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モデル:イズ , 写真:なわこ
「東方Project」のキャラクターを再現するコスプレ衣装に電飾を加え、スマートフォンと連動して発光や色合い、明滅などをデジタルで管理。その大胆な手法と演出力で彩られた“比那名居天子”や“聖白蓮”が発表された際は、見事な出来映えに同作のファンも驚くほどでした。
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モデル:そうび , 写真:ツッペ
また“アルトリア・ペンドラゴン”とプロジェクションマッピングを組み合わせ、彼女が持つ聖剣「エクスカリバー」の斬撃などを再現。多彩な技術に支えられて生み出された映像を見れば、コスプレにおける表現がまた一つ新たな境地を迎えたと感じさせられます。
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モデル:DaLi
これらの作品は、技術サークル「テクノアルタ」に所属する静丘氏や五味氏が中心となり、オンライン上での活動を通して生み出されてきたものです。各作品のひとつひとつを見るだけで、発想の豊かさや技術力の高さが伺えるものばかり。過去取り上げた記事でも、読者の方々から高い注目を集めました。
そこで今回は、「オンラインで活動しているテクノアルタだからこそオンラインでインタビューするべきでは?」という考えのもと、静丘氏と五味氏にSkypeでインタビューを実施。モノ作りにおける姿勢や「テクノアルタ」を立ち上げた理由などを伺いました。
「テクノロジー」×「コスプレ」で、新たな表現を生み出す──想像するのは簡単ですが、創造へと繋げるのは容易いことではなく、そして実現ともなればその壁は更に高いものとなるでしょう。どのようなモチベーションやこだわりが、彼らを突き動かしているのか。その背景を垣間見てください。
聞き手:山﨑浩司
書き手:臥待 弦
──本日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介からお願いします。
静丘氏:静丘です。本業は電機メーカーの方で、電気製品のエンジニアをやっています。「テクノアルタ」の活動は、本業とは完全に別な形で取り組んでいます。
五味氏:五味です。石川に住んでおり、地元企業でエンジニアをしたり、神奈川の会社でリモートワークをしたりしていましたが、今はフリーランスという形で働いています。
──早速ですが、「テクノアルタ」を立ち上げた背景を教えてください。
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静丘氏:「会社でも個人でも作れないようなものをどうやって実現するか」という考えから、私ともう一人のエンジニアが一緒に立ち上げたサークルが「テクノアルタ」です。一番最初に作ったのは、冷蔵庫を開けると色々喋ってくれるガジェット「冷えミク」ですね。
──「冷えミク」も様々なメディアで取り上げられましたよね。
静丘氏:仕事しながら趣味を続けるというのは、なかなか大変なんですよね。なので、両立を目指して作ったのが「テクノアルタ」なんです。
──「冷えミク」に限らずですが、「テクノアルタ」以外の方々も数多く制作チームに参加されていますよね。どのような形でクリエイターを集めたのでしょうか。
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静丘氏:「冷えミク」に関しては、募集を行ったというよりも、「こういうのを作りたい」という人たちが集まったという感じですね。Twitterで反応してくれた人とか。
あと、メインでプロジェクトを進めていたもう一人の方がすごく「初音ミク」好きで「ユビキタスミクの時代を作りたい」と言っているくらいで。ミク関連のクリエイターについても熟知されていたんです。その線を辿る形で、こちらからお願いしてチームに加わっていただいた方もいます。
──「テクノアルタ」の方が中心となり、オンラインを介して色々な方々が集まってチームが作られる、という形ですか?
静丘氏:そうですね。「テクノアルタ」のメンバーだけで作っているわけではなく、モノ作りがしたい人たちが集まって制作しています。また、参加してくれた方々それぞれの知り合いとも縁が出来たりして、ゲストクリエイターとして加わっていただけることもありますね。
──モノ作りの発端やきっかけなどは、どんな形ですか?
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静丘氏:ケースによって様々ですね。“比那名居天子”の時は、「スカート光ったら格好良くない?」というレイヤーさんの一言がきっかけでした。そこから、「実現するにはどうしたらいいか」を考えていき、それぞれの専門家が「その部分なら作れるよ」と協力するような形で制作が進んでいきます。
──“聖白蓮”の場合はどうでしたか?
静丘氏:“聖白蓮”は、知り合いのレイヤーさんが「魔神経巻が光ったらカッコいいよね」と言われまして。
──レイヤーさんのご意見が多めですね(笑)。
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静丘氏:(笑)。その挑戦はエンジニアとして面白いところがあるので、突きつめてやっていこうという形で始まり、技術的な問題などは専門家の方に相談しながら進めました。その意味では、どの作品もクリエイター同士のコラボレーションと言えます。
──繋がりが更なる繋がりを呼び、モノ作りの幅がどんどん広がっていくんですね。
静丘氏:インサイドさん含め、色々なメディアさんに取り上げて頂いたのも、より広がる要因になっていると思います。ありがとうございます。
──そう言っていただけると、こちらこそ光栄です。ちなみに、“比那名居天子”や“比那名居天子”の制作期間はどれくらいでしょうか?
静丘氏:“比那名居天子”が3ヶ月ほど、“聖白蓮”が4ヶ月くらいですね。
──制作した際の費用を伺ってもよろしいですか?
静丘氏:実は、純粋に予算などを見積もったことはないんですよ。「ここは自分が協力するよ」みたいな形で、手弁当でやっているというのが現状ですね。
五味氏:まともな会社だと出来ないような制作体制ですね(笑)。
静丘氏:原価だけを計算すると、皆さんが想像するよりきっと安いと思います。例えば電飾天子では、衣装は原価で2万円くらい。そこに基板やらなんやらも足していくと、5万~6万ほどかなと思います。
──電飾部分などを含めても、原価でそれくらいなんですね。
五味氏:レーザーカッターの加工なども含めて、そんな感じです。
静丘氏:(手弁当なので)「なんでそこまでやるんだ」とかよく言われますね(笑)。
──でもそれって、ある意味最高の褒め言葉ですよね。
五味氏:はい、褒め言葉と思って受け止めています。
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──コスプレ衣装を制作する上で、レーザーカッターや3Dプリンターの導入は、珍しいケースなんでしょうか?
五味氏:世界的に見れば、当たり前になってきているんじゃないかなと思います。以前と比べると購入もしやすくなりましたし、使用できる環境も整ってきていますしね。コスプレで使う人はまだ限られているかもしれませんが、誰でも使えるようになってきているので、使う人はどんどん増えていくかなと。
静丘氏:ただ、3Dプリンターを使って一定以上の基準で綺麗に造形するのは、やはりノウハウが必要なんです。その点について我々は、スペシャリストのDaiさんが協力してくれているので、とても助かっています。彼はずっと昔から3Dプリンターが大好きで、3Dプリンターが流行る前から「コスプレと相性がいい」と主張してきた人物なんですよ。
──先見の明がある方なんですね。ちなみに、どこにお住まいの方なんですか?
静丘氏:沖縄なんです(笑)。
──沖縄!(笑)
静丘氏:なので、沖縄でモデリングされたデータを、私がいる滋賀や五味がいる石川で出力できるんですよ。私や五味も3Dプリンターを持っているので。
──距離を無視できるのは、オンラインによるモノ作りの恩恵ですね。
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静丘氏:実際に3Dプリンターで出力することで、基板が入るかどうかを実際に確認できますし、修正が必要な時もより的確に伝えられます。その都度郵送などをしていたら、3ヶ月とかで制作するのは無理ですね。
──全員が一箇所に集まってモノを作るのが効率的かなと思っていたんですが、そうでもないんですね。
静丘氏:モノ作りをする時、近くにいた方が楽なのは確かなんですが、「テクノアルタ」で取り上げるプロジェクトは、近くにいる人たちがこぞって参加する、みたいなものにはならなんですよね。「コスプレとスマホを連動させて、3Dプリンターで作ろう」という呼びかけを会社で行っても、誰も賛同してくれないと思います(笑)。
でも、日本全国に向けて投げかけたら、「面白そう」と言ってくれる人が結構たくさんいて。その距離を埋めるための手段は、今はいくらでもありますから。
──先ほど伺った、3Dプリンターのデータのやり取りも、距離を超えて短時間で実物を共有できる手段ですよね。
五味氏:あと、余暇でできるというのも、大事な点だと思います。静丘もそうですが、生活を安定させるために会社などで仕事をしつつ、ライフワークとしてモノ作りを楽しむ。
──そういったライフスタイルとオンラインを介する手段は、相性がいいわけですね。場所に縛られないことで、より自由に動けると。
静丘氏:もちろん、その事で苦労する面もありますが、それを如何にクリアしていくかというのが私たちの共通のテーマですね。
──その苦労する点について、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?
五味氏:どうしても“趣味”としての取り組みになってしまうんですが、「"趣味"だけど最後まで作りきってくれる人」ってなかなかいないんですよね。やる気があって、モノを作る過程でモチベーションを高めていき、最後まで勢いのある状態で走り抜けてくれるような人が。
静丘氏:オンラインで繋がり、時に相手の顔も見えず、また仕事ではなく趣味でやるとなると、モチベーションの保ち方が課題になるんですよ。人によってその拠り所は違うので、どうやって同じ方向を向いて作っていくかが大変なところですね。
テクノアルタはFacebookグループで作業の情報共有をしているのですが、「進捗を管理する」という考え方ではなくて、「進捗を共有する」というやり方を取っています。「今こんなことやってるよー」とゆるく報告をしあうと「あ、俺も頑張らないと」となる。やりたくなる雰囲気作りを大切にしています。
五味氏:全体の進捗が悪かったら、こちらから進捗を出して、進めるよう促しています。
──メンバーが集まってビデオ会議などすることはあるのでしょうか?
五味氏:必要なときだけですね。基本的にはFacebookだけです。
静丘氏:私は、ご一緒する前に直接お会いすることはあります。その時にモチベーションの軸のようなものを共有するようにしており、そこが分かれば基本的にオンラインのやり取りで進めていくことができます。
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──何かあっても、その都度会うような形ではなくオンラインで調整できるのは、関わる皆さんの見ている方向が同じだからですかね?
静丘氏:そうだと思います。
──ちょっとした口論になるようなことは、ありませんか?
五味氏:しょっちゅうケンカになるよね(笑)。
静丘氏:五味ともよくケンカをするんですけども(笑)、ケンカができる関係性だと思っているからなんですよね。
──信頼できる関係が前提としてある、と。
静丘氏:いいものを作りたいというのは皆さん一緒なので、それぞれが意見を出しつつ、その中で自然と折り合いがついていく感じです。
──共通の目的意識がある強みですね。逆に、会社だと案外難しかったりしますし。
静丘氏:だからこそ、「やること」と「やらないこと」はすごく絞ったりしますね。ワクワクしていないことって続かないので、「みんながワクワクしているか」は常に気にしています。「売れそうだから」「ウケそうだから」とかを考えると、全然違うところにモチベーションが移ってしまい、ともすれば「なんのためにやるんだろう」と目的を見失いかねません。
例えば、先日のプロジェクションマッピングの件なら、「アルトリアを現界させたい」という五味の想いがありまして(笑)。そして、それに対して「面白いね」と思ってくれた人たちが集まって、作り上げることができました。