◆ライトハローの意識改革 「ファン目線」な捉え方へ
グランドライブ編において最も重要な立ち位置にいるのは、新たなサポートカードとしても実装されたライトハローです。
先にも述べたように、ライトハローはグランドライブ再建計画を動かすコアのような存在。当然、彼女の浮沈・苦悩はシナリオのムードを大きく変えていきます。
当初は再建計画に息まいていた彼女ですが、徐々に反対派の声が届くようになり、ついにはこのように言われてしまいます。
「レースと関係なくみんなで歌っていいなんて間違っている。ウマ娘たちの頑張りを否定するようなことはやめて欲しい。まるでファンのためだと言い訳して勝てないことから逃げているようだ」


ライトハローもむかしは一人のウマ娘としてトレセン学園(ゲーム内でウマ娘らが通う学校)に通い、トップウマ娘を目指して努力していましたが、努力の甲斐なく低調な成績のままでレースをやめ、一般社会のなかで生活している、いわばスポットライトが当たらなかったウマ娘でもあります。


「全然勝てないまま、一度もライブで歌えないままだった」と振り返る彼女は、自分のエゴに気づきます。シニア級3月後半のシナリオイベント「あなたが輝くステージを」では、アグネスタキオンはライトハローの先輩について言及します。
シナリオの初めから描かれるライトハローの先輩。彼女もまた同じように、思うようにレースに勝てずにいた存在、ライトハローと同じような立ち位置として描かれてはいます。ですが唯一違うのは、その先輩をライトハローが心の中で強く応援していたという点です。
こうした問答から、自身のエゴが何なのかについてようやく気づきます。
「ずっと、先輩のステージが観たかったんだ……。」


ファンとして見たくても見ることのできなかった先輩のライブステージ、そんな気持ちを同じウマ娘のファン達に感じてほしくない。何より、勝利に対しておめでとうという気持ちだけじゃない、様々な感情・感覚をファンが表現できる場所として、グランドライブを再認識するようになり、「ウマ娘とファンのためのライブ」としてグランドライブを再建しようと心に決めます。
ウマ娘としての苦い経験を持ちつつも、快活にウマ娘を応援しようともできる。ある種の無垢さを携えたライトハローは喜怒哀楽の表情がハッキリと出やすいキャラクターとしても描かれ、グランドライブ編のシナリオはよりドラマティックに映えるのです。
◆やっと僕たちは”出会える”のか? 大歓声が迎えてくれる未来へ
グランドライブ編シナリオをこのように読み直してみると、「ウマ娘」側の事情・心情の機微について一方的にフォーカスされるのではなく、ファンの声ひとつひとつがウマ娘に影響を与えるという描写に大きく割いていることが分かります。
これまで搭載された育成ウマ娘のシナリオと手つきは同じでありますが、根本的に質感が異なります。
このシナリオは「ウマ娘にとってレースとは?」という視点から入り込んで思案するうちに、「ウマ娘とファンとのあいだに築かれた信頼・愛情」そのものをしっかりと受け止め、コミュニケーションしているからです。同じタイミングで導入されたステータスの限界突破も、このシナリオに呼応しているのが伝わってきます。
「ウマ娘とレース」の関係性だけでなく、「ウマ娘とファン」の関係性をも捉えなおすような壮大なドラマツルギーは、1.5周年のメモリアルなタイミングに相応しい、重厚感あるシナリオへと仕上がっているのです。
その後進行していくシナリオでは、多くのウマ娘らにこれまで自身らが感じていた想いをストレートにぶつけ、URA側からもファン・ウマ娘からの大きな支持を得られているという判断のもと、グランドライブが復活。これまでのウイニングライブではなく、グランドライブというステージでライブパフォーマンスをして大団円を迎えます。
しかも楽曲は、これまで実装を待たれていた「GIRLS' LEGEND U」ということもあり、グランドライブ編シナリオが実装された日には大きな反響を生んでいました。
この楽曲は、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』がローンチする直前の2021年3月2日に公開されたOP映像で初めてお披露目されました。
始まりを告げるファンファーレと「Wow Wow」という合唱から、「やっとみんな会えたね」という歌詞からこの楽曲は始まります。
2016年にプロジェクトスタートを告げてから約5年、これまで期待に胸躍らせていたファンに向けてのメッセージとして、何より「ようやくウマ娘に会えた」「ゲームをプレイすることができる」というファン側の心境・期待をも代弁した一節でもありました。
そんな想いを交錯していたこの曲を、ウマ娘とファンの想いが交錯するこのシナリオに組み込むことによって、さらに光り輝くシナリオへと昇華することに成功したともいえるでしょう。「GIRLS' LEGEND U」が持つインパクトを再認識し、新たに強い思い出をファンに刻み込むことになったのです。
さて、このゲームがスタートしたのは2021年3月24日。コロナ禍の真っ只中な時期です。ウマ娘にとって重要なピースである「競馬」「音楽」というエンターテイメントは、「有観客での開催ができない」「無観客での開催・生配信での観覧を推奨される」などといった観客制限をモロに食らったアウトドアイベントでもあります。
2020年にはコントレイル、デアリングタクトと牡馬・牝馬ともに三冠馬が登場し、アーモンドアイと並び「同時代に3冠馬が複数いる」というこれまでにない激戦の時代となっていました。ですが、そんな3頭を間近で見れたはずの「世紀の一戦」2020年のジャパンカップは、入場制限の影響もあり入場者はわずか約4600人ほどに留まったといいます。
「あの大歓声、あの熱量に包まれたなかで、音楽やスポーツを見ることは今後叶わないのではないか?」と思える日々が続いていましたが、2022年に入ると、競馬・音楽ともにライブ興行のなかで「有観客」での開催を実施するパターンが非常に増えてきています。
11月5日・6日には『ウマ娘 プリティーダービー 4th EVENT SPECIAL DREAMERS!! EXTRA STAGE』がベルーナドーム(旧メットライフドーム)にて開催される予定です。
このように俯瞰してみてみるとグランドライブ編のシナリオを通して「ウマ娘にとってライブとは何か?」を問いかけ、再認識させようとアクションを起こしたのは、この2日間に繋がる布石のように感じられます。
ウマ娘を演じるキャスト陣、Cygamesのスタッフ陣、『ウマ娘』を愛するトレーナーらは、どのような気持ちを持ち寄って、この日を迎えるのでしょうか。約3万人以上もの大観衆が終結するであろうドーム会場で、気持ちをストレートにぶつけ合えることを願って止みません。