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名作を長らく期待されながら、迷作との烙印を押されたゲーム作品が、いまアニメ作品の影響を受けて再評価の波を大いにうけ、さらに新たな次回作まで発表された…
わずか1か月で『サイバーパンク2077』の周囲で起こった出来事をまとめてみると、このように評することができます。
2022年を代表するレベルの国産アニメ作品『サイバーパンク エッジランナーズ』。同作品の大ヒットによって生まれた大いなるウネリについて、その前段階からいちど大きくまとめてみたいと思います。
◆ゲーム『サイバーパンク2077』 制作・期待・ヒットと大きな失望
1980年代にリリースされたTRPG『Cyberpunk』シリーズをベースにしたゲーム作品を、『ウィッチャー』シリーズを手掛けたCD Projekt REDが制作するとアナウンスし、足掛け8年ほどの時間をかけて制作されたゲームが『サイバーパンク2077』でした。
サイバーパンク系作品の傑作である『マトリックス』シリーズで主演を務めた俳優のキアヌ・リーヴスの起用を始めとし、美麗かつ鮮烈な映像美が映えるゲーム画面はゲーマーの心をくすぐりました。
80年代から続くサイバーパンク的な要素・・・AIや武器を身体に馴染ませてサイバー化した人間/鮮やかなるネオンサインとサーチライト/先鋭化されたコンクリートジャングル/暴力と闘争によって混乱に陥った街並み/疲弊しきった者と血気盛んに生きる者との対比・・・2018年~2019年に発表されたティーザー映像にはそういった要素が随所に差し込まれていました。
コロナ禍の影響もあり延期に延期を重ね、2020年12月10日にリリースされた本作。
ですが、グラフィックス・操作・フリーズといったバグが多数確認され、ゲームユーザーから批判が相次ぐことになりました。期待値からすればあまりにも落差がある出来栄え・杜撰さがあったことを公式がみとめ、リリースしてすぐに返金対応を行なっていたことはネットニュースにもなるほどでした。
とはいえ、発売から数か月で約1300万本を世界中で売り上げていたこと、バグが多いながらもゲーム進行したゲーマーも多かったことは、当作品が編み出した作品性が段違いに良かったことを意味しているでしょう。gamesparkではリリース後1年経過した本作品を改めてプレイし、相次ぐ修正パッチによってメイン・サブのクエストともに抜群の面白さを誇っていることを再確認したという記事を公開しています。
そんな本作が、いま再評価をされているのです。
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◆アニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』は"伝説となった"のか?
事の発端は、2022年9月13日よりNetflixにて『サイバーパンク エッジランナーズ』が全世界独占配信されたことから始まります。
ゲーム『サイバーパンク2077』の前日譚・スピンオフとして制作された本作は、『キルラキル』『SSSS.GRIDMAN』『BNA ビー・エヌ。エー』『プロメア』などを手掛けてきたTRIGGERが手掛けています。
彼らのアニメーションといえば、劇画に近い写実さをうまくデフォルメを挟みつつ描く作画・原色などをうまくつかった彩色、2Dと3Dを組み合わせたレイアウト・動き回るアクションシーンとその数多さなど、一見すれば冷ややかでクールな印象を与えるサイバーパンクの世界観とは正反対。
TRIGGERはTRIGGERの流儀に則ったやり方で、『サイバーパンク2077』の野蛮さ・ディストピアな世界観と風景を描いてみせています。
「明日にはいきなり死ぬかもしれない」というギャング/マフィア/暴力団にも通ずるアウトローな生き方は、方や一瞬で燃え尽きてしまいそうな刹那的な一面を、方や親子・兄妹・男女のなかで繋がっていく愛情やさまざまな想いが交錯して生まれる切ない一面を、ストーリーのなかであぶり出していきます。
オリジナルキャラクターとして登場するデイヴィッドやルーシーらによって描かれる葛藤と決断の物語は、刹那と切なさが入り混じった「限界を生きる者(エッジランナーズ)」の生き様となって、見る者の心に焼き付いていくのです。
このアニメ作品が公開されてから1か月ほどですが、日本のアニメファンはおろか、世界中の同ゲームを知るファンやアニメファンの胸を突きました。
ゲームリリースから一気に盛り下がった本作品に再度ログインしてプレイする者や、アニメをキッカケにして「その後の物語」が気になったファンがゲーム作品に手を出したことで、なんと2022年8月と9月で比較するとログイン率が約10倍以上に増え、平均プレイヤーが一気に4倍に増えたのです。
これはCD PROJEKT REDの過去作『ウィッチャー3』を超える記録となり、しかも2年前にリリースされたゲーム作品が一気にここまで盛り返したことも驚かれる要因になるでしょう。1日で1万人ほどがログインしていたゲームが、1日で13万人以上に一気に増える、まさに「奇跡的なカムバック」と評しても過言ではないでしょう。さきほど「胸を突いた」と書きましたが、もはや「胸にぶっ刺さった」といっても過言ではないレベルです。
この影響はゲームだけにとどまらず、発表前から話題をさらっていた音楽の面にも波及。Spotifyのバイラルチャート(Spotify上から様々なSNSでシェア・再生された回数などのデータを基にしたチャート)ではほどなくしてFRANZ FERDINAND/RAT BOY/Dawid Podsiadłoらの関連楽曲がランクイン。
何より「I Really Want to Stay At Your House」は日本・グローバルでともに1位を獲得、同楽曲を使用した特別MVが急遽公開となったりなど、その影響がどれほど大きいかが分かるでしょう。(同曲MVはネタバレ要素を大きく含んでいるので、視聴の際は注意していただきたい)
ヒットはしたものの不評を買ったゲーム作品、そんな外伝アニメとして登場した本アニメによって、ゲーム本編がリバイバルヒットし、音楽作品にまで大きく波及していく。アニメ公開からわずか1か月でここまでのことを成し遂げた…もはやゲーム内のセリフになぞって「伝説になった」と書いてしまいたいほどです。
アニメ作品のリリースに合わせ、『サイバーパンク2077』でパッチ1.6「エッジランナーズ アップデート」が9月頭に開始され、2023年には大型アップデートとなる「仮初めの自由(PHANTOM LIBERTY)」を予定していること、さらに「ウィッチャー」シリーズとともに「サイバーパンク」の次回作の制作を予定していることが10月5日に発表されました。
とはいえ、「ゲームを作る」とアナウンスしてから数年以上の間が空いたことがあるのは、この原稿の冒頭でも紹介した通り。しかもバグだらけで作品をリリースしたことも加味すれば、ここまで素晴らしい再評価の波があっても見過ごしてはいけない部分にはなります。
いまは「サイバーパンク エッジランナーズ」でも描かれたような、燃える火のような刹那な生き方と、終わりへとひた走らざるを得ない切なさが交差する物語として、『サイバーパンク2077』を体験しつくしてほしいところです。