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6月4日、東京・総合学園ヒューマンアカデミー秋葉原校にて、カプコンの江城元秀氏と巧舟氏による『逆転裁判』シリーズに関する講演「特別法廷セミナー」が開催されました。お二人がプロデューサーとディレクターを務める『大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟-』の秘話も飛び出した、貴重な講演のレポートを2回に分けてお届けします。
講演は、お二人の自己紹介からスタート。口火を切った江城氏がカプコンに入社して初めて関わったタイトルはアーケードゲームの『ストリートファイターII』。当時、自分が関わったキャラは少しでも強くしたいという“若気の至り”で、サマーソルトキックの当たり判定をこっそり大きくしたらそれがバレ、現・アリカの代表取締役である西谷亮氏に怒られたというこぼれ話を披露してくれました。その後は『ヴァンパイア』にプログラマーとして参加し、『鬼武者』で企画に転進。『鬼武者2』ではディレクターを務めました。そして、2006年発売のニンテンドーDS版『逆転裁判2』より、本シリーズのプロデューサーとなっています。
一方の巧氏は、カプコン入社後に初めて携わった作品は『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』。その後、ご自身いわく「恐竜のことはよく分からない」ながらも『ディノクライシス』一作目のメインプランナー、二作目のディレクターを担当。その後、三上真司氏から「半年あげるから次は好きな作品を作っていいよ」と言われ、“半年どころじゃない”期間を使ってできたのが『逆転裁判』だと当時を振り返りました。
元々推理小説の愛好家で、そうしたゲームを作りたいと思ってカプコンの門を叩いた巧氏。ところが『逆転裁判』を企画した2000年ごろのアドベンチャーゲームは、物語を読み進めるスタイルのものが主体。いくつかの選択肢の中から正解を選んでも「自分で推理した・謎を解いた」感覚になれるゲームは多くなかった、と振り返ります。
そんな中、自分で推理したという実感に浸れる――「実力主義の推理ゲーム」というコンセプトを満たすために考案されたのが、おなじみの証人のムジュンを暴くシステム。ある証人が5つのブロックに分かれた証言をし、おかしい部分に5種類の中から適切な証拠品をつきつける……それはすなわち「25通りの選択肢のどれが正しいか、自分の推理を直感的に入力できるシステム」なのだと巧氏は語ります。
設定に関しては、当初「探偵が犯人と対決する」構図を考えていたとのことですが、探偵を主人公としたアドベンチャーゲームは珍しい題材ではないため、作品が埋もれてしまうことを危惧。それならば、他にそういう仕事をしている職はないか? と考えてたどりついたのが“弁護士+法廷”という題材であったとのこと。
こうして「弁護士が法廷で証言のムジュンを暴く推理ゲーム」というコンセプトをまとめあげて社内でプレゼンしたのはいいものの、反応はかんばしくなく、「難しくて分かりづらいのでは?」という声が多かったとのこと。それならば、キャラクターはポップで分かりやすいものにしようと、名前も顔もひと目で覚えられるような個性的なキャラクターたちが誕生。
さらに「誰が犯人なのか」ではなく「犯人をどう追い詰めるか」をコンセプトとしているため、登場人物の総数もコンパクトに収められました。そして、ムジュンを暴くという楽しみを多く提供できるよう、短編形式にして裁判シーンをたくさん用意する……みなさんがよく知る『逆転裁判』の誕生です。巧氏は「コンセプト、シナリオ構成、キャラクター……すべての要素にはきちんとそうなっている理由があるんです」と強調しました。
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次のテーマは『大逆転裁判』の誕生秘話。カプコンから「シリーズの新たな柱となる『逆転裁判』をもう一本作ってほしい、また、タイトルには逆転裁判という言葉を使ってほしい」と要請を受けた巧氏。ゲームとしてのベースを受け継ぎつつ、どのようにして異なる方向性を打ち出すか? 巧氏はこれに対して、
1.世界設定、シナリオを大きく変える
2.刑事裁判ではなく民事裁判を扱う話にする
という選択肢を考案したとのこと。ただ、民事裁判を扱うとなると、有罪・無罪というより示談金云々という話にせざるを得ず「自分が書きたいのは本当にこれなのだろうか?」と自問されたそうです。そうすると、必然的に取るべき選択肢は「世界設定、シナリオを大きく変える」になります。
かつてコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズでミステリーに触れ、その後もディクスン・カー作品などを愛読したという巧氏は「自分にはまだ、19世紀を舞台にしたクラシックミステリーという“弾”があるじゃないか」と気づき、これが『大逆転裁判』誕生のきっかけとなったということです。
『逆転裁判』は、当初探偵ゲームとして企画されていたというのは前述の通りですが『大逆転裁判』は、そのときのアイディアの一つであった「探偵の間違った推理をプレイヤーが正す」という案を練り込み、正式なシステムとして採用することになりました。巧氏は当時を振り返り「もしかしたら『逆転裁判』シリーズは最初からホームズが出ていたかもしれないんです」と話しました。
状況をよく観察することで、間違った推理が冴えた名推理に変貌する……このフローの弱点は「まず最初に間違った推理につきあってあげなければならない」というデメリットが常について回ることです。それだけに「プレイヤーにいかに飽きず楽しんでもらうか」はとても重要だったとのこと。そうした土台に、当時の大英帝国の法廷らしい陪審員制度などを付け加えて『大逆転裁判』が誕生しました。
陪審員たちは当初モブのような個性のない存在にする案もあったようですが、作り込むうちにどんどん個性的になっていったそう。それが功を奏し、バレンタインの時期には、カプコンに「陪審員3号」宛てのチョコレートが届いたこともあったそうです。
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セミナーレポートの前半はここまでとなります。6月16日に『大逆転裁判2』の秘話や、海外へのローカライズ事情にも深く踏み込んだ後編を公開予定です。ぜひそちらも併せてご覧ください。
本セミナーは、今回の「秋葉原校」、6月11日に行われた「大阪校」の他にも、7月以降には「札幌・仙台・名古屋・広島・福岡・那覇」での追加講演が決定しています。開催までまだ日はありますが、秋葉原および大阪での講演は大変好評だったとのことなので、興味のある方は早めに申し込みをしておくのが良いかもしれません。
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