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吉本興業が手掛けるe-Sportsチームとリーグの運営とは?「吉本興業e-Sportsセミナー」レポート

さまざまなゲームタイトルのプロプレイヤーを抱えるだけでなく、『League of Legends』の日本リーグ運営にも関わる吉本興業が、e-Sportsセミナーを開催。その内容をレポートします。

ゲームビジネス その他

2018年にe-Sports分野へ参入し、驚きとともに迎えられた吉本興業。芸能事務所では初となるe-Sportsプロチームを立ち上げ、わずかな期間で『ストリートファイター』シリーズや『ウイニングイレブン』『シャドウバース』など、ゲームジャンルを問わずさまざまなプロプレイヤーを抱えるまでに成長しています。

その吉本興業がe-Sportsのセミナーを開催しました。市場動向に始まり、吉本興業がこれまで行ってきたチーム運営やリーグ運営といった活動内容を報告。さらに協力会社やスポンサーも加わり、それぞれの目線でのe-Sportsが語られました。

日本のe-Sports市場の現在


まずは、本セミナーでモデレーターを務めた森元行氏(株式会社イード メディア事業本部 副本部長)から、現在のe-Sports市場動向が報告されました。

森元行氏

e-Sportsの市場規模とユーザー層


ゲームタイトルを用いた大会や対戦の総称として定義できる「e-Sports」。世界におけるオーディエンス(競技者含む)は、2018年に約3.8億人、2021年には約5.5億人にのぼると言われています。一方、日本国内でのe-Sportsファンは2018年で約380万人、2022年には約780万人になると予測されています。

ワールドワイドでの市場規模は、2018年に約18億ドル、2022年には約23億ドル。日本でも2018年に約50億円、2022年には100億円に近い規模まで成長が見込まれている市場です。

国内でのe-Sports認知者は、男性が約6割、女性が約4割という構図に。ユーザー属性は20代男性がメインとなっており、他のスポーツと比べると年齢が若い点が特徴です。

マネタイズの方法


市場のマネタイズポイントは、現状スポンサーが大きな割合を占めています。その中で、有名企業のスポンサードも少なくありません。

例えば、格闘ゲームの祭典「EVO Japan」には日清カップヌードルが、野球ゲーム『実況パワフルプロ野球』の大会「e日本シリーズ」には三井住友銀行が、全国高校e-Sports選手権にはDENSOがスポンサーとなっています。

大会以外にも、e-Sportsチームをスポンサードしたり、ゲームタイトルとパートナー契約を結び、ゲーム内にブランドの世界観を表現したアイテムを登場させるといった形も。さらには国体文化プログラムとして採用されるなど、e-Sportsはさらなる広がりを見せます。

こうしてe-Sportsが広がる要因として、リアルイベント(オフライン)だけでなく、インターネット(オンライン)を通じて多くのユーザーにアプローチできる点が挙げられます。また、年齢、性別、障害、場所の制限がなく、誰でも参加できることも、e-Sportsの大きな長所です。

「ゲーム実況」の市場


ゲームには、他人のプレイを見るという独特の文化があります。いわゆる「ゲーム実況」ですが、このゲーム実況市場も成長しているのです。

Twitch Japanの中村鮎葉氏によると、ゲーム実況の1年間での視聴時間(ライブ配信のみ)は、北米で900億分(約17万1,232年)、欧州で1,000億分(約19万258年)、日本では400億分(約7万6,103年)。このうちe-Sportsは15%ほどと、大きな割合を占めています。また日本も単一言語でここまで長くなっているため、大きなポテンシャルを秘めていると言えるでしょう。

中村鮎葉氏

吉本興業がe-Sportsに参入した理由


多くの人々が気になるであろう吉本興業のe-Sports参入の経緯。現在、株式会社よしもとスポーツで代表取締役を務める星久幸氏は「僕らにとっては普通のこと」と話します。

星久幸氏

吉本興業は、タレントマネジメントやライブの企画制作、劇場運営、スポーツビジネス、書籍やDVDといったパッケージ制作を行いながら、タレントの活躍の場を作っています。メディアや若者の行動が変わっていく中、新たなタレント活躍の場としてゲーム業界を開拓することとしたのです。同社はイベント運営や映像制作のノウハウを持っているため、配信や動画制作を含めた、e-Sportsに関わるすべての事業領域を自社でカバーしつつ、ビジネスエコシステム(複数の企業・団体がそれぞれの技術や強みを活かしながら共存共栄する仕組み)を構築しようとしています。

2018年から吉本興業でe-Sports事業を担当し、現在はよしもとスポーツに籍を置く山本英二郎氏は、2013年にプロゲーマーのマネジメントとe-Sportsイベント制作を行うベンチャー企業を立ち上げました。当時、さまざまな企業からe-Sportsに関する問い合わせを受ける中、吉本興業だけが予算や実施したいことなどのビジョンが具体的だったと話します。

その後、吉本興業は以前からプロゲーマー活動を行っている芸人を集め、プロゲーミングチームを設立。さらにはまちゃぼー選手、うでぃ選手といった、世界でも活躍している選手の獲得にも成功しています。

吉本興業にジョインした山本氏は、キャスターのマネジメントも提案。プロゲーミングチームにはさまざまな企業や団体が参入し、競合他社も多いものの、ゲーム大会につきものである実況・解説のマネジメントに乗り出しているところはほぼなく、さらに吉本興業の“十八番”ということで、積極的に行っているそうです。

山本英二郎氏

プロゲーマーにフォーカスしたTV番組を展開したり、東京ゲームショウでタレントを稼働させたりと、吉本興業は芸人を活用したe-Sportsの取り組みも盛んです。ゲーミングチームを立ち上げてから、インパルスの板倉俊之さん、霜降り明星の二人など、所属タレントが多くのイベントに呼ばれるようになりました。

また、同社はイベントそのものの運営にも取り組んでいます。Aichi Sky Expoのオープニングイベントとして、e-Sportsとライブエンタテインメントの祭典「AICHI IMPACT! 2019」を開催し、3日間でのべ3万5千人を集客。タレントはもちろん、『グランツーリスモ』『シャドウバース』『フォートナイト』といったタイトルのプロゲーマー、YouTuberにも参加してもらい、地方の集客策としてe-Sportsが非常に有効であることを示しました。

「AICHI IMPACT! 2019」は行政との取り組みでしたが、メーカーとのイベント制作も行っています。ガンホー・オンライン・エンターテイメントのタイトル『パズル&ドラゴンズ』のイベントや、『PUBG Mobile』の日本代表決定戦などの企画・制作業務を請け負っています。

その他にも、世界で最も高額な賞金がかけられる『Dota2』のe-Sportsシーンにも参戦。フィリピンにプロゲーミングチームを設立し、ゲーミングハウスも用意して環境を整いながら戦いましたが、世界の壁は厚く、惜しくも撤退。海外のプロゲーミングチームの運営が、日本より先行していることを実感する結果となりました。

『League of Legends』のリーグ運営


プロゲーマーやプロゲーミングチームはゲームファンにとって距離が近い存在のため、イメージもある程度しやすいと思います。では、リーグ運営の実態はどういったものなのでしょうか。

このテーマでマイクを持ったのは、世界的MOBAタイトル『League of Legends(LoL)』のジャパンリーグ運営に携わる、株式会社プレイブレーンのプロデューサー・高相恵介氏。同作のジャパンリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」は、プレイブレーンと吉本興業、ライアットゲームズの3社によって運営されています。

高相恵介氏

LJLは1年間に春大会と夏大会が行われる二期制で、全8チームによる3回総当たり戦が行われます。各シーズンの優勝チームに賞金1千万円が用意されるほか、毎週の最優秀選手にも賞金が贈られています。会場は東京・渋谷にあるe-Sportsの拠点「よしもと∞ホール」です。

LJLのView数は年々上昇しています。1試合を10万人ほどが閲覧しており、年間トータルでは530万人ほど。視聴時間を元にサードパーティが出した日本のe-Sportsランキングでも、『LoL』はTier1に属しています。

代表チームを応援するために、国際大会を見る人も増えてきました。国際大会は各シーズン終了後に行われ、最も規模が大きいのが「Worlds」という大会。2018年のWorld Championship Final(決勝)は全世界で9,960万UV、最大同時視聴者数4,400万人、平均視聴者数/分は1960万と、驚異的な数字を叩き出しています。

LJLの来場者層は18歳~34歳が大半で、男性が8割、女性が2割。ただ、女性の割合は年々上がってきています。選手たちもアイドル化し始めており、会場に設けたファンボックスもプレゼントで埋まるのだとか。運営側も、選手とファンの近い距離感を保てるよう、ファンミーティングを実施しています。

LJLはファンも選手もとにかくTwitterが大好き。選手も何かあるとすぐにTwitterでつぶやき、ファンも追随するため、関連キーワードが過去に複数回トレンド入りしています。

イベントを使ってどうプロモーションするのか?


イベントが開催できるとなれば、企業側はそれを使ってさまざまなプロモーションをしたいと考えるもの。その成功例として山本氏が挙げたのが、ゲーミングチェアブランド・AKRacingと霜降り明星をかけあわせたイベントです。

このイベントでは、霜降り明星がゲーミングチェアに座ったまま、それに特化したネタを披露。YouTubeでも話題になったほか、各局の情報番組でも取り上げられました。霜降り明星はゲーム好きとして知られており、特に粗品さんは『シャドウバース』のランキング上位にも食い込むほどのゲームファン。2020年初頭に行われるイベントの総合MCにも決定するなど、e-Sportsのアイコン的な存在になりつつあります。

その他にも吉本興業は、ノヴァクリスタルがよしもとゲーミング所属のプロゲーマーにゲームを教わるなど、所属芸人とプロゲーマーを融合したイベントを実施。全国にe-Sportsイベントが増えており、集客イベントも数多く行われています。

「布団の西川」がなぜe-Sportsに参入したのか?


寝具メーカー・西川株式会社がe-Sportsへの参入を発表したのは、2019年7月。一見、あまり関係のなさそうなゲーム業界に、なぜ寝具メーカーが参入したのでしょうか。

「3~4年前に興味をもった」と話すのは、西川株式会社で営業企画統括部に所属する須藤健二朗氏。Jリーグクラブがe-Sportsチームを発足するなどの動きでe-Sportsを認知し、世界のオーディエンスが将来的に5.5億人にのぼるという規模に魅力を感じたといいます。

須藤健二朗氏

須藤氏が選手やゲーマーと話してみると、睡眠時間をあまり大事にしていないことがわかりました。その現状を受けて、若年層に西川を知ってもらうのはもちろん、ゲームで集中力を保つために睡眠を大事にするという「眠りのカルチャー」をe-Sports界に作りたいと考えたそうです。

須藤氏が強くアピールするのは、商品を売るよりも睡眠の重要性を伝えたいということ。睡眠とは、起きたときに次のパフォーマンスが伸びるように充電する行為です。同氏は、若い世代に、寝ることでゲームのパフォーマンスが上がることを伝えたいと話します。

そのようなきっかけを経て、吉本興業と西川は、2019年7月によしもとゲーミングの選手たちを交えた座談会を実施。西川は眠りの重要性を説いたり、プロゲーマーから商品開発のためのアドバイスを受けたりしたそうです。また、その後もEVOやLJLオールスターといったイベントでPRを実施。その結果、若年層に西川を知ってもらうきっかけが作られたほか、プロ選手からサポートしてほしいと連絡も来るようになりました。

企業とゲームのタイアップ事例


吉本興業が手掛けたもの以外にも、企業とゲームが融合した事例は多くあります。例えば、マウスやモニター、デスクトップPC、カバンをトッププロ向けにチューニングしたもの。これらはゲーマーでなくとも、ゲーム用のものを購入する傾向にあります。プログラマーや動画編集者は、PC内で大掛かりな作業や精密な作業を行うため、それに耐えうる製品を購入するために「ゲーム向け」を調べるのです。

また、若者にとっては1万円以上の買い物は“命がけ”です。壊れたり、エラーが起きたりしないものを買いたいがために、パッケージにプロゲーマーの顔が入っている「チームモデル」を購入することも。「間違いないもの」として付加価値を加えて展開できるのが、ゲーム向け製品の魅力です。

その他にも、エナジードリンク業界ではプロゲーマーをコマーシャルキャラクターにしてPRする手法が常套手段になりました。さらに専門学校のe-Sports専攻学科が、2017年発足から2年で全国8校に展開され、いずれも満員になるなど人気を博しています。これらの事例をまとめれば、ゲームはゲームだけでなく、電子機器や教育、プログラマーやクリエイターにも関わっていると言えるでしょう。

この状況に山本氏は、「少しバブルのような気配も出てきた」と警鐘を鳴らします。高額なプロモーションや高い参加料のセミナーも行われているため、情報を集めて慎重に判断してほしいと強調しました。

一方で、e-Sportsという言葉が広まる前から業界そのものはあったと話すのは中村氏。90年代から全国大会などの公式イベントが既に開催されており、国内でも20年の伝統があるので、安心して関わってほしいと話しています。

吉本興業が目指すこれからのe-Sports


吉本興業が目指すe-Sportsの形として星氏が述べたのは、ビジネスエコシステムの構築です。現在は投資の時期ですが、タレントを発掘・育成し、活躍の場を用意し、それに子どもが憧れるという流れをゲームでも作り、スター選手を創出することを目指します。

具体的な取り組みとして同氏が挙げたのはLJL。このリーグをさらに成功させ、チーム、選手への還元することを追求。さらにゲーマーやタレントが活躍できる場所を作る使命感をもちながら、少しでも業界に貢献したいと話し、セミナーを締めくくりました。
《ばかいぬ》
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