『魔界塔士 サ・ガ』から始まった『サガ』シリーズは、30年以上もの歩みを刻み続けており、当時を代表する作品を数多く世に放ってきました。
近年だけでも、完全新作の『サガ スカーレット グレイス』や、基本プレイ無料の『ロマンシング サガ リ・ユニバース』『インペリアル サガ エクリプス 』をリリース。また、『ロマンシング サガ2』『ロマンシング サガ3』のリマスター版を発売するなど、いまも業界最前線で存在感を放ち続けている名シリーズです。
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そして、シリーズ展開で最も新しい動きといえば、1997年7月11日に発売された『サガ フロンティア』(以下、サガフロ)を新たに生まれ変わらせた、『サガ フロンティア リマスター』(以下、サガフロ リマスター)です。
『サガフロ』は、シリーズ初のプレイステーション向けソフトとして登場。7人の主人公が織りなす物語が、世界に広がりと深みを与え、かつてない刺激的な体験をプレイヤーの記憶に刻みつけました。その人気は衰えず、作品について今もWeb上で激論が繰り広げられるほど。
また、現行機で『サガフロ』が遊びたいといった声も長らく続いていました。そうしたファンの要望が叶い、2021年4月にニンテンドースイッチ/PS4/iOS/Android/Steam向けとして『サガフロ リマスター』がリリースされたのです。
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しかもリマスター版は、現行機で遊べるだけでなく、多種多彩な追加要素も搭載。中でも8人目の主人公「ヒューズ」の追加は、一般的なリマスター作品ではまず見られないほどの、ボリュームたっぷりな新要素でした。
そこで本サイトでは、新主人公の追加には、どのような背景があったのか。そもそも『サガフロ リマスター』は、どのようにして生まれたのか。この実態に迫るべく、『サガ』の生みの親であり、今もシリーズを統括している河津秋敏氏、本作のプロデューサーを務める三浦宏之氏、そして新主人公の物語「ヒューズ編」のシナリオを執筆したベニー松山氏を招き、気になる点について伺うインタビューを敢行。その模様をお届けします。
オリジナル版をプレイした方から見ても、新たな刺激に満ちている『サガフロ リマスター』。その開発のきっかけや意外な裏話など、ファンならずとも見所に溢れたインタビューとなりましたので、ぜひご一読ください。
※新型コロナウイルス感染対策の観点から、インタビューはオンラインで実施しています。
『サガフロ リマスター』開発者インタビュー
──まず最初に、『サガ フロンティア リマスター』の開発において、皆様がどのような形で関わられたのかをお聞かせください。
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──追加要素の中でも“ヒューズ編”は特に注目されましたね。こちらについては、後ほど詳しくお訊きできればと思います。
河津氏:自分は全体的な“監修”です。オリジナル版のことが分かるスタッフがもうあまりいないこともあり、オリジナル版を開発した立場として監修に携わりました。それから、何をどこまで追加しましょうか……と。そんな新要素に関しては、大体自分が決めた形です。
ヒューズ編も「こんな形で実装したい」と自分の方で案を出し、それをベニーさんが形にして、開発のディレクションを担当した上野(上野真史氏、本作のディレクター)が揉んでくれて、実装内容が決まっていきました。
──全体的な監修をしつつ、追加要素についてはコアな部分に関わられたのですね。
三浦氏:自分はリマスター版のプロデューサーとして全体の “統括”を行いました。内部の開発は上野に任せ、それ以外の部分──主に制作面などに関わりました。
──本作のオリジナルにあたる『サガ フロンティア』は、皆様にとってどのような作品なのでしょうか。
松山氏:『サガ』は色んな要素が詰め込まれているシリーズですが、なかでも『サガフロ』は極めてカオスな、様々な世界を内包した『サガ』でしたね。プレイヤー側の色々な構想や妄想をぶつけられる世界ができたな、という想いがありました。
私は、若い時に『ウィザードリィ』と出会い、想像を逞しくしていた時期があったんですが、その頃の感覚と近いです。その意味では『サガフロ』もひとつのターニングポイントでした。
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今、ベニーさんの方から「カオスだ」とありましたが(笑)。増えた容量をどう使いこなしていくのかを考えた結果、ひとつの色で染めるよりも、たくさんの色を詰め込んでいこうというアプローチに行き着きました。
三浦氏:当時は、色んな要素が集まったタイトルという印象を持っていました。多彩なキャラクターや、ファンタジーだけに捉われずSF要素も盛り込まれた世界観など、そういったところが魅力的でしたね。
──皆様がそれぞれの想いを抱いた『サガフロ』が、今回リマスター版として再び登場しましたが、この『サガ フロンティア リマスター』はどのような経緯で開発がスタートしたのでしょうか。
河津氏:それぞれ立ち位置があるので、(三浦氏とは)見え方が異なると思いますが……。もともと、過去のタイトルを現代のプラットフォームで遊べるようにするというのが、市川(市川雅統氏、本シリーズのプロデューサーなどを担当)を含めた我々の意志でして。
──近年だけでも、『ロマンシング サ・ガ2』、『ロマンシング サ・ガ3』がリマスター化されましたね。
河津氏:それで、当時いくつかのタイトルか候補に挙がっていたんです。「次はどれをリマスターしようか」と。その中で、現実性が一番高そうなタイトルとして『サガフロ』を選びました。『ロマサガ2』『ロマサガ3』ときたから、順番として『サガフロ』だったというわけではないんです。
自分としては、「プレイステーションタイトルのリマスターはハードルが高いんじゃないかな」と思っていました。というのも、元々のデータがプリレンダではなかったり、ソースが万全に残っている状態でもなかったりと、色々難しいところがありまして。
しかしながら、開発会社さんと話を進めていくうちに現実的なプランが出てきたんです。「これならやれるかな」と、リマスターに臨みました。これが自分の立場から見たものですが……、三浦君はどうかな?
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最終的にはユーザーからの要望が高いという点が、選ばれた理由のひとつかなと思います。
──では続いて、『サガフロ リマスター』の開発にあたり、気を配ったポイントはありますか?
河津氏:一番は、「過去のタイトルを、気持ちよく遊んでもらえるようにする」という点です。いじりすぎると中身が別物になってしまいかねないので、「どの程度やるのか、どこまでやればいいか」はいつも話し合っていましたね。
──オリジナル版の魅力や持ち味を失わないように……という形ですね。
河津氏:とはいっても、エミュレーションでそのまま動かしているわけではないので、変えたくなくても変わってしまう部分がどうしても出てきます。そういうところを、「良くするために変える」と意識して取り組むのが重要でしたね。
──三浦さんの立場から気を付けられた点はありますか?
三浦氏:「オリジナル版の魅力を最大限に活かす」のが一番のポイントでした。新しくするとはいえ、ユーザーが元々持っているイメージ・印象は変わらないように作る、というのを強く意識しましたね。
──オリジナル版ではいちプレイヤーだった松山さんは、本作ではクリエイターとして関わり、心境なども大きく変化があったかと思います。その点いかがでしょうか。
松山氏:オリジナル版の話の足を引っ張るようなことだけはできない、と思って取り組みました。ヒューズ編で新たに広げていくにしても、オリジナルへのリスペクトは忘れないように書いていく……、というのが基本姿勢でしたね。
──本作はリマスターですが、一般的なリマスター作品と比べると、追加要素などが非常に多いという印象を受けます。この追加要素について、導入の背景や経緯などをお聞かせください。
河津氏:もともと『サガフロ』をリマスターするなら、ヒューズ編をやらないと意味がないと思っていました。「リマスターをやるならヒューズ編を入れる」と、既に決めていたようなものですね。その意味では、盛りだくさんに追加したつもりはなく、「最低限やるべきことはやった」といった印象が近いですね。
──仮にヒューズ編を入れられないとしたら、リマスター版を出す意味は薄まっていたと?
河津氏:そうですね。ヒューズ編を入れないなら、何も変えずにエミュでそのままでいいじゃん、みたいな(笑)。リマスターで何かを入れるなら、「まずはヒューズ編だ」とファンも絶対思うので、何よりも優先順位が高かったですね。
──では追加要素の中では、ヒューズ編の導入が一番最初に決まったくらいの勢いですか?
河津氏:ヒューズ編やるのは前提条件で、どうやって入れようか、そのスケジュールをどう確保しようか、そのあたりを現場に頑張ってもらいました。
ベニーさんがずっと『インペリアル サガ』や『インペリアル サガ エクリプス』で関わってくれていたので、実現性が高まったというのもありましたね。シナリオ面で協力してもらえれば……と。逆に近くにいてくれなかったら、ヒューズ編を追加しようという話も気軽にしづらかったので、その意味ではラッキーでしたね。
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河津氏:それはあったと思います。『インペリアル サガ』の中には『サガフロ』のエピソードもたくさん入っていて、再構成されている部分も多くあります。おそらくベニーさんも、今回シナリオを書かれるにあたって、『インペリアル サガ』での掘り下げがなく、「ヒューズのクレイジー捜査日誌」(※)からそのまま組み立てたとしたら、相当苦労したと思います。
なので『インペリアル サガ』が間に挟まったことは、今回の『サガフロ リマスター』を開発する上で、幸運にも条件が整った状況だったと言えますね。
※「ヒューズのクレイジー捜査日誌」
1997年12月18日発売の書籍「サガ フロンティア 裏解体真書」に収録された小説のひとつ。ベニー松山氏が執筆。
──倍速機能や退却機能、装備おまかせ機能など、プレイする上で利便性が増す追加要素などは、現代のニーズに合わせる形で実装されたのでしょうか?
河津氏:そうですね、そのあたりについては、上野が積極的にデザインしてくれました。またアセルス編のイベントなども、データの中からサルベージし、実装できる形に整えてくれましたね。
──三浦さんの立場から、追加要素の実装について思うところはありましたか?
三浦氏:本作に関わった全員に「追加要素を入れるなら、まずはヒューズ編」という気持ちがあったと思います。河津さんへ企画を提案しに行った際、開発チームとしても「ヒューズ編」をいれることは前提だったのですが、河津さんからも一番に「ヒューズ編」を入れる話がありましたので、企画の提案時点で、関係者全員の意志は固まっていましたね。
──松山さんの立場としては、「ヒューズ編を追加したい」というお話を持ちかけられたのが、本作の開発に関わる最初の1歩だったのでしょうか?
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この時点では、実はそんなに分岐とか考えていなかったんです。勝手に工数増やすわけにいかないと思って(笑)。でも「ここは両ルート作っていいよ」という話になり、ではシナリオはそういう方向で……と。
──松山さんとしては、このヒューズ編にできる限りの力を注ぎ込んだのですね。
松山氏:(当時は)そのことばっかり考えていましたね。
──ちなみに、ヒューズ編を追加するという話を初めて伺った時、どのようなお気持ちでしたか?
松山氏:「本当ですか? いいんですか?」ですね(笑)。
──(笑)
松山氏:河津さんが何年か前に、「プレステソフトのリメイクは難しい」と仰っていたんです。それを受けて、「なんとか、ヒューズをゲームの中で主人公にしてやれないだろうか」と思って作ったのが『インペリアル サガ』のキューブルートでした。このキューブルートがあったことで、河津さんに「できそうだ」と思っていただけたのなら、本当に感無量ですね。
──本作のヒューズ編は、「サガ フロンティア 裏解体真書」の補完小説「ヒューズのクレイジー捜査日誌」をゲームに落とし込んだ、と考えていいのでしょうか。それとも、それぞれ別のモノなのですか?
松山氏:ゲームに落とし込んだのかと聞かれると、ちょっと違いますね。「ヒューズのクレイジー捜査日誌」は読んで分かる通り、コメディ色が強いんです。
『サガフロ』が発売されたのは1997年ですが、その頃はまだリマスターやリメイクといったものがほとんどなく、世に出てしまったものはそれで終わりという時代でした。なので、構想はあったものの実装されなかったヒューズ編を、小説という形で──言い方はおかしいですけど──成仏させてやることはできないか、という企画として「ヒューズのクレイジー捜査日誌」が立ち上がりました。
そして、ヒューズを主人公にした物語を「裏解体真書」に載せるためには、小説なりの再構成をしなければならないと考えたのです。そのためにコメディ色を強くしました。
──「ヒューズのクレイジー捜査日誌」は、小説という形に合わせたヒューズの物語、だったんですね。
松山氏:例えばボスキャラ7連戦を大真面目に書いた時に、「それは小説として面白いのか?」となりますよね。なので、ひとつひとつの事件を解決していき、最後にドン!と行く、といった構成にしました。小説として面白くするために。
──そういったお話を伺うと、確かに「ヒューズのクレイジー捜査日誌」をそのままゲームに持ち込むのは難しく感じますね。
松山氏:河津さんからの当初のオーダーは、「ヒューズのクレイジー捜査日誌」を落とし込んでいくような形でしたが、プロットを出す段階で捜査日誌のことは一度忘れ、ヒューズというキャラクターだけを取り上げる形にしました。
──では、もともと構想があったヒューズを原点に、小説として表現したものが「ヒューズのクレイジー捜査日誌」で、構想を元にゲームシナリオになったものが今回のヒューズ編なんですね。
松山氏:そうなりますね。
──ヒューズ編のシナリオは、河津さんとベニー松山さんが手掛けられたと聞きましたが、具体的にどのような作業形態でしたか?
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──実例として、どのようなシーンか一例を挙げていただけますか?
河津氏:例えば“リュート編の最後”のやりとりなどです。でも、大体はベニーさんが上げてくれた通りになっていますね。特にブルー編の最後は、オリジナル版では投げっぱなしだったんですが、綺麗に拾っていただきました(笑)。
──お互いが持っているものを重ね合わせながら作っていった、と。
河津氏:小説ではなくゲームのストーリーなので、プレイしてダレる部分はカットしなければいけませんから。そういった面は、上野の方から提案してもらいました。台詞をまるごとカットし、キャラの芝居だけで見せたりとか。そのおかげで、最終的にゲームらしい表現に落ち着いたかなと思っています。
──ヒューズ編を実装するにあたり、一番大変だった部分はどこですか?
河津氏:スケジュールが押し押しだったのが、一番大変なところでしたね(笑)。
三浦氏:スケジュールも大変でしたし、いただいたシナリオをどう落とし込もうかと上野がすごく悩んでいました……。
──その悩みというのは、例えばどのような?
三浦氏:ベニーさんのシナリオが素晴らしいので、どうすればゲーム上で伝わりやすくなるか、文字以外の部分でどのように表現すればいいのか、と。
──今回実装されたヒューズ編は、河津さんや松山さん、そして上野さんをはじめとする開発陣の方々が、ゲームとしての形として研ぎ澄ませたものだったんですね。
であれば、「捜査日誌」と比較してみたいと考えるファンも多いと思いますが、掲載されている「裏解体真書」や「30周年記念BOX」(同梱された小説集に収録)は、いずれもプレミア価格になっており、なかなか手が出せない状況にあります。小説集の電子書籍化の予定があるとは伺っていますが、こちらについてはいかがでしょうか?
松山氏:それについて答えられる方は、ここにはいませんね。(笑)
河津氏:いないねぇ。
──では「捜査日誌」については、今は気長に待つ時期という感じでしょうか。
松山氏:むしろ積極的に声を上げていただくといいかもしれません。
──SNSなどの盛り上がりが何かに結びつくかもしれない……ということですね。嬉しい展開への可能性が高まることを、ひとりのユーザーとしても期待しています。
それでは、ここからは読者の方々に寄せていただいた質問へ移りたいと思います。また、今回質問を募集したところ、なんとアメリカから寄せてくださった方もおり、国内外を問わない注目度の高さを改めて実感させていただきました。Q5とQ6は、アメリカから届いた質問となります。
にも関わらず、追加シナリオでは物語の破綻なく、かつ各主人公のシナリオを補完する素晴らしい形のシナリオとなっていてとても感動しました。
どのようにヒューズや彼を取り巻く設定を広げ、素晴らしいシナリオを執筆されたのか、教えていただきたいです!
松山氏:先ほども少しお話しましたが、1997年の時点で「ヒューズが主人公として世に出ることは、今後ないかもしれない」と考え、「裏解体真書」に掲載する小説でどうにかできないかと思い立ちました。
河津さんが(構想段階のヒューズ編を)どのように構成されていたのか、あの時は想像するしかなかったので、想像に想像を重ねた上で、「あのゲームの中でヒューズが動いたらこうなるんじゃないか」というのを相当考えたんです。小林さんが描かれたイラストからもイメージを膨らませましたね。
その時に、色々なキャラクターとの繋がりなどを想像していて、それを24年間寝かせていたらこうなった……みたいな。当時、あれだけ考え抜いていなかったら、キャラクターの解像度は下がっていたかもしれませんね。
裏解体真書の「100の質問コーナー」で触れられた内容が織り込まれていたり、クレイジー捜査日誌とはまた違う設定だったりと、見所がたくさんで嬉しかったため、もし回答いただけるようでしたらお願いいたします。
松山氏:「裏解体真書」などの書籍を製作する時、ベントスタッフ側でゲームの設定などの疑問点を、河津さんやスタッフの方々にお送りし、回答をいただいていました。「100の質問コーナー」などは、まさにその形でしたね。もちろん小説を書く時も、判断に悩む部分は河津さんに質問状を送らせていただき、回答に基づいて進めました。
そのため、オリジナル版の設定についてはできるだけ汲み取っているつもりですが、この質問は河津さんに伺った方がいいかもしれません。
河津氏:大半の設定はオリジナル版の頃からありますが、ないものもあって……例えば、「サイレンスは何者なのか」という質問に「謎です」と答えていますが、実は何も決めていなくて(笑)。ほかにも、「コットンってどういう生き物なの?」とか、そういった部分は作っていなかったりします。そういった、ゲームに直接出てこない枝葉の部分は、意外と決まってないこともありました。
ゲーム上のストーリーにおける設定などは、最初からほぼほぼ全てあって、オリジナル版では単純にそこまで描けていなかった、という感じですね。骨格的には、オリジナル版のころにあったものをそのまま使っています。ただヒューズ編に関しては、ベニーさんに完全にお任せしました。
──松山さんに、全面的な信頼を置いていたわけですね。
河津氏:そうですね。好きにやっていただいた方が、絶対に面白くなるので。
松山氏:こういう風に言っていただける方って、実はなかなかいないんですよ。これだけ任せていただけるのはすごく嬉しいですし、パワーが1.2倍や1.5倍になっていく感じがあります。
河津氏:ヒューズ編のブルールートだったり、エミリアルートの最後などは、完全にベニーさんが作ってくれたところですね。ユーザーさんの満足度も高かったんじゃないかなと思います。
全部の主人公に全てきっちりとオチがあり、腑に落ちるような終わり方をしないといけない……とは、自分は必ずしも思ってはいないんです。オリジナル版には7人の主人公がおり、クーンやT260Gとかは「ああなるしかない」といった終わり方をちゃんとしますが、全員がそれだと面白くないので。例えばブルーは、対決したところで話自体は終わっていますしね。
7人全員にきっちりとしたオチを用意するつもりが、そもそもなかったんです。でもベニーさんは“お話の方”なので、最後は落とさずにはいられないと思うんですよ(笑)。(そのおかげで)ブルー編のルージュ戦など、ファンから見ても納得のいく終わり方を描いてもらえましたね。なので、ファン目線から見ても、ヒューズ編がちゃんとオリジナル版のシナリオを補完してくれたと思います。いい補完だったんじゃないかなと。
三浦氏:操作感や画面のサイズなどが異なるので、どのプラットフォームでもなるべく同じ感覚で楽しめるように落とし込むのが一番大変でしたね。
松山氏:プロットだと、ブルー編から作り始めて、最後はリュート編でしたね。シナリオはクーンから書き始めて、リュート、エミリア、T260G、レッド、ブルー、アセルスという順番です。
──その順番になった理由などはありますか?
松山氏:クーンルートは、僕が考えているヒューズ編におけるテイストのテストという意味合いもあり、最初に書いて「こういう形でどうでしょう」と判断を仰ぐために着手しました。
──ヒューズ編の執筆期間は、どれくらいでしたか?
松山氏:シナリオの執筆期間は……ファイルの日付を見ると、一月半くらいですね。どちらかと言うと、どう組み上げていくかというプロット段階で、ある程度時間がかかっています。
河津氏:これは、設定上だけでゲームには直接登場していない部分の話ですね。ヒーロー世界の「サントアリオ」と、トリニティの「ニルヴァーナ」。
サントアリオは、名前は最初から決まっていました。もしイベントがあるとすれば、正体を見られたレッドがサントアリオで審問にかけられ、アルカールが弁護する……みたいな。これが映画だったらアリなんですが、ゲームでやっても面白くはならないので、早い段階で「なくてもいいのでは」という話になりました。
ニルヴァーナは、タルタロスやマンハッタンと並ぶ、トリニティを構成するリージョンのひとつですね。で、実は「ペリー・ローダン」(※)に出てくる“アルコン星”が、トリニティの元ネタなんですよ。アルコン星も、3つの……ビジネスみたいな世界や、工場ばかりの世界、アルコン人が住んでいる世界で構成されていまして。
※「宇宙英雄 ペリー・ローダン」
複数の作家が執筆する、世界的な人気を誇るスペースオペラのシリーズ小説。
──トリニティの設定は、「ペリー・ローダン」から影響を受けていたんですか!
河津氏:トリニティ人が住んでいる世界が、質問にあった「ニルヴァーナ」なんです。ちなみに、モンドやヤルートなどの執政官は、トリニティの人間ではありません。トリニティ人は裏にいて、他のリージョン人を使って仕事をさせています。トリニティ人は表に出ない立場なので、彼らがどういう人なのか、細かいところは何も決めていません。そんな影から世界を操るトリニティ人たちが住んでいるのが、涅槃のような浮世離れした世界=ニルヴァーナになります。
ニルヴァーナにイベントを用意するとなると、ヒューズなんかが乗り込んで破壊行為をしまくるかなと(笑)。そういうシナリオにしかなりそうになく、収拾がつかなくなるので、ゲームには加えませんでした。
──そんな裏設定だったんですね。元ネタも意外でした。
河津氏:ニルヴァーナに住んでいる人間は悪者にしかならないので、なかなか出しづらくて。そんな世界ですね、設定上は。
松山氏:結構すごい話が出てきましたね!
河津氏:トリニティの元ネタがアルコン人というのは、今回が初公開ですよ(笑)。
──おお、すごい裏話をありがとうございます!
──こちらの質問は、オリジナル版のソースコードが失われたという噂が元になっていると思われますが、まずそちらの噂自体が事実なのでしょうか?
河津氏:元のデータがどの程度残っていたのかは知らないのですが、グラフィックのデータに関してはプリレンダで作っているので、元のデータがあったとしても、それをレンダリングするシリコングラフィックスのハードがもうないんですよ。なので、元のデータを今の解像度にレンダリングすることはできません。
──なるほど。技術的な問題があったわけですね。
三浦氏:データ自体は、社内で発掘を行ったところ、ほぼ揃いました。なので、当時のデータを活用しながら開発することはできました。中には、欠落しているものはありましたが。
グラフィックについては、レンダリングしたデータがあるので、それをレタッチしたり描き足しをして、解像度を上げる作業を全般的に行いました。また、解像度を上げると細部の表現が必要になったりもするので、書き足す際は「おそらくユーザーは、こういうものを意識しているだろうな」と考えながら作業に取り組みました。
──ここまでのインタビューを通して、本作のプレイ意欲が高まった方もいるかと思います。そんなユーザーさんに向けて、『サガフロ リマスター』で特にお勧めしたい皆様のポイントを、それぞれお聞かせください。
河津氏:テンポ感のあるリマスターになっていますので、快適に楽しめるプレイ感を味わって欲しいですね。色んな主人公を、どんどん遊んでください。ヒューズ編も全部やるくらいの勢いで(笑)。
松山氏:ヒューズ編について言わせていただければ、僕が好き勝手書いた部分を、ディレクターの上野さんをはじめとする開発チームの皆さんに苦労してまとめてもらいました。演技などもしっかりつけてもらったので、じっくり見ていただけるといいかなと思います。
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例えば、レンをパシパシ殴っているヒューズとかは、本当に「いい演技させたなー」と感心させていただきました。僕的には、大変嬉しいポイントです。
三浦氏:オリジナル版を遊んだユーザーの方に、「もう一度遊びたい」「『サガフロ』ってこうだったよな」「懐かしくて面白いな」と思ってもらえるように作ってきたので、まだ触れていない方はぜひプレイしてみてください。
また、プレイしやすい機能をたくさん用意していますし、当時ミリオンヒットを記録したタイトルなので、まだ『サガ』シリーズを遊んだことがない方も、この機会に遊んでいただけたらありがたいです。
あと、これはプロデューサー視点の話になってしまいますが、今回開発するに当たって、河津さんやベニーさんをはじめ、非常に楽しんで開発していただけたのかなと、個人的に思っています。
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それは、元のタイトルの力がすごくあるからだと実感していますし、楽しんで開発していただけたのであれば、プロデューサー冥利に尽きます。そういうタイトルだったからこそ、ぜひ多くの方にプレイしていただけたら嬉しいです。
──今回のインタビューをきっかけに、より多くの方が『サガフロ リマスター』をプレイしてもらえたら、私たちも嬉しく思います。そんな本作も名を連ねている『サガ』シリーズは、皆様にとってどのような存在でしょうか?
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(こういった経緯なので)『サガ』がシリーズになった“だけ”とも言えます。なので、その冠をつけつつも、「自分たちがやりたいことをやる」のがシリーズを通してやってきたことです。
そのため、何が『サガ』かというのは自分はあまり意識しておらず、実態のよく分からないカオスなシリーズに、ファンの方はよくつき合ってくれているなと、すごく感謝しているんです。そのおかげで、新しいものやリマスターが作れています。
松山氏:僕は、高校……いや、中学くらいかな? そのあたりから、パソコンを通じてゲーム製作を半端に囓ったりしてきたんですが、『サガ』を遊んだ時に「こういうゲームを作るとしたら、本当に大変だよな」と思いましたね。遊んだ人はみんな、「自分だけの『サガ』」みたいなものを強固に描くじゃないですか。
──『サガ』を遊ぶと、その人の中で作品の世界が広がる、みたいな。そういった力を持つ作品だと。
松山氏:プレイヤーに強い影響を与えて、世界が広がっていく。その大本こそが『サガ』なのかなと思います。
そして、今に至るまでの世界をひとつに放り込んだのが、『インペリアル サガ』や『インペリアル サガ エクリプス』でして。この「インペリアル」世界の中で、シリーズの各キャラクターが化学反応を起こしうる土壌がある──というのが、『サガ』のすごさですよね。
これだけの力を持つ作品なので、『サガ』はこれからも、皆様を楽しませ続けてくれるシリーズなんじゃないかなと思います。
三浦氏: 『サガ』は河津さんが創り上げてきた、伝統工芸的なシリーズ作品。自分にとっては、これに尽きますね。
──それぞれにとっての『サガ』がある、そんなシリーズだと思いますが、それだけに今後の発展も楽しみです。それでは最後に、『サガ』ファンに向けたメッセージをお願いします。
河津氏:まず、『サガフロ リマスター』を楽しんでくれているファンの方々に、ありがとうと言わせてください。今のプラットフォームで遊べないシリーズ作品がまだあるので、そちらのリマスターやリメイクなどをこれからも取り組んでいきます。
あと、新作を作り続けないとシリーズって残っていかないものなので、そちらも少しずつちゃんと準備して進めています。期待していてください。そして、これからもよろしくお願いします。
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三浦氏:『サガ』シリーズを楽しんでいただける企画を、今後も検討していきますので、よろしくお願いします。
まずは、『サガフロ リマスター』が発売されて間もないので、まだプレイしていないという方は、ぜひ遊んでいただきたいです。スマホ版は気軽にプレイできますし、じっくりプレイしたい人はコンソールも視野に入れていただければ嬉しいです。