◆暗躍のアグネスタキオン 気づきを得たサイレンススズカ
科学力を駆使してスピードの限界を追い求めようとする研究者として本作内で描かれるアグネスタキオンは、自分自身を含めた「ウマ娘の肉体」に強い関心を持ち、普段のトレーニングはともかく度重なる重賞レースのなかでも「検証」を繰り返し、なにかしらの成果を得ようと躍起になっています。
怪しい薬やお菓子を作り上げてはトレーナーやウマ娘らに飲食させようと目論み、厄介払いされることもチラホラとあるほど。
なにが彼女をそこまでのマッドな性分にしてしまったのか、それは「ウマ娘が限界を超えた先には何があるのか?」を知りたいから。
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彼女の育成シナリオのなかでも、菊花賞などのレースに出る出ないで揉めたり、自身の考え・方針をコロコロと変えているのですが、その理由は自分は脚をケガしやすいということを理解していたからです。
「ウマ娘の限界の先」という夢を乗せるには、自分自身の脚に賭けるべきか、自分以外のウマ娘に賭けるべきか。いくつかの考えを巡らせながら「限界を超えた先になにがあるのか?」「どのようにすればウマ娘は自身の限界を超えることができるのか?」という領域にまで思考を巡らせるようになっていくのです。
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「グランドライブ」編に話を戻しましょう。そういった視点をもつアグネスタキオンがサイレンススズカに期待を込めるのは、彼女が「レースに勝つこと」「良い走りをすること」「先頭だけが見れる景色を味わいたい」という欲求を持ち、ヘビーな練習を自らに課しているからです。
スズカが脚に違和感を覚えたとき、サっと隣から声をかけたアグネスタキオンが現れ「君のスピードはまさに"誰にも到達しえなかった未知"に最も近い」とまで評しています。
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そこまでの才能をもつサイレンススズカを「グランドライブ再建計画」に関わらせようとするアグネスタキオン。狙いはズバリ「ライブでお客さんとのコミュニケーション、心を強く通わせることによって、ウマ娘の限界を超えることができるのではないか?」と考えているからです。
ですが、サイレンススズカはいまいちピンと来ていない様子。
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そんな彼女に、アグネスタキオンは「ファンと直接話をしてみたらどうかな?」とアドバイスを送ります。
クラシック級9月後半シナリオイベント「あなたに伝える方法」で、ついにサイレンススズカは自分のファンに声を掛けます。
とてもシンプルな問いかけに、推しが急に目の前に現れて慌てていたファンもうまく言葉を返していきます。
「レースは応援することしかできないので。一緒に声を出し合えることが嬉しいんです。同じ空間に、同じ想いになれることが。それにおかえりって言える場所だから」
その後自室に帰ったサイレンススズカは、スペシャルウィークにファンと会話したことを明かすと、スペシャルウィークはこのように熱っぽく答えます。
最初は不思議がっていたサイレンススズカも、ここまで話を聞いて「すこしだけ理解したわ」と答えます。
後日、エアグルーヴからエキシビジョンレースの打診をされた際には、新しい振り付けを覚えなくてはいけないという事情で弱腰に声をかけたエアグルーヴに対し、二つ返事で了承します。
「そこにも『お帰りなさい』が待っていると思うから。」
「ライブは私の走りとは関係ないわ」と答えていた彼女が、ファンと通じ合える場所として「ライブ」を再認識するようになり、前向きに捉えるようになったのです。
彼女のストーリーは、シニア級1月後半のシナリオイベント「君は『歌えるか』」にてドラマティックに描かれます。先述したエキシビジョンレースに出走したサイレンススズカは、出走直前の大声援を「いってらっしゃい」と受け取り、無事に1着でゴールイン。レース後のライブを披露しようとした際、観客から「お帰りー!」「今日はよく頑張ったねー!」と声援が飛んでいることにも気づきます。
「いってらっしゃい」「おかえり」という声をちゃんと聞くことができた彼女は、お客さんの表情が違うことにも気づきます。すると、自身の変化にパっと気づきます。
「またここに戻りたいって思ってる。みんなが待っているこの場所まで。」
「どこまで遠くに駆けていっても、この脚で必ず、絶対に。戻りたいって」
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それまでは先頭で駆け抜けていくこと、どこまでも遠くへと走り抜けていきたいと考えていた彼女が、「戻らなくてはいけない場所がある」と気付くこの瞬間。
これまでアニメ『ウマ娘』1期や育成シナリオで何度となく描かれてきた「史実を塗り替える」という、高熱なダイナミズムにも匹敵するドラマ性を生み出しているのです。
◆ミホノブルボン 流れないはずの涙を流すとき
もう一人、スマートファルコンのライブをみて戸惑いを覚えたウマ娘がいます。ミホノブルボンです。
クラシック級6月後半の2度目の告知ライブ時点では、ミホノブルボンはまだ再建計画に参加せず、お客さん側として見守っています。直後のシナリオイベント「揺れた心」では、ミホノブルボンはスマートファルコンに話しかけにいきます。
ライブを鑑賞するのはダンスレッスン以外にはありえない、それよりもレースに勝つためにトレーニングをすべきだと分かってはいるが、どうしてもここに足を運んでしまった。なぜだろうか?と。そんなミホノブルボンのエラーに対して、スマートファルコンはこう答えます。
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AIのような会話口調、鉄仮面のように表情が崩れないミホノブルボンは、作中で「高性能サイボーグ」のように吹聴されることの多いクールビューティとして描かれています。そんな鉄仮面な彼女が「ライブを見た」ことで心が揺れ動いたことが示されます。
スマートファルコンらとともに再建計画に参加することになり、3度目の告知ライブ時点で、トレーニングに励む彼女はこのように話します。
「与えられた指示。パフォーマンスを達成すべく、私は踊り歌いました。ですが先生は『想いが伝わる』と仰いました。私はなにを伝えたのでしょうか?」
理性的に物事を判断していく彼女らしい素朴な疑問、ですが彼女には何がしかの感覚を届けたいという想いがあるのでは?とトレーナーは彼女に伝えます。
ライブ開始直前、自身のファンと遭遇したミホノブルボンは、「あなたのファンレターが力になった」という一言が伝えきれず、そのままライブへと突入します。ライブ終了後再び自身のファンと出会うと、ファンは涙しながら「頑張りたい」という気持ちがいっぱい伝わってきたと彼女に話しかけます。
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ミホノブルボンにとってこれは成功体験であり、間違いのない確証として刻まれることになります。シニア級2月前半のシナリオイベント「後悔を振り払って」では、ライトハローが再建計画を一度中止しようと面々に伝えるところから始まります。
悶々とした空気が漂うなか、ライトハローに対して再建計画は本当に間違っているのか?といの一番に切り出すのは、ミホノブルボンです。
理性的な言動を示す彼女が「間違いのない確証」を胸に抱いているからこそ一番に声をあげた。スマートファルコンやサイレンススズカではなく、ミホノブルボンだからこその説得力ある行動として描写されているのです。
サイレンススズカと同じようにダンスやライブに愛着・思い入れを感じていなかったミホノブルボンが、明確に変わったと言えるシーンでしょう。
シニア級5月後半シナリオイベント「あなた"と"輝くステージで」では、ファンがしっかりと声をあげてメッセージを届けるファンたちの姿が描かれています。その光景をみたミホノブルボンの瞳からは涙が零れるのです。