早いもので『あつまれ どうぶつの森(※以下、あつ森)』が発売されて8ヶ月が経ちます。
季節も春夏秋と移ろい、そのたびに出現する魚や虫たちの種類も変化してきました。特に釣り上げるまで姿がはっきり見えない魚については各シーズンのはじめに釣りをするたび、ドキドキしますよね。
……とはいえ、一年中顔を見せてくれるおなじみの魚もいますがね。たとえば海ならスズキ、川なら……コレとか!
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ブラックバス!
『あつ森』では年中無休で釣れる上に出現率が高く、なまじ魚影も大きいので「すわレアな大物か!?」と期待されがち、そしてそれを打ち砕きがちな魚ですね。いや、ブラックバス自身に罪はないんですけどね。
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和名は「オオクチバス」
ブラックバスはそのカタカナ感あふれる名前からも察しがつくとおり、北米原産の淡水魚です。
実はちゃんと日本語の名前も持っていて、「あつ森」で釣れるあのブラックバスは図鑑や論文では「オオクチバス」という和名で表記されることが多いのです?
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さすが名前にオオクチとつくだけあってその口の大きさには目を見張るものがあります。
大きなものは体長60センチ以上にまで成長しますが、そんな特大個体だと人間の拳が口の中に入ってしまうの大口っぷりです。
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なお、日本で「ブラックバス」と呼びならわされている魚にはオオクチバスのほかに「コクチバス」なるものもいて、そちらはその名のとおりオオクチバスに比べるとややおちょぼ口です。
コクチバスも北米原産ですが、オオクチバスよりも冷たい水を好むため生息地は山上湖や河川の上流などに限られます。
オオクチバスはため池や川の下流域、果ては道頓堀にだっていますからね。ある種の「棲みわけ」というやつかもしれません。
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スポーツフィッシング用に持ち込まれた
「あつ森」作中でフータさんも解説していますが、ブラックバスはルアーを用いたスポーツフィッシングのターゲットとして今や世界的な人気を博している魚です。
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「世界的な」と書いたとおり、現在では釣りの対象魚としてアメリカから日本のみならず世界各地へ移植されているのです。
温帯、亜熱帯、熱帯と多様な気候に適応できるタフさも備えているため、海外へ出向くと本当にあちこちの国で見かけて驚くばかりです。
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ブラックバスがスポーツフィッシングのターゲットとして好まれる理由は「完全な肉食性でルアーを積極的に追ってくれること」それから「針にかかるとジャンプしながら激しく暴れること」「ほどよく体が大きく、数が多い」の三点が大きいようです。
たしかに、日本の川魚全般を見渡してみてもこれらの条件を満たした魚はいません。
外来種としての問題
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なお、本来そこにいない生物、しかも肉食性の種を人間の都合で持ち込んでいるわけですからそれに伴う問題も国内外で起きています。
なんといっても元からそこに生息していた小魚、甲殻類、水生昆虫といった、ブラックバスのエサとなる小動物への影響が懸念されます。
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じゃあ駆除を……という話になるのが一般的な流れなのですが、実際はフィッシングターゲットとしてのブランド化が進みすぎているため、「共存」をはかろうとする向きまであるのがブラックバスの特異な点です。
釣具メーカーや釣具店をはじめ日本で「ブラックバスを生業にしている」人は少なくありません。そうである以上、ただちに「はいブラックバス滅ぼせ!すぐに!」という舵取りは難しいのかもしれません。
とにもかくにもこれ以上ブラックバスの生息地を増やさないことが重要です。決して密放流などを行ってはいけません(※法的にも禁止されています)。
しかし人間の都合で勝手に渡航させられた上に、これまた人間の勝手で己の存亡をかけたイザコザに巻き込まれるとはブラックバスも気の毒な魚ですね。
駆除から免れたと思いきや共存賛成派に釣られまくるわけですし。
食べるとおいしい!(※ただし場所は選ぶ)
ところでこのブラックバス、原産地の北米では一部地域で食用にもなっています。
中国や東南アジアの市場でこの魚が売られているのを目撃したこともあります。
川魚とは思えないホクホクした白身で、原産地ではフライやムニエルにして食されます。
クセはなく、どちらかというとハタやアカメ類など海産魚に似た味わいで日本人好みの魚と言えるでしょう。コイやナマズといった同じような環境に暮らす川魚とは大きく味が異なります。
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海産魚っぽい……と書きましたが実はこのブラックバス、ご先祖様はスズキの仲間、つまりれっきとした海の魚なのです。
そりゃ味も川魚と違って当然。進化の歴史が味にあらわれていると考えると面白いですね。
……しかし、捕まえる場所は選ばなければいけません。あまり水が綺麗でない池や川、水が淀んでいる場所で採れたものは泥臭くて食べられたものでない場合がありありますので……。
また、ブラックバス(オオクチバス、コクチバスともに)を生かしたまま移動させること、あるいは飼育することは外来生物法という法律によって禁止されています。
扱いには十分気をつけましょう。
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『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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