2月の立春、3月の啓蟄を経ていよいよ季節は春。徐々に陽射しの暖かい日も増えてきましたね。
そんな季節の移ろいを反映してか、『あつまれ どうぶつの森(※以下、あつ森)」でも太陽の申し子のようなあの虫が登場するようになりました(※北半球設定の場合)。
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「ハンミョウ」です!
一般的にハンミョウ(ナミハンミョウ )と呼ばれる虫はカラフルな金属光沢が非常に美しい甲虫で、国内では本州の南側から四国、九州に見られます(沖縄にはごく近縁のオキナワハンミョウが分布)。
実はお仲間が豊富なグループで、世界に2000種ほど、日本では北海道や南西諸島も含む各地から20種以上が知られています。
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ただし、日本産のもののうちあれほどカラフルで美しいのはハンミョウとオキナワハンミョウだけで、他の種は独特の光沢こそあるものの、わりと落ち着いた色合いをしています。
そのせいで「なんかハエみたいな虫」と雑に誤認されているケースもちょいちょいあるようですね。
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地味な種が「ハエみたい」と言われがちな理由はハンミョウたち特有の行動にあります。
彼らは幼虫成虫ともに肉食性で、成虫は開けた地面をちょこまか飛び回りながらアリなどのエサ昆虫探しに精を出します。これほど頻繁に飛び回るのは甲虫としてはかなり珍しい部類であり、たしかにむしろハエやジガバチに近い印象を受けます。
ちなみに、幼虫時代は地面にトンネル状の穴を掘り、入り口付近を通りがかる虫を待ち伏せするという親とは正反対の生活を送ります。
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勢いよく獲物に飛びかかる様子からか、はたまた大きなキバ状のアゴを持つためか、英語では「タイガービートル」と呼ばれます。
日本名のハンミョウも漢字で書くと「斑猫」なので、東西問わず肉食獣の代表たるネコ科動物を想起されていることになりますね。
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ちなみに「ハンミョウは毒をもっている」という俗説がありますがこれは間違い。
有毒なのは「ツチハンミョウ」という虫で、ハンミョウとは縁遠く見た目も全然似ていません。ツチハンミョウ類はハチに寄生するなど不思議な生態で知られており、そちらはそちらで興味深い昆虫です。
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さて、話をハンミョウに戻します。
ことあるごとにすぐ跳ぶハンミョウですが、人間が近寄ると一気に飛び去るのではなく、ちょっとずつちょっとずつ距離をとるように逃げていきます。
その様子がまるで「こっちだよ、こっちだよ」と先導しながら道案内してくれているように見えることから「ミチオシエ(道教え)」という別名で呼ばれることもしばしばあります。
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僕は以前に「本当にミチオシエの案内通りに歩き続けたらどうなるか」を実験してみたことがあるのですが、まったく上手くいきませんでした。
問題は「本気を出せばけっこう高く、長距離も飛べる」ということで、数十メートルも追跡しているとそのうち「やーめた」とばかりにフライアウェイされ、見失ってしまうのです。あまりにしつこいので警戒されていたのでしょう。
というわけで、彼ら「ミチオシエ」の導く先は依然として不明なままとなっております。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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