寒い……。ついこの前まであんなに暑かったのに、一気に寒くなってきましたね…。こう寒いと、アツアツに蒸したアレが食べたくなってしまいます。「ガ」のつくアレが…。『あつまれ どうぶつの森(以下、あつ森)にも登場する、「ガ」のつくアレが…。
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そう!「ガザミ」です。耳に馴染みがない方でも、「ワタリガニ」と呼べば通りがよくなるかもしれません。
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「ガザミ」という名の由来は??
『あつ森』に登場するのは標準和名(日本の図鑑に載っている名前)が「ガザミ」である、ワタリガニ類の中では一番スタンダードな種をモデルにしているものと思われます。
ただし、このほかに青みの強い「タイワンガザミ」や背中に目玉模様のある「ジャノメガザミ」なども人によっては細かく区別せず「ワタリガニ」あるいは「ガザミ」と総称されることがあるので要注意です。
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……しかしケガニ、ズワイガニ、サワガニとほかのカニがことごとく「○○ガニ」というネーミングなのになぜ彼らだけ「ガザミ」などというちょっと怪獣めいた響きの謎ネーミングなのでしょうね。
これには諸説がありますが、「カニハサミ」が訛ったものとする説が特に有力なようです。
カニなんてみんなハサミ持ってるでしょ!と言いたくもなりますが、同時にちょっと納得できる要素もあります。
というのもガザミ類は食用となるカニの中でも特にハサミが大きく力強い上に挙動も素早いのです。そのため捕獲時に挟まれて痛い思いをするケースが多く、注意喚起的な意味合いを込めて名付けられたのではないか…と個人的には考えています。
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また、体格に対してハサミが長く、大きく開くため自身と大差ないサイズの同種、あるいはほかのカニを甲羅ごと挟んで攻撃することもできます。
実際、生簀に入れてストックする際は輪ゴムや結束バンドでハサミを縛っておかないと、お互いを攻撃しあって傷物になってしまうこともあるとか……。
ゆえに「カニをハサむカニ」ということでカニハサミ→ガニバサミ→ガザミ…と転じていったのかもしれません(※ガザミの特産地である有明海方面ではカニのことを「ガニと」呼ぶ)。…あくまで想像ですが。
めっちゃ泳ぐから「ワタリガニ」
また、ワタリガニという別名についてですが、こちらは由来がずっと明白です。
彼らは後脚がオール状になっていることからも察しがつくように、数あるカニ類の中でもずば抜けて泳ぎが得意なことで知られているのです。
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その遊泳能力たるや、「タコなどの敵に襲われたらちょっと泳いで逃げる」などという程度のものではなく、かなりの長距離を遠泳してのける本格派。基本的には沿岸性のカニなのですが、時には陸地が見えないほどの沖合いで、水面を必死に泳ぐガザミ類に出くわすことがあるほどです。
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ちなみにガザミ類は基本的に歩くときも泳ぐときもも横向きに進みます。
さらに面白いことに彼らは遠泳する場合には必ず進行方向の腕を折りたたみ、逆サイドの腕は尻尾のようにピンと伸ばす体勢をとるのです。
こうすることで、上から見たガザミのシルエットはマグロを思わせる流線型となり、効率よく水を切っての高速長距離遊泳が可能となるわけです。うーん、実によくできたデザインのカニですね!
味も良い!
そしてガザミを語る上で忘れてはいけないのが味の良さ!
ズワイガニやタラバガニ(タラバガニは厳密にはヤドカリの仲間ですが)と比べるとやや小ぶりで脚も細短く、なんとなく食べ応えに欠けそうな見た目をしていますが……そんなことはありません!こんなに味の深いカニはそうそういたものではないですよ。
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大きなものはその味を逃さないよう丁寧に蒸して甲羅をめくりツメを割り、肉とミソを堪能します。メスの場合、時期によっては赤くホクホクした卵巣を蓄えていることもあり、これがまたカラスミを思わせる旨みの塊でおいしいんです。
小ぶりなものは味噌汁にしても最高。いいダシが出るんですわ…。
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ちなみに、近縁種もおいしいものばかり。
たとえば東南アジアやオセアニア、日本だと沖縄、高知、和歌山など黒潮の当たる地域に生息する「ノコギリガザミ」の仲間はガザミを超マッシヴにしたようなカニで、より旨味が濃厚。
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個人的には数あるカニの中でもトップクラスにおいしいと思っています。ただし、凶暴さとハサミの強さもトップクラス。大型個体に挟まれると指の骨が折れてしまうとかしまわないとか…。要注意です。
身近なところでは本州四国九州に広く見られる「イシガニ」もガザミに近縁な食用種。ガザミよりも小型なのでもっぱら味噌汁に用いられることが多いようです。小型といえどダシの美味さはガザミに引けをとりません。
比較的安価なので、市場などで見かけたらぜひお試しあれ!
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あー……。こんな記事書いてたらヨダレが止まらなくなってきました。
ちょっと今夜はガザミ採りに行ってきます。リアルで。
ちなみに『あつ森』のガザミは北半球だと11月いっぱいで出現期がいったん終わってしまいます。未捕獲の人は急ぎましょう!
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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