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孤高・独創・皮肉 でも愛らしくも憎めないピーナッツくん
2017年6月よりYouTubeにて投稿されている個人制作ショートアニメ「オシャレになりたい! ピーナッツくん」の主人公であり、
2017年12月22日に「バーチャルYouTuberとしてデビューしよう!」という内容のショートアニメを投稿しているなかで、先んじてぽんぽこさんがデビューすると、「ピーナッツくん」としてバーチャルYouTuberの活動をスタート。企業に属さず活動を続ける「個人勢」のバーチャルYouTuber(VTuber)/バーチャルタレントとして現在まで活動しています。
相方には同じく作品から派生してデビューした甲賀流忍者ぽんぽこさんがおり、「ピーナッツくん!オシャレになりたい!」チャンネルではアニメ作品と自身の音楽作品を主に投稿し、「ぽんぽこちゃんねる」ではぽんぽこさんと共演する形で動画投稿・生配信を中心に活動しています。
ピーナッツくん&ぽんぽこさんはかなりの頻度で共に活動してきたこともあって、ファンや同業者から「ぽこピー」という愛称で呼ばれています。
名前のとおり「ピーナッツ」をモチーフにしたビジュアルと等身、一度聞くと忘れることのできない粘っこいダミ声とクセがありすぎるキャラクター性で愛されています。
ぽんぽこさんとのやりとりなどにあるような漫才めいた会話を仕掛けたり、配信などでは少なくない友人に「上から目線」の喧嘩腰なスタンスで話しかけたかと思えば、皮肉めいていたり口下手なところがあったりと、どこかチグハグした会話のテンションも垣間みえるのも可愛らしく、それも彼らしさの一つともいえるでしょう。そんな彼の近くでぽんぽこさんが人懐っこく明るい振る舞いをみせていると、その違いがより強くみえてくるほどです。
前回の記事で紹介したぽんぽこさんの兄である「兄ぽこ」さんをご主人様と呼ぶピーナッツくん。ショートアニメ「オシャレになりたい!ピーナッツくん」を制作しつつ、主人公・ピーナッツくんや実妹を「甲賀流忍者!ぽんぽこ」としてVTuber/バーチャルタレント化させ、その活動を活発化させたという点において、兄ぽこさんの手腕・センスが図抜けたものなのは間違いないでしょう。
2019年7月には着ぐるみ姿となって現実世界にお目見えし、「ゆるキャラグランプリ2019」では「企業・その他」部門で優勝を果たすなど、ユニークなビジュアルと「画面の中」に留まらない活動領域でぽんぽこさんとともに広く活動していきました。
ピーナッツくん×ヒップホップ その作品群と挑戦の道のり
そんな彼の活動で見過ごすことができないのは、音楽活動です。
2020年6月17日にピーナッツくんの1stフルアルバム『False Memory Syndrome』がリリースされることを告知されると、23日にはリード曲として「グミ超うめぇ」を発表、30日にアルバムをリリースしました。
内容としては「ピーナッツくんというキャラクターの紹介」「ショートアニメで登場してきたキャラクターらも参加した音楽」という内容であり、キャラクターソング的な様相が強く出ている1枚です。
ここから一気に変化したのが、1年後となる2021年6月20日にリリースされた2ndアルバム『Tele倶楽部』です。
前作にも参加していたトラックメイカーのYacaが引き続き参加しつつ、もちひよこ、KMNZのLIZ、おめがシスターズ、名取さな、市松寿ゞ謡(いちまつすずか)といった自身のマイメンともいえる面々を起用。またラッパーのMarukidoさんがフィーチャリングしており、ボカロP・やながみゆきさんやAge Factoryのベーシストとして活動している西口直人さんがnerdwitchkomugichanとしてトラックを提供しています。
お風呂・サウナ好きといった趣味の話し(「風呂フェッショナル」)から、下世話でいかがわしいムードを漂わせた楽曲(「My Wife」「School Boy」「KISS」)、ひとりの個人勢VTuberとしてシーンのなかでも頭角を表してきた自信でもってボースティングを見せつけたり(「ぼくは人気者」「Superchat」)、ナチュラルに怒りをぶつけていく(「笑うピーナッツくん」「未来NEXTメシ」)、よりヒップホップな作品性へと仕上がっている作品です。
前作同様にタイプビート(〇〇っぽいビートのこと。YouTube/SoundCloudで見つけ、ビート販売サイトなどで購入・使用することができる)を多く使っていますが、どのトラックもトラップ、EDM、ベースミュージック、ドリルを感じさせるトラックが揃っており、J-POPらしい楽曲構造・サウンドをもった曲はほとんどありません。
そこにピーナッツくんのダミ声もオートチューンをうまくつかうなどし、さまざまなラップ・フロウをしてもトラックに一切負けていない武器となっており、VTuber/バーチャルタレントという枠を飛び越えていくような、挑戦的な一作がここに誕生しました。
2021年7月2日には、自身の活動4周年を記念する初のオンラインライブである「NUTS TO YOU!」を開催。ゲストにぽんぽこ、チャンチョ、市松寿ゞ謡、名取さな、もちひよこ、YACA IN DA HOUSEを迎えたライブは、3Dスタジオから届けられつつ、一瞬で着ぐるみモードへと変身したりと、彼らしい表現に溢れていました。
今年にも3枚目のアルバム『Walk Through the Stars』をリリースしましたが、もっとも大きなトピックといえば日本のヒップホップ史上にも残るであろうヒップホップ・フェスティバルとなった『POP YOURS』に出演したことでしょう。
「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」というテーマのもと、5月21日・22日に開催された同イベント。PUNPEEとBADHOPが大トリをつとめ、Awich、JP THE WAVY、KANDYTOWN、MONJU、kZmなどシーンを代表する面々が出演する中、メインアーティストの一人としてピーナッツくんが出演しました。
VTuber/バーチャルタレントらの大半は、いま現在でも「VTuber/バーチャルタレントをメインとしたライブイベント」には出演することが多いものの、他アーティスト・ミュージシャンも多く出演するようなライブに参加することはめったにありません。そもそもVTubrがライブ出演する・ライブ開催にしても、多くの制限・ハードルの高さが伴っているのが実情でしょう。
そんな大きな壁のなかにあって、「シーンを代表する面々らと混ざって共にライブパフォーマンスをする」だけでなく、「幕張メッセの巨大会場のド真ん中に着ぐるみ姿で登場してラップする」という一見すれば珍奇な光景をポップな形として観客に刺していく様は、まさに「VTuber/バーチャルタレントの挑戦」といって過言ではないものでしょう。「笑われにきたんじゃなくってちゃんとかましにきたんだ!」とシャウトし、会場をロックしていった姿は勇敢そのものです。
このほかにも、日本のヒップホップシーンの注目すべき人物に質問・回答していくインタビューメディアの「ニートTokyo」に出演、Red Bullが企画するラップ&サイファー企画「RASEN」にも出演・フリースタイルラップをかます、フリースタイル・ラップの第一人者・晋平太さんのチャンネルでも注目されるなど、徐々にその認知度を高めています。
デビュー当初「ぼくはVTuberとして認められていない。仲間として見ていられていない」と配信や動画の中で本音めいた愚痴をこぼすことも多かった彼。ぽんぽこさんとともに現在でも滋賀県甲賀市にて活動している彼は、地方・ローカルをレペゼンする(Represent:代表する)どころか、いまではVTuber/バーチャルタレントシーンをもレペゼンし、シーンの外側へと切り込んでいくほどになりました。
アニメーションのキャラクターからVTuber/バーチャルタレントへ、着ぐるみ化からゆるキャラへ、そして一人のラッパーとしてビッグになっていくピーナッツくん。その背中・進化は、オリジナリティあふれるビジュアル・活動歴とともに誰の影をも踏ませないレベルとなっているのです。