いよいよ9月も終わり!『あつまれ どうぶつの森』でも北半球は本格的に秋になってしまいますが、虫の採り忘れや魚の釣り忘れはありませんか?
よく見かけるから「いつでも採れるっしょ~!」と気楽に構えていたらいつの間にか見当たらない…なんてことは現実の魚釣りや昆虫採集でもしょっちゅうあることです。
……たとえばこの虫はもう採りました?
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イエス、タガメ。
いわゆる水生昆虫の一種で、湖沼や水田、河川の淀みなど流れの無い淡水の水辺に生息する虫です。
『あつ森』では川や池をフラフラ泳いだり岸で休んだりと、まるで魚のような挙動を見せるため、釣りをせず陸上の虫ばかり追いかけていると意外と見逃しがちかもしれません。
北半球では九月いっぱいで出現期間が一旦終了らしいですよ?急げ!
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しかし、タガメがその辺にポコポコいるなんて『あつ森』ワールドの住人がうらやましい!
個人的な話になってしまいますが、タガメ大好きなんですよ僕。だって超カッコいいじゃないですか。
漢字で「田亀」と書くだけあって、ちょっと昆虫ばなれした感すらあるボリューミーな体格。鎌状の前脚。そしてシャープな目つき…。
イカす要素しかないわけですよ。
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でも、そうそう簡単に出会える虫ではないんです…。
それこそ昔は水辺さえあればどこででも見られる虫だったようなんです。
しかし農薬の使用や河川改修、湖沼の埋め立てなどで生息できる環境が減り、今となっては限られた環境でしか見ることができません。
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そのため、今年1月には環境省により「特定第2種国内希少野生動植物種」に指定され、ひいては販売目的の捕獲や売買が禁止される事態となりました。
飼育自体は簡単なのですが、人工的な飼育環境下での繁殖は非常に難しいため「養殖した個体をペットに…」という手段も叶わなかった形です。
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また、タガメの利用に関しては愛玩目的の飼育だけでなく主に海外で食用とされている点も注目すべき点です。
東南アジアの一部地域ではタイワンタガメ(日本のタガメよりずっと大型になる種)を灯火に飛来する習性を利用して採集し、食材として活用します。
お腹の中身に洋梨のような強い芳香があることから香料的に使用されることが多いようです。
実を言うとタガメは水中生活に適応したカメムシの仲間。とあらば、特殊な匂いがするのちょっと納得ですね。タガメの場合、悪臭ではなく少なくとも我々人間にとってはかぐわしい香りなのですが(※陸生のカメムシの中にも果物ような良い香りを放つ種はいます)。
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タガメを食べる地域ではゲンゴロウやコオロギ、バッタなどさまざまな昆虫を食用としますが、その中でもタガメは特に高価な食材として珍重されています。
そういえば近年、食糧危機を救う存在として食用昆虫の普及に注目が集まっていますね。
しかし、タガメに関しては「養殖できない」「日本はおろか東南アジアでも減少傾向」などの理由から今後も変わらず、あるいはこれまで以上に希少高価な食材として君臨し続けることでしょう。
カッコよくて食べてもおいしい!んー、いい虫ですよコイツぁ!
そしてさらにもう一つ、タガメにはカッコいい個性があるんです。それは!
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不用意に触れると刺すこと!!
もちろん、向こうから人間に襲いかかってくるようなことはありませんよ?
しかし、獲物を待ち構えているタガメの前にうっかり手を差し出したりすると、エサと間違えてブチュー!
下手に掴んだりしても敵に襲われたと認識され、前脚で取り押さえられブチュー!
めちゃくちゃ痛い目を見ます…。
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そもそも、先にも触れたようにタガメは肉食性で生きた魚やカエル、ザリガニなどを捕獲して食べています。時には自分と同じくらいの大きさの獲物を手にかけることも…。
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狩りの際には針状の口器を獲物に突き立て、まず麻酔液を打ち込んで動きを止め、大人しなったところで消化液を注入して肉を溶かし飲み込むのです。
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つまり人間を刺す時もこれをやるわけですが、この麻酔と消化液という二種類の毒液を注射されると悶絶するほど痛いんです(経験談)!めっちゃ腫れますし(経験談)。
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というわけでみなさん、現実世界でタガメに触れるときは十分にご注意を!
……水辺で眺めるだけでも十分に満足できるほどいい虫なので、決して無茶はなさらぬように~。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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