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「じゃあ、造るしかないねぇ。あんたの艦をさ」
『無限航路』は『銀河英雄伝説』を彷彿とさせるようなガチガチのスペースオペラで、16歳の少年・ユーリの旅立ちと大きな戦争に巻き込まれていく運命を描く少年編、収容所惑星ラーラウスで10年の時を経た後の戦いを描く青年編の二部構成でストーリーが描かれています。
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トスカは「航宙禁止法」によって自由に宇宙へ出られないエルメッツァ連邦ロウズ自治領の人たちを秘密裏に手助けする違法な「打ち上げ屋」で、ユーリとの出会いも、彼がトスカに自治領からの脱出を依頼したのがきっかけでした。「ヒロイン」というよりは「未熟な主人公を導く大人の先達/師匠」ポジションにいるキャラです。
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自分の艦を造り、ついに星の大海へ飛び出したユーリとその妹チェルシー、そしてトスカは、自分たちのいる小マゼラン銀河が強大なヤッハバッハ帝国による侵攻の危機にさらされていることを知ります。しかし、それを食い止めるにはユーリは力不足で、トスカは彼を死なせないためにその命を散らせてしまうのでした。
「最後のセリフが女の名で死ねるかァァァッ!」
トスカの命を奪ったのはライオスという青年でした。しかもトスカは元々亡国の王女で、ライオスはその同盟国の王子にしてトスカの許嫁であったことが明らかになります。しかし、彼がヤッハバッハ帝国の侵攻を前にして両国を売ったことで、トスカはすべてを失ってしまったのでした。「自立した大人の女性」として描かれているトスカですが、その強さは生きるために必死で身につけた「鎧」だったのかもしれません。
さて、上でも軽く述べましたが、青年編はユーリが収容所惑星ラーラウスに送られて10年後から幕を開けます。そこでの過酷な日々は「線が細い美少年」だった彼を「屈強な戦士」へと成長させており、ラーラウスを脱走した彼はやがて屈強な艦隊を指揮する「アドホック・プリズナー」としてその名を轟かせるようになっていきます。
そうしてついにやってきた、ヤッハバッハ帝国との再戦の時。ライオスは軍事においては確かな才覚を持つ人物で、帝国でひとかどの将として名を馳せるまでに至っていました。そんなライオス艦隊との激突は、BGMに主題歌が流れるクライマックスの燃えポイントの一つ。そしてユーリ艦隊との戦いで自らの敗北と死を悟ったライオスは、思わずトスカの名を口にします。
そんな彼が迷いを捨て去るように見せた最後の意地が「最後のセリフが女の名で死ねるかァァァッ!」でした。ライオスはユーリにとってもプレイヤーにとっても「倒すべき敵」ですが、このひと言を聞いて筆者は彼を嫌えなくなってしまいました。どうも筆者は「自分なりの矜持をしっかり持っている敵役」に弱いようです。
身も蓋もない言い方をすると、トスカのような「未熟な主人公を導く大人の先達/師匠」ポジションのキャラは序盤の山場で退場してしまう作品も少からず見られ、残念ながらそれはトスカも例外ではありませんでした。
しかし、亡国の王女という秘められた過去や、彼女の運命を二度にわたって大きく左右したライオスの存在や言動がトスカの存在感を強固なものにしており、強固だからこそ、彼女を失ったときのプレイヤーの喪失感もまた大きい…という、濃厚な人間ドラマを演出してくれる「おいしい役どころ」であったとも思います。
また、『無限航路』は骨太なストーリーだけでなく、クルー集めや艦隊戦も実に楽しいタイトルでした。移植版やリマスター版をなんとか出せませんかね、セガさん!?
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