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先日行われた「東京ゲームショウ2017」にて発表された、PS4ソフト『project one-room(仮)』。しかし本作にとっての最初の告知は、驚くほどささやかに、そしてひっそりと行われました。
『project one-room(仮)』に関する事前告知は行われておらず、セガゲームスブースの一角にて、パネルとモニタが1台あるのみ。そのモニタには、本作のティザームービーと、対談映像が流れているのみでした。そのティザームービーも、ゲームの詳細については一切触れていません。
しかし、そのティザームービーをよく見てみると、『ルーマニア #203』との関連性が示唆されています。『ルーマニア #203』は、「部屋の住人・ネジタイヘイの人生に干渉する」というユニークな切り口と卓越したセンスで、当時のゲームファンの記憶に残った個性作。後に、PS2に続編が登場しましたが、更なる最新作の登場かと期待が高まります。
対談映像も、『ルーマニア #203』の企画・原案であり、「Serani Poji」のひとりとしても活躍したササキトモコ氏が出演しており、これで『ルーマニア #203』と無関係と思う方が難しいほどです。しかし、この時点で担当の方に話を聞いても、「本作のステージイベントが予定されているので…」と明確な回答はいただけません。
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そこで本作の核心に迫るべく、同じく「東京ゲームショウ2017」にて実施されたステージイベントに足を運びました。壇上にはMCのほかに、前述のササキトモコ氏、そして本作を開発しているプロデューサー、フリューの大地将氏が姿を現し、早速本作の概要に迫ります。
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ステージイベントの開幕早々に、大地氏が「(本作は)『ルーマニア #203』をリスペクトした作品です」と宣言。大地氏は元々『ルーマニア #203』の熱烈なファンであり、かつてゲーム雑誌のライターを務めていたとのこと。そして当時、『ルーマニア #203』のファンブックを作る話が持ち上がったものの、残念ながら実現は叶わなかったと明かします。
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ファンブックを実現できなかった大地氏は、「いつか、(『ルーマニア #203』に関連する)何かをやってやろう」と決意。その想いが時を経て、『ルーマニア #203』リスペクトを公言する作品『project one-room(仮)』の立ち上げに繋がったと語りました。
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『ルーマニア #203』をリリースしたセガ(現在のセガゲームス)に話を通しているのはもちろんですが、その前に大地氏は『ルーマニア #203』を手がけたササキトモコ氏に本作の話を持っていったとのこと。ササキトモコ氏、そしてセガゲームス、どちらか片方の協力が欠けてもダメだったと話し、万全の態勢を整えた制作であることを伺わせます。
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東京ゲームショウのステージに立つのは、かなり久しぶりと明かすササキトモコ氏。しかも以前登壇した時は、『ルーマニア #203』ではないタイトルだったため、『ルーマニア #203』関連で東京ゲームショウのステージに立つのは今回が初。「当時の自分に教えてあげたい」と、感慨深さを表現しました。
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『ルーマニア #203』の舞台となる部屋の住人、ネジタイヘイ。彼は、放っておくと何もせず、ただただ日々を無為に過ごします。そんな彼の部屋にアクセスすることで、例えばTVや本に興味が向き、少しずつ彼の人生が変わっていく──そんな「干渉」と「観察」がクセになる『ルーマニア #203』を生み出すきっかけとなったのは、ササキトモコ氏のアイディアでした。
もっともササキトモコ氏自身は、「最初のワンアイディアだけ。セガのスタッフたちがゲームにしてくれた」と謙遜。作中の流行歌を手がけてる、という設定だった「セラニポージ」のひとりとして、音楽面でも支えたササキトモコ氏ですが、その功績も自ら能弁に語ることはせず、コメントもあくまで謙虚。その人柄が垣間見えるようです。
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『project one-room(仮)』では、なんと「セラニポージ」も復活。本作のための新曲がいくつも用意されており、早速「箱の中の女の子」という曲を披露。あるシナリオのテーマ曲で、歌詞には「愛と別れ」「彼はこっちを見ている」など、気になるキーワードが散りばめられており、ササキトモコ氏曰く「(この曲は)キャラクターとプレイヤーの関係」をモチーフにしているとのこと。
ゲームが終わると、電源を切って去っていくプレイヤー。それを見送るキャラクターは「もう終わりなの?」とイライラしたり、「また来てくれるかな?」と期待したり、「もう来ないのかな? 永遠のバイバイなの?」と不安を感じたりと、様々な感情が交錯。そんな女の子の心情が綴られる、まさしく「箱の中の女の子」というタイトル通りの曲になっています。
この「箱の中の女の子」をはじめ、シナリオごとにセラニポージの新曲が当てられていると大地氏は明かし、すでに何曲かもらっていると告白。「minotake」という曲では、人類が滅びたあとに集団意識を持つ未知の生命体が誕生したという設定で、その中の意識のひとつが旅立ちを決意し、マザー的な存在がそれを応援するという。SF的な世界観も得意とする、セラニポージらしさ溢れる1曲になる予感を覚えます。
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『project one-room(仮)』では、あの「セラニポージ」の新曲をふんだんに取り入れ、『ルーマニア #203』への最大限のリスペクトも公言。「同じシステムでゲームを作っている」と大地氏はコメントしており、コンセプト、ゲーム性、音楽と、いずれも『ルーマニア #203』の系譜と言えるものになっています。ですが大地氏は、本作は「『ルーマニア #203』のリメイクや続編ではありません」とも明言。
その理由として大地氏は、「(オリジナル版を作った方と)違う人が『ルーマニア #203』を作る、というのは非常にモヤモヤする。だからこれは、完全新作です」と説明し、『ルーマニア #203』を愛するからこそ守るべき一線を自らに課す姿を見せました。
また、「他のヤツが(『ルーマニア #203』のようなゲームを)作るのも、どうかと思った。でも、誰かが言わないと(『ルーマニア #203』の新作が)出てこないから」と胸の内を明かします。愛したゲームに敬意を払いたい。好きだからこそ、あの魅力を持つ新作が遊びたい。その心理は複雑かもしれませんが、決して相反するものではなく、それを実現しようと立ち上がった大地氏はゲームクリエイターであり、同時に『ルーマニア #203』を愛するひとりのファンという両方の立場を抱えているのでしょう。
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ササキトモコ氏は、『ルーマニア #203』を開発したメンバーがセガゲームスに2~3人しか残っていないという現状を明かし、(『ルーマニア #203』のような)ああいう変わったゲームはもう出ないと諦めていた」と述べ、だからこそ大地氏の活動的な熱意に感激したとコメント。新たな楽曲を提供する立場にいながら、「開発チームを応援してあげてください」と、ここでも自身よりも他のメンバーを気にかける一面を魅せました。
大地氏とササキトモコ氏の想いに溢れたステージイベントからは、『project one-room(仮)』に対する熱意がこれでもかと伝わるひとときを経て、幕を閉じます。ですが、本作の躍進はまさにこれから。本作のキャッチコピー「いってらっしゃい、またあとで」の言葉は、遠くないうちに訪れる出会いの日を暗示しているようにも感じられます。
待ちきれないという方も多いことと思いますが、本作のティザーサイトが公開されているので、まずはそちらをチェックしておきましょう。サイト内のラジオにアクセスすると、「箱の中の女の子」の一部を試聴することができるので、どうぞお聞き逃しのないように。
■『project one-room(仮)』
URL:http://www.cs.furyu.jp/oneroom/