登壇したのは堀井雄二氏に加え、スクウェア・エニックスから『DQXI』プロデューサーの齊藤陽介氏、ディレクターの内川毅氏、テクニカルディレクターの紙山満氏、そしてPS4版『DQXI』プロデューサーの岡本北斗氏。『DQXI』メインスタッフによる、講演の様子をお届けします。
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写真左から、紙山氏、内川氏、堀井氏、齊藤氏、岡本氏
◆『DQXI』の開発にUnreal Engine 4を起用した理由
内川氏:最初にUnreal Engine 4を使うことを提案したのは紙山さんでしたよね。どういった経緯だったのでしょうか?
齊藤氏:他のゲームエンジンを使うという選択肢もあったよね。
紙山氏:最初は社内のゲームエンジンチームにも相談させてもらったのですが、当時はちょうど他タイトルの繁忙期と重なり、しばらくは充分なサポートが難しそうという話になりました。
サポートがもらえないと大変ですので、それなら外部のゲームエンジンかな……ということになるのですが、そうなると選択肢は、Unreal Engine 4か、“Uがつくあのエンジン”くらいしかないわけです。その二つを比較した結果、少なくとも当時はUnreal Engine 4の方がハイエンドのコンソール用のゲームが得意そうだ、となったのが理由です。
堀井氏:それで、Unreal Engine 4で『ドラゴンクエスト』を作るとどうなるかを確かめるために、まずは『DQIII』のアリアハンの町を作ったんだよね。ちゃんと町の人々がいて、セリフもしゃべってくれるという。ファミコンのときはマップを描いて、そこに人を配置して……と一つひとつ手作業だったので、ツールでできるのはいいよね。
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『DQXI』開発に先立ち、Unreal Engine 4でまずは『DQIII』のアリアハンの町を作ったと語る堀井氏
齋藤氏:そうして、日の目を見ないアリアハンの町ができたと。
堀井氏:実は、これも出しちゃおうかという話もあったんだけどね(笑)。
岡本氏:僕は出してもいいのではと言っているのだけど、紙山が「これは見せてはいけないものです」と(笑)。
内川氏:あくまで、テスト用としてのものではありますしね。
◆ペルーへの取材旅行の思い出
内川氏:『DQXI』の世界観を固めるため、僕と堀井さん、紙山さんでペルーに取材旅行もしましたね。
堀井氏:マチュピチュだね。
岡本氏:なぜマチュピチュを選んだのですか?
堀井氏:僕が行ってみたかったから(笑)。こういう機会でもないと、なかなか行けないかなと。
紙山氏:今日はそのときの写真を持ってきました。ペルーの風景が、このようにゲーム制作に生かされています。ただ、みんな高山病になりかけて大変でした(笑)。
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取材旅行では、僕と堀井さん以外がみなさん喫煙者だったこともあって、なにかにつけて僕と堀井さんだけが置き去りにされるなんてこともありました(笑)。そんなときには、堀井さんと「ふっかつのじゅもん」の仕様の話などもさせていただきました。
サーバーを介すれば行き来させるセーブデータの情報量は多くできますが、そもそもPS4版と3DS版では絶対同じゲームにはならないわけです。そこをどうしましょうかと堀井さんにご相談したら、「(セーブデータで行き来させる情報は)大体でいいんだよ」と言っていただけたのが印象的でした。「その方が、おたがいのハードで好きなように作れるでしょ」と。
岡本氏:堀井さんは当初から「“じゅもんが ちがいます”をやりたい」と言っておられましたよね(笑)。それと、「初代『DQ』と『DQII』のときのじゅもんが使えたらいいよね」というのと、紙山が今話した「大体合っていればいい」。その3点でした。
◆紙山氏、『ドラゴンクエスト』愛を大いに語る
紙山氏:実は、高校生のときにシャープの「ファミコンテレビC1」で初代『ドラゴンクエスト』を映して、それを目で見てコピーしたゲームをX68000で作ったんです。その後……おそらく1995年くらいだったと思いますが、当時、スクウェアの求人に応募したら「これまでに手がけた作品があったら送ってください」と言われたので、何を思ったのかそれを送っちゃいまして。
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半年かけて初代『ドラゴンクエスト』を“目コピー”した思い出を語る紙山氏。根を詰めすぎて、視力が0.5近く下がったとか!?
内川氏:スクウェアにドラゴンクエスト(のコピーゲーム)を送っちゃったんですか!?(笑)
紙山氏:そのとき『FF』でメインプログラマーをしていた成田賢さんが面接してくれて、開口一番「よくこれをウチに送ってきたね」と(笑)。案の定、面接は落ちました! そんなこともありましたが、今こうして『ドラゴンクエスト』に関われてすごく幸せです。そういえば、当時発見した、おそらく誰も知らないであろう『ドラゴンクエスト』の秘密をここで紹介したいと思います。
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A~Dのうち、ひとつだけおかしな画像がありますが、どれか分かるでしょうか? 実は、右上の「B」の画像でだけ、文末の「。」に半濁点が使われているんです。
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「よい」と「。」の間に不自然なスペースがあることにお気づきでしょうか
当時は、例えば「1」に「勇者」という言葉を設定して、会話で出てくるたびに辞書を引くように引っ張ってくる……というようなことをしてテキストの容量を節約していたんです。ということは、大元の設定を間違うと、該当するすべての文章が間違ってしまうわけです。
この場合は「~よい。」という文章の末尾に使われる句点の設定を間違えてしまったために、ゲーム中のテキストにすべてその間違いが適用されてしまったわけですね。当時の紙山少年はそれに気がついて、「こうやってテキスト容量を圧縮しているんだな」と感銘を受けた……というお話でした(笑)。
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紙山氏の解説による、初代『ドラゴンクエスト』を“目コピー”した際に気づいたというテキスト節約術
◆PS4版:“井戸ルーラ”のこぼれ話
岡本氏:開発当時は堀井さんが、昔は容量を削るのが大変だったけど今は大量のデータによる読み込み時間を縮めるのが大変なんだと知って感銘を受けておられましたね。
堀井氏:PS4版の“井戸ルーラ”とか、まさにそうだったよね。
齊藤氏:当初は、PS4のグラフィックで大きなマップを読み込むのはどうしても時間がかかってしまうので、ルーラを使ったら一度井戸のような小さいマップに飛ぶようにして、外に出るまでの間に大きなマップのデータを読み込めばいいのでは、と考えていたんです。なので、通称“井戸ルーラ”と。
紙山氏:業界用語でいうならクランクですね。それを『ドラゴンクエスト』ならではの井戸でやってしまおうと。でも、やっぱり実装してみると違和感があるんですよ。そもそも、3DS版はそういう仕様にはなっていないわけですしね。そんなとき、昨年末にEpic Gamesさんがお力添えしてくださったおかげで読み込み時間をグッと短くできて、年明けには「井戸ルーラはなくしましょう」ということになりました。
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“井戸ルーラ”をなくすことができてよかった、と岡本氏
◆3DS版:3Dモード・2Dモード誕生秘話
内川氏:3DS版の制作も決まった当初は、3Dモードと2Dモードを任意に切り替えるゲーム性で遊ばせようかというところからスタートしました。でも企画会議で、上画面と下画面を使って、3Dと2Dをいっぺんに見られたらもっと楽しいのではという案が挙がって。
紙山氏:挙がったのはいいものの、そのときは「そうできたらいいよね」で終わっていましたね。大変なのは分かっていましたから「もし最初から最後までそういう仕様にしたら、発売するころには東京オリンピックが開幕してしまいます」と(苦笑)。
堀井氏:でも、ためしにやってみたら3Dと2Dが本当にうまくリンクしたよね。
内川氏:そうして、堀井さんから「序盤はお試しで3Dと2Dを同時表示して、以降はプレイヤーに切り替えてもらおう」とご意見をいただきました。
齊藤氏:マップの縮尺をあわせたり、移動速度を調整したり大変だったよね。
内川氏:作っては直し、作っては直し……の繰り返しでした。
紙山氏:でも『ドラゴンクエスト』のナンバリング制作というのは、いわば“お祭り”ですので。やりたいことをやりつつ、間に合わせるしかないんです。僕はもう、途中からそういう風に考えていました(笑)。
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3DS版の3Dモードと2Dモードを同期させるときの苦労を振り返る内川氏
◆『DQXI』スタッフからのメッセージ
岡本氏:それでは最後に堀井さんから、ふだんどういう思いでゲームを作っているのか、どういう姿勢で向きあっているのかをひと言いただければ。
堀井氏:『DQXI』では、Unreal Engine 4という便利なツールが使えることがまず最初に決まって。その次に考えるのは、それをどう使えばお客さんが「おお!」と驚いてくださるか、だよね。そのときできることを考えながら、常にその一歩上をいくようにすること、かな。
岡本氏:制作時は、みんながつねに同じ方向を向いているわけではないので、僕と内川であっちがいい、いやこっちがいいと意見が分かれることもありました。そんなとき、堀井さんはいつも「わかった、それならこうしよう」と解決案を提示してくださいましたね。
内川氏:根本がダメでなければ、きちんとアイディアを拾って生かしてくださるんですよね。しかも「それではダメだから違う案を考えてね」ではなく、その場で解決するアイディアを提示してくださるので、入社してから10年以上、堀井さんにはいつも驚かされっぱなしです。
齊藤氏:もし技術的に実現するのが難しいことでも、諦めるのではなくて、それに近いところを実現するにはどうすればいいかを提示してくださいますね。
堀井氏:“大体できればいい”んだよ。遊んでくださるみなさんは、そこにはあまりこだわりがないと思うんだよね。大体できれば楽しんでくださるだろう、というところをいかに提供するか。
齊藤氏:自分からは言いたいことがひとつあって、今日の講演で、紙山がいかに『ドラゴンクエスト』を好きであるかというのは伝わったのではないかと思います。そして、やっぱりこういう「好きだ」という気持ちは大切だなと。好きじゃないと、(開発中の)最後の一番苦しいところを乗り越えられないんですよ。
堀井氏:いろいろなことができて、いろいろな楽しみがあって。ゲームはやるのも楽しいし、作るのも楽しいですね。今日は開発者の方も多いということで……Unreal Engine 4は(ゲームの)世界を構築できる、とても便利なツールです。それを使って、楽しめる世界を見せてもらえればうれしいです。
◆こぼれ話:Switch版『DQXI』続報!
基調講演のさなか、堀井氏に「すでに発表しているもうひとつの『DQXI』のお話はどうしましょうか」と話しかける岡本氏。すると堀井氏が「そっち(Switch版『DQXI』)もUnreal Engine 4を使っているという話はしちゃってもいいのかな?」とポロリ! 岡本氏が「もう、しちゃってるじゃないですか!」と苦笑するなか、Switch版『DQXI』はPS4版と同じくUnreal Engine 4で制作されているという最新情報が明らかになりました。
紙山氏によれば、Unreal Engine 4がSwitchに対応したのがVer.4.15からであるのに対し、PS4版はVer.4.13で制作されているとのこと。さらに岡本氏によると「バージョンがひとつ上がると、なんだかんだで一ヶ月くらいはトラブルが出ます」とのことで、PS4版が完成しているとはいえ、Switch版の開発も容易にできるわけではないとの事情も明らかにされました。続報を楽しみに待ちましょう。
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Switch版の開発は容易なことではありません、と念押しする齊藤氏
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