異なるシリーズの家具をレイアウトしても、ひとつの部屋としてしっかりデザインできますよね。
黒田氏:それはとても意識したことで、家具のシリーズをひとつ追加しましょうという話になるたびに、いままでにラインナップとして出ている他の家具と合わせた時にちがう印象になったり、他の遊び方ができるシリーズになっているかなというのをプランナーと一緒に話し合って、追加するようにしていましたね。
森田氏:実際置けることで、プレイしていると主人公が住んでいるような生活臭が感じられると思います。
亀岡氏:家具は途中からすべて黒田に任せていたので、一般的な家具じゃないものやアニメ・音が付いていたりとすごい凝ったものになっていて驚きました(笑)。
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──次に、料理をデザインされた森田さんに伺います。お母さんという視点で何かデザインに気を使われたことはありましたか?
森田氏:まず、料理は人ではなく精霊が食べるので、アメリカンな色味や味が想像できない奇抜なデザインを取り入れつつ、実際にあってもおいしそうなものを組み合わせました。気をつけたのは、ぱっと見で料理だと分かるようなデザインである点で、ひと目見てガレットやマリネと分かることを意識しました。あとは、肉だったら油の照りがあっておいしそうだったり、マンガ肉のような誇張の仕方をしています。また、アイコンのサイズが小さめと限られていたので、特徴的な部分は残しつつおいしそうだなと言ってもらえるようなものを目指して作りました。
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──カレーの盛り方も、ご飯を中央に盛るといったかわいらしさがありますね。
森田氏:他にも、「ドラゴンコンガ」という料理にはお子様ランチのように旗が立っているなど、食べ物以外のアプローチもしています。料理をアイコン化できるというヒントは、子どもの料理本などから得ていたかと思います。
黒田氏:子どもは、見た目のかわいさとおいしそうさの両方がないと食いついてくれないので、『エグリア』の食べ物は落とし所がうまいなと思いました。
亀岡氏:独身だったら、自分が食べられればいいと思って描けなかったかもしれないね(笑)。
──食材をデザインする際に、意識した点はありますか?
森田氏:かわいらしさ、おいしさ、コミカルさを意識しました。魚に多少表情をつけたり、イクラをモチーフした「ぎょたま」などファンタジックなデザインにしています。また、肉の種類にバグ肉(虫の肉)があるのですが、発注者自身も虫が苦手だったため、虫の肉ではあるけれど、虫っぽくはさせたくないという強い意志があり、エビに似せてあまり気持ち悪さがないようにしています。
亀岡氏:本当は虫を採取して料理の素材にしようとしていたのですが、女性スタッフから大ブーイングを受けてなくなりました(笑)。
──森田さんがデザインされたアイテムのなかで、イチオシのものはありますか?
森田氏:このゲームには精霊を育てるアイテムとして「ポテト」が多数登場して、ゲームバランス的にもすごくポテトが欲しくなるなど、やたらとポテトのアピールが強いです(笑)。あとは、精霊のデザインもかわいい・かっこいいものが多いので、お気に入りの精霊が出てきたら「この子にあれを食べさせたいな」という気持ちに紐付けたデザインになっています。ポテトの名称も実際の食べ物に寄せた名前になっていたり、オリーブオイルなどをモチーフにして絵から味が想像できるようなものにしています。
──ポテトだけこんなにたくさん作ることはこれまでなかったと思いますが、大変でしたか?
森田氏:発注者がなかなかトリッキーなオーダーをしてくることもあり、大変でした(笑)。私は選択がむずかしくないようにデザインを2、3パターンしかあげないようにというルールを決めており、それに沿って選ばれたものをブラッシュアップして作りました。
黒田氏:ポテトも食材も料理も、全部絵柄がおいしそうなので、仕事の報告が上がってくるのを見ていながらも飯テロ感がありました(笑)。
森田氏:参考資料を漁っている時が一番しんどいですね(笑)。
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──森田さんは開発終盤ではデバックも担当されていたとのことですが、大変だったことはありますか?
森田氏:スケジュールを切っていてもなかなか開発の状況に追いつかないこともありましたね。
最終的には『エグリア』の仕様をチェックリストとしてまとめた書類などを作り、それを元に実装確認作業を行っていました。
亀岡氏:僕はスマホアプリのデバックが初めての経験だったので、どの程度までやっていいのか分からず手探りでしたね。また、コンシューマーでは発売日が決まるとそこに向かってがーっと作業をしていきますが、スマホの場合は中途半端に焦って詰めてもユーザーがおもしろくなければ意味がないので、スタッフのエンジンをかけさせるタイミングがむずかしかったですね。
黒田氏:『エグリア』は、経験の浅い若いスタッフが中心となって、やりたいことを試行錯誤していたイメージがあります。終盤になると、社内のスマホ開発経験者や森田のような経験豊富なスタッフが、若いスタッフからうまく入れ替わりつつ開発が進んでいったという印象ですね。
亀岡氏:開発の走り出しはやりたいことがたくさんある若いスタッフに任せて、経験が一番力を発揮する後半のデバック部分では、古参のスタッフが指示をしながら作業していけたのはとても助かりましたね。うまいこと社内がひとつになって開発していけたと思います。
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──『エグリア』は子どもにもおすすめですか?
黒田氏:はい。私は応援イラストをTwitterに掲載したのですが、子どもと閲覧中に私のイラストを「これがいい!かわいい!」と目に止めてくれたのはとてもうれしかったですね。
森田氏:親目線でいうと、買い切りのアプリなのでプレイさせやすいというのはあると思います。
黒田氏:絵本の絵柄や子どもに見せたいものにこだわるママ友にも、安心して見せられるような、大人から小さいお子さんまで「かわいい!好き!」と素直な感情を持ってもらえるビジュアルのゲームになっていると思います。
森田氏:ファンタジー系の作品はいろいろありますが、セピア調で優しい色味なので普段ゲームをプレイしない人でも見た目からとっつきやすくおすすめしやすいですね。実際に遊んでみると、シナリオもシリアスありギャグありとバランス良く配置されているのも良いと思います。余談ですが、精霊は開発スタッフの名前をもじっていたりもするので、じっくり見てもらえたらとうれしいですね。
亀岡氏:「ミカニャン」は僕がデザインしたのですが、開発スタッフに似せようか猫に似せようか悩んで……ちょっと中途半端になりましたね(笑)。
──ブラウニーズの特徴であるやわらかいファンタジー世界観は、どのように生まれたのでしょうか?
亀岡氏:元々ファンタジーが好きというのではなくて、『聖剣伝説2』を作った辺りからでしょうか。津田幸治氏との出会いも影響しているかもしれません。彼の絵を最初に見たときに衝撃を受けて、僕もこういう絵が描きたいと思いました。
黒田氏:色彩がとてもキレイで、これは勉強して得たものではなく、直感的に好きだと感じましたね。
亀岡氏:津田幸治の色彩感覚を、僕は「絶対色彩」と呼んでいます。生まれて3歳までに身につかないともうできないみたいなものかなと(笑)。
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──最後にクリエイターとしてのこだわりやファンの方、お子さんやお母さまへメッセージをお願いします。
森田氏:コンシューマー感があり、ランキングなどを気にせず自分の世界に没入できるゲームです。いまの若い子は、すでにスマホゲームがある状態でスタートしていると思うので、こういうものがあるよという提案になればとも思います。また、忙しいゲームではないので、家事をしながらや、まったりゆったりしたい時のお供にもなりますね。
黒田氏:ブラウニーズのスタッフたちの本気の切磋琢磨が詰まっている作品です。料理のアイコンでも精霊のデザインでもバトルフィールドの背景でも、ユーザーの方がどこを一番好きと感じられても、そこにはブラウニーズのデザイナーが最高と思って描いたものとなっています。あと、育児の合間にプレイしていて子どもが覗き込んできても、一緒に楽しめるようなゲームになっていると思います。学生さんや会社員の方だけではなく、自分自身が母親なので育児の気分転換が欲しい時やかわいいものが大好きなお子さんにも手にとっていただけたらうれしいです。
亀岡氏:『エグリア』は女性スタッフが半分ぐらいで作っていたのですが、出来あがってきたものや二人の話を聞いていると、母親目線が作品に反映させているんだなと感じました。いまのお母さんはゲーム世代のお母さんなので、ちょっと疲れた時はいつでも『エグリア』に帰って来て休んでもらえたらと思います。
──本日はありがとうございました。
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