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2020年から2021年にかけてバーチャルタレントシーンが大きく人気を集めた理由に、以前からネットシーンで活躍していたストリーマーに負けず劣らず、多くのバーチャルタレントらがゲーム実況に力を入れていたことが挙げられるでしょう
コロナ禍を通じて自宅待機を強いられるなど生活リズムやパターンが大きく変わってしまった影響もあり、視聴者層が一気に激変。これまでゲームに見向きもしなかった層にもリーチし多くの支持者を得たことで、エンタメ業界から見ても無視できないほどの存在感を放つことになりました。
ほんの数年前では考えられないような様々なスポンサーらが名乗りを上げ、数多くのカジュアルな大会が開かれるようになった現在、「FPSを中心としたゲーム配信を行い、人気・実力ともに申し分ないVTuber」として名前が挙がると言えば、今回の渋谷ハルではないでしょうか。
活動開始は2018年5月から。VTuberの黎明期にスタートした彼は、活動初期からFPSゲーム『PUBG: BATTLEGROUNDS』で素晴らしいプレイを配信しており、当時最も人気があったと言っても過言ではないFPSゲームでその実力を遺憾なく発揮していました。
活動開始から5か月後の2018年10月には、『PUBG』をメインにした「VTuber最協決定戦」を開催。ホロライブからはロボ子さん、白上フブキさん、湊あくあさん、百鬼あやめさん、癒月ちょこさん、アキ・ローゼンタールさん。にじさんじからは渋谷ハジメさん、叶さん、葛葉さん、赤羽葉子さん、本間ひまわりさん。その他にも青猫えいむ(現:BobSappAim)さん、花芽すみれ・なずな姉妹、白雪レイドさん、神楽めあさん、獅子神レオナさん、日ノ隈らんさん、おだのぶさんと、非常にバラエティ豊かな面々が出場しています。
その後、この大会は2020年8月には『Apex Legends』版VTuber最協決定戦として開催され、大きな注目を集めることになりました。数日のスクリム(練習大会)をこなしながら、チームで結束して楽しく勝利を目指していく姿を配信していく。この一連の流れは、「FPSゲーム配信×バーチャルタレント」がもたらすドラマ性を高め、多くの視聴者を魅了する一大イベントへと成長することになりました。
加えて、2020年11月からは毎週木曜に「渋谷ハルカスタム」をスタート。一般視聴者らの参加を中心に、バーチャルタレント、ストリーマー、時にはプロシーンで活躍するプレイヤーらも参加するこの大型カスタムは、配信者側と視聴者側が双方に盛り上がれる一体感をより強めてくれ、シーンに大きな影響を与えていると言えます。
こういったカスタム大会を開催できるようになるには、ゲーム公式側から影響力を認められて権限をもらわなければならないため、ゲームの実力だけではなく、それまでの活動などを含めて様々なアクションを起こしていかなければ手に入らないものです。
YouTuberのヒカキンが3Dアバターを導入して「VTuber化」した初配信で、そのコラボ相手に選ばれたことも踏まえれば、もはやバーチャルタレントシーンの顔役としても求められる部分は大きそうです。
こうしてみるとその歩みは順調のように見えますが、実際は順調などと言い切れるような状況ではないと言えます。2020年1月には世界大会「Apex Legends Global Series」日本予選にHandmade Potionのメンバーとして参加、世界大会への出場権を得ましたが、世界大会は中止に。さらにバーチャルYouTuber支援プロジェクト「upd8」に2019年5月31日に加わりましたが、2020年12月末をもって事業終了となり、支援はなくなってしまいました。
「アクションを起こすことでチャンスを掴む」といえば聞こえは良いですが、上記のような成功と不運が重なり続けた3年の活動を観ると、「アクションを起こさなければ絶たれてしまう」というプレッシャーの側面のほうがよほど大きいように思えます。
さらには有名になるにつれてゲームプレイ中のチーターやゴースティングの被害が後を絶えず、『Apex Legends』へのモチベーションを失ってしまう状況にまで追い込まれてしまった時期もありました。
2021年1月13日、自身のnoteにて「YouTubeを伸ばすためにとった全ての戦略をまとめてみた」という記事を掲載しました。
いくつかのトピックを挙げて「狙い」「当時の状況」「実際の結果」をも含めて書かれたこの記事を読めば、自身のキャラクターやブランディングについて戦略的狙いをもって活動を続けてきているのがハッキリと理解できると思います。行動力・ゲームの実力という自身の才覚をフルに活かしたセルフブランディングと時流とがうまくマッチし、YouTube登録者数もこの1年で倍以上に伸び、現在YouTube登録者数は60万人を超えています。
配信上の喋り方や内容をみても、理路がハッキリとした喋りで多くの視聴者を納得させつつ、ふざけるところで思いっきりふざけ倒すような姿もあり、彼の魅力が詰まっているといえます。
長い期間に渡って個人勢として活動してきた彼、ブランディング力の高さやシーンへの影響力など活動を通して得てきた知見は、新事務所を通して新たなバーチャルタレント育成にも活かされそうです。
「考え抜いて継続し続けることで、死ぬほど特別な能力がなくても結果を出すことができる」と、先述したnote記事の最後で彼は記しています。その継続力ことが、チャンスをモノにしてきた渋谷ハルの大きなコアだと言えるでしょう。どれだけの才覚があっても、途中で辞めれば終わってしまう。このシビアかつシリアスな意識のもとで、渋谷ハルは今後を見据えて動いていくことでしょう。
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