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「シドーは ベホマのじゅもんを となえた!」
『ドラゴンクエストII』のラスボスであるシドーは、邪教の大神官ハーゴンが自らの命を捧げて召喚した破壊神です。6本の手足と大きな翼を持つ異形の姿や圧倒的な攻撃力など、見た目も強さも印象的なラスボスですが、やはり一番印象に残るのは「HPを最大値まで回復するベホマを何度も使ってくる」ことでしょう。
苛烈な攻撃をしのぐだけで精一杯だというのに「また回復された!」という気持ちまで味わわされるのはかなりの絶望感です。しかしその一方で、ファミコン版を遊んでいてこう感じた人もいるのではないでしょうか。「あれ?ベホマを連発された割にはサクッと勝てたぞ」と。
タネ明かしをしますと、ファミコン版のシドーはHPが250程度しかないからです。ラストダンジョンであるハーゴンの城に出現するザコ敵のアークデーモンでもHPは210程度ありますので、これはお世辞にも高い数値ではありません。
そして、ここまで進んできたローレシアの王子であれば、一度の攻撃で40~50くらいのダメージを与えられると思いますので、ボスに回復手段を持たせてあげないと「場持ち」しないんですね。
高いどころか低いとすら言えるHP設定は、おそらくゲームの容量不足によるものでしょう。しかし「強かったけど5~6ターンで倒せてしまったなぁ」では印象に残りづらく、激闘を演出できません。ハーゴンの城で戦うことになるボス敵はバズズ、ベリアル、ハーゴン、そしてシドーとベホマを習得しているモンスターが多く、これはスタッフによる苦肉の策のようなものだったのではないかなと思います。
ちなみに、後年発売されたスーパーファミコンへの移植版『ドラゴンクエスト I・II』のシドーは「最大HPが大きく上昇した代わりにベホマを使わない(習得していない)」という調整がされました。それくらいにプレイヤーのトラウマだったのか、やはりベホマは苦肉の策だったのか…どちらであったかの区別は付きませんが。
だがそのベホマは許さない、絶対にだ
時代は下り2020年11月。シリーズ10作目であるMMORPG『ドラクエX』で長編クエスト「破界篇」の最終話が実装され、最大8人のプレイヤーで挑める「パーティー同盟バトル」のボスとしてシドーが登場しました。
そしてこちらのシドーは、なんとHPが約50万!しかも10分間の制限時間まで課されており、それを過ぎると強制的に敗北します。この高いHPと制限時間、そして苛烈な攻撃だけで十分脅威だというのに、使うんですよね…このシドーも。ベホマを。
一気に50万まで…とはいきませんが、一度唱えられるとHPが99,999回復してしまうので、こちら側の攻撃力がギリギリだった実装当初は「ベホマを唱えられたらほぼ敗北」というキツいバトルが楽しめました(少なくとも筆者は楽しんでいました)。
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「それは単なる運ゲーなのでは…?」と感じた方もいるかもしれませんが、こちらのシドーはベホマを使う条件がある程度決まっていたので、条件達成を極力回避できるように立ち回れるプレイヤーがいれば一度もベホマを使わせずに倒すことも可能だったのです。
断言はできませんが、おそらく「怒り発動時、狙っている敵がある程度近くにいたら一定確率でベホマを使用」というような条件だったはずです。つまり、怒り出したらすぐに解除すればベホマの使用率を大きく抑えられますので、筆者はいつも遠距離から怒りを解除できるスキルを持つ弓を装備できる職業で挑んでいました。
しかし、『ドラクエX』のバトルはリアルタイムで進行したり、範囲攻撃を移動してかわしたりというアクション要素もあるので、なかなか勝てないプレイヤーが大勢いたのも事実。その結果、ゲームのバージョンが進むのに合わせてベホマの使用率が下方修正されました。
まったく使われなくなるとそれはそれで寂しい気もするので、よい落としどころなのではと思います。
最後に余談ですが、『ドラクエII』の「悪霊の神々」というサブタイトルを見て「神はシドーしか出てこないのになぜ複数形なんだろう」と思ったことがある方はいませんか? ファミコン版をプレイしていた幼少期の筆者は、すごく気になっていました。
そしてこれは後年になって知りましたが、ハーゴンの城で立ち塞がる3体のボス・アトラス、バズズ、ベリアルはそれぞれ実在の神話に名を残す神や魔神の名前そのままなんですよね。本作の世界においても、この3体は「ハーゴンが召喚した神」だったのかもしれません。この解釈なら「悪霊の神々」という言葉もしっくりきます!
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