秋も深まり、『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)』の世界(※北半球)の海も夏の賑やかさ、華やかさから遠のいてしまった印象です。
釣れる魚はアジ、スズキ、カレイにヒラメと定番の温帯性魚種ばかり。ああ…もうハリセンボンやクマノミ、マンボウたちの姿は見当たらない「普通の海」へ戻ってしまったのですねえ。
しかし!まだ沿岸部にはあのきらびやかな魚がしぶとく居残っております。それがこちら。
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豪華絢爛!装飾過多!
派手な魚の代名詞、ミノカサゴくんです!
ミノカサゴの仲間はまるで蓑を着ているようにワサワサしたシルエットからその名がつけられた魚です。
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各ヒレは白いフリルのように伸長し、蓑というよりまるでドレスのような華々しさ。白地に褐色のストライプ(ボーダーか?)柄は藻の生えた岩場に溶け込む保護色の役割を果たす一方で、いざという時にはヒレを広げて外敵に「警告」をするのにも役立ちます。
ん?一体何を警告するのかですって?
それは「それ以上近づくと刺すぞ!」というど直球の処刑宣告。NY市警のホールドアップにも通じるガチのマジな最後通告です。
はい、このミノカサゴというお魚はなんと背ビレに毒針を持っております。これで外敵を刺して撃退するわけです。
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もちろん対人間でも効果は絶大。刺された際の苦痛から瀬戸内の一部地域では「ナヌカバシリ(七日走り)」なる呼び名まであるとか。痛みのあまり七日間走り回る…ということらしいです。怖っ!
ちなみに、僕は以前にこの話がどこまで本当なのかわざと刺されて検証してみたことがあります(※編集注:マネしないでください)。
結果、さすがに七日間走ることはありませんでしたが、疼痛に寝つけず一晩悶絶することになりました。
ホント、精神的にクるタイプのしんどい痛みです。ゲーム中では易々と掴み掲げていますが、扱いには十分注意が必要です。
読者の皆様はリアルでミノカサゴを扱う際はどうぞお気をつけて……。
そういえばこのミノカサゴは『あつ森』内でのレア度は決して高くないようで、海辺で釣りをしていれば割と頻繁に姿を見せてくれます。
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しかし、リアルではそんなに数の多い魚ではなく、岸からの釣りでお目にかかる機会は少なめです。釣れたらむしろラッキーですよ。ダイビングではちょいちょい見かけますけどね。
なお、ミノカサゴの仲間には複数の種が存在します。本州で見られるのは多くの場合、『あつ森』にも登場する無印の「ミノカサゴ」です。しかし海流のより温暖な南日本ではミノカサゴ、ハナミノカサゴ、ネッタイミノカサゴ、キリンミノ、キミオコゼなどを見ることができます。
彼ら彼女らはそれぞれに違った華やかさがあり、まるで美しさを競うドレスショーのようです。
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なお、ミノカサゴは食べても美味しい魚なのですが、市場に並ぶことはほとんどありません。
まとまった数を狙い撃ちで採れないこと、毒針の処理が面倒くさいこと、ヒレと頭が大きいばかりで見た目の割に可食部が少ないことなどが漁獲対象とならない理由でしょう。そもそもここまで毒々しい見た目だと、魚屋さんに並んでいても手にとる人は少なそうですしね…。
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あ!でもミノカサゴがよく売られている場所もあるんです。それは…観賞魚ショップ!
これだけ見目麗しい魚ですから、鑑賞用としての人気も高いのです。
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でも飼育する場合は十分に注意しましょう。掃除のために水槽へ手を突っ込むと、襲いかかってこそきませんが毒針のある背中をこちらに傾けて「ホールドアップ!」してきます。毎度毎度、地味に怖いんですよこれが……(経験談)。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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