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1970年代に幕開けした家庭用ゲーム機の歴史は、1983年発売のファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)をきっかけに、一大ブームへと発展。以降、今も続く名シリーズの数々が生み出され、ファミコン黄金期が訪れました。
ですがどんな名ハードも、時代が経るにつれて登場する次世代機へと席を譲り、表舞台からひっそりと下りるもの。その運命は、ファミコンとて例外ではありません。
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そして、ハードが幕を下ろそうとする熟成期には、これまでになかった魅力的なタイトルや、ハードの性能をとことん駆使する作品が生まれることも多々あります。ファミコン時代で言えば、名作ADV『メタルスレイダーグローリー』も、その例に当てはまるタイトルのひとつです。
『メタルスレイダーグローリー』は、理由は後ほど明かしますが、販売本数はかなり少なめ。また、発売タイミングも良好とは到底言えず、リリース直後に大きな話題になることもありませんでした。
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しかし、『メタルスレイダーグローリー』はこうした逆境を覆し、気がつけばプレミアソフトの仲間入り。そのため入手難が続き、遊びたくても手に入らないタイトルとしても知られるようになります。
そんな激動の歩みを刻んだファミコンソフト『メタルスレイダーグローリー』が発売されたのは、今からちょうど30年前の1991年8月30日。名作ADVが、めでたく30周年を迎えました。今回はこの記念すべき節目を祝い、『メタルスレイダーグローリー』がどのような逆風に遭ったのか、振り返ってみたいと思います。
■次世代機が盛り上がる中で登場したファミコンソフト『メタルスレイダーグローリー』
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『メタルスレイダーグローリー』が発売された1991年のゲーム市場は、どのような状況だったのでしょうか。まず、ファミコンの発売が1983年なので、そろそろ現役を退く気配が見えている時期でした、
1991年は、ライバルのPCエンジン(1987年)やメガドライブ(1988年)がすでにリリースされており、後継機のスーパーファミコン(1990年)も発売済み。また、大容量を実現するCD-ROM2(1989年)とメガCD(1991年12月)に挟まれるなど、次世代機ラッシュの真っ只中です。
『メタルスレイダーグローリー』の発売状況を今の任天堂ハードで例えるならば、ニンテンドースイッチが発売された翌年に、Wii Uソフトとして登場したような状態です。スイッチの魅力的なソフトがひしめく中で、Wii Uの新作ソフトがどれほど注目を集められるか、想像に難くないことでしょう。
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この逆境を招いた理由のひとつは、4年を超える開発期間にありました。昨今では、4年以上の開発期間をかけるゲームタイトルもありますが、当時はかなり珍しい存在です。そのため発売日がファミコン後期となり、次世代向けの作品に埋もれてしまう逆風でのスタートとなりました。
それでも、ゲームショップなどで現物を見れば、その存在も徐々に知られるもの。店舗に並ぶことで、興味をかき立てる──そうした「数による認知」は、残念ながら『メタルスレイダーグローリー』には許されていませんでした。
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ファミコンのゲームソフトは「MMC3と呼ばれる基板を使ったものが多かったのですが、『メタルスレイダーグローリー』の基板は、それよりも高性能な「MMC5」を採用。再生産するとコストがかさむ関係からリピートなしと決まっており、初回ロットの1万2千本のみ市場に流通する形となりました。
前世代機のソフトで、流通量の関係から目にする機会も少なく、インターネットもない時代なので口コミも広がりにくい。このような逆境にあった本作は、その出来栄えによって状況を大きく変化させていきます。