国産RPGの傑作と言えば何を思い浮かべますか? ドラゴンクエスト? それともファイナルファンタジーでしょうか? 確かにどちらも正解です。しかし、RPGの歴史を語る上で絶対に忘れてはいけないシリーズがあります。それが、スクウェアが生み出した『サガ』シリーズです。
本稿では、最新作『サガ エメラルド ビヨンド』発売決定を記念して、『サガ』シリーズが持つ唯一無二の魅力を考えつつ、現在遊べる『サガ』シリーズの中からオススメのタイトルをいくつかピックアップして紹介したいと思います。是非、アイスの棒でも舐めながらゆっくりご覧ください。
そもそも『サガ』とは? あまりに意欲的すぎるゲームデザインと、綿密に作られた壮大な神話
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『サガ』シリーズは、1989年にスクウェアより発売された『魔界塔士Sa・Ga』から続くRPGです。そのほぼ全作を河津秋敏氏が担当し、そのあまりのオリジナリティから河津ゲーとも呼ばれています。どんなところにオリジナリティがあるのか、複数のポイントに分けて見ていきましょう。
1. 作業感を消す英断 レベルの概念がない冒険
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多くのRPGはキャラクターに経験値とレベルを付けることで、ゲームバランスを維持しております。しかし、『サガ』シリーズのほとんどの作品にはレベルがありません! 敵を倒しても経験値は貰えず、その代わり戦闘中の活躍に応じて攻撃力やHPといったパラメータが増加します。
「このレベルになったらボスに勝てるんじゃない?」といったあるあるパターンが透けて見えることはなく、実際に戦ってみるまでどうなるかわからない緊張感があります。また、この戦闘の緊張感を保つために『サガ』ではもっと大きな工夫を備えています。それは次項で見てみましょう。
2. 敵モンスターがこちらの強さに合わせて強くなる
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ながらプレイでレベル上げしたり、久々に序盤のマップに向かったりすると、ランダムエンカウントが著しく簡単で作業感を覚えることがありますが、『サガ』ではそんなことはありません。常に主人公パーティーのパラメータを参照して、敵モンスターの強弱が変動します。
また、一部の『サガ』では戦闘回数によって世界中のイベントが進んでいくので、ひたすら戦闘を繰り返してパラメータを上げていたら、戦争によって街が滅んでいた! ということが平気で起きます。主人公のために世界があるのではなく「世界があってその中で主人公たちが生きている」ということがまざまざとわかるスゴい仕様と言えるのではないでしょうか。
3. ある日突然思いつく! 閃きというユニークな戦闘システム
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『サガ』の戦闘にはまだまだ面白いところがあります。「閃き」というシステムが特にユニークで、これはひとつの武器種で何度も戦っているとキャラクターが突然スキルを思いつき、その場で試すことで以降そのスキルを習得する……という仕組みです。この閃きは当然ゲーム内部にテーブルやルートがあるわけですが、それらはゲーム中に確認できないので、何度も試して体感で覚えるほかありません。
上記のレベルがないというシステムとも相まって、周回時にキャラクターが毎回同じタイミングで強くなるわけではないので、「今回はこいつが育ったからこいつと冒険しようかな」という形で編成を色々と試すことができます。ハードに一本のRPGを遊び倒したい人にはたまらない作りになっていますね。
4. オープンワールドの先駆け? どこにでも行けるフリーシナリオ
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『サガ』の多くの作品は、オープニングとエンディング以外のほとんどのイベントを自由に選び取れます。どのタイミングで解決してもいいし、もちろんやらなくてもいいし、先述した通り勝手に終わっていることもあります。
とはいえ「それって現代のオープンワールドもやっていることでは?」と思われるかもしれません。表面的にはそうだと思います。しかし、『サガ』はフリーシナリオが成り立つためにいくつかの工夫を凝らしています。
ひとつには、イベントの報酬を武器や防具などに絞っていることです。レベルがなく、敵が自動で強くなってしまう作りなので、強い武器を手に入れられればそれだけ敵に対して有利が取れます。この辺のバランスが絶妙なんですよね……
他には、『ロマンシング サガ2』などで採用されていることとして、マップの広がりをちゃんと感じられるという点です。『ロマンシング サガ2』では主人公が皇帝であり、世界中の地域を探索し、その土地土地の問題を解決してあげることで、自分たちの領土が拡大するという物語展開になっています。壮大な水戸黄門みたいな感じですね。多分。
それにより、攻略したイベントがある街は以降ファストトラベルができるようになるので、ちょっとずつ世界がクリアになっていく体験が得られます。『シヴィライゼーション』シリーズのような感覚をコマンドRPGで楽しめるわけですね。
5. 壮大に広がる神話世界に対して、あまりにも簡素な会話劇
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『サガ』の神話はいつもユニーク且つ非常に広がりを感じるものです。
『サガ スカーレットグレイス』では、十二星神とファイアブリンガーという神々が出てくるのですが、主に彼らの対立がストーリーの中心となります。しかしながら、それを理解するためには世界を巡って吟遊詩人が語る断片的な詩を聴く他なく、初回プレイではよくわからないままにファイアブリンガーと戦うことになるでしょう。
人々による神話の語られ方にも注目したシナリオで、神々はどう語られてきたのか、実態とどう乖離しているのか、といったあたりがポイントとなってきます。かつて存在した巨大な「帝国」も重要なファクターであり、『ロマンシング サガ2』のセルフパロディとも言える内容ですので、是非ともチェックしてみてください。
他にも、ゲーマーのあいだで有名な話として、『ロマンシング サガ』では、サルーインという神を封印するためにデスティニストーンという宝石が用いられたのですが、これがシナリオ上は10個あるとされています。
しかし、ゲームをどう遊んでも絶対に7個しか集まりません。3個のデスティニストーンはあくまで余白であり、神話上の存在でしかないのです。こうなった経緯は河津氏本人がX上で語っております。こういった外しの美学が『サガ』の良いところだと筆者は思っております。
一方で、RPGはキャラクター同士の生き生きとした会話が大事という人もいるでしょう。そんな人が『サガ』の会話を読んだらひっくり返るかもしれませんね……。
『サガ』を語る上でよく使われる言葉に「河津節」というものがあります。『ドラゴンクエスト』の堀井雄二氏も、それとすぐわかる独自の言い回しをよく使いますが、河津氏の場合はさらにブッ飛んでおります。
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たとえば、仲間キャラクターが増えるイベントがあります。RPGの目玉中の目玉といっていいシークエンスですね。悲喜こもごものドラマが作れたり、ダイナミックなカットシーンを作れたりする部分でしょう。しかし! 河津氏はそんなシーンには一切興味がない! 「仲間になる?」「なるかー」たったこれだけです。この程度の掛け合いで着いてきた仲間が、ラスボス戦まで隣にいてくれます。
他にも「アリだー!!」だの「ねんがんのアイスソードを手に入れたぞ!」だの、名言を上げれば枚挙に暇がありません。とはいえ、泣けるイベントがまったくないわけではなく、筆者は『サガ フロンティア』のT260Gのエンディングでホロッと来てしまったので、是非ともチェックして欲しいと思っております。
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と、特長を挙げただけでもかなりの文量になってしまいました……続いて「では、どのシリーズから入ったらいいの?」という点にお答えしていこうと思います!
リージョンシップで時空を駆けろ! 『サガ フロンティア リマスター』
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オリジナル版は1997年にPlayStationで発売された本作は、7人+1人の物語を追いかけるオムニバス形式の作品です。
物語の舞台は「リージョン」という単位で細かく分断された世界で、サイバーパンク風の小汚いスラム街のあるクーロンや、日本の関西風の土地に古墳がデカデカと鎮座しているシュライク、すべてのリージョンの治安を維持している機構があるIRPOなど、いくつもの国や地域が混在しています。この設定は新作『サガ エメラルド ビヨンド』にも通ずるところがありますね。
キャラクターたちも個性的で、悪の組織に立ち向かう変身ヒーローであるレッドや、妖魔の血を受けて半妖となってしまった少女アセルス、滅びゆく故郷を救うために奔走するモンスターのクーンなど、どのキャラクターから始めればいいか迷ってしまいます。壮大なロボットバトルが展開されるシナリオもあれば、放蕩息子がブラブラしているだけで終わるシナリオもあり、ゲームとしての幅の広さを感じられます。
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目玉となるシステムは、本作からシリーズに導入された「連携」。味方同士の攻撃が連続した時、ランダムで技と技がくっついて、より強力なひとつの技に合体することがあります。当然こちらもどの技がどう連携するかなんてどこにも書いてありません! 閃きと同じく、色々と試してみるのがオススメですね。
リマスターではヒューズというキャラクターが追加され、他7人の物語を別の視点からも追えるようになりました。是非とも全キャラクターコンプリートまで遊んでみてください!
領土を拡張し、七英雄を打倒せよ! 『ロマンシング サガ2』
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これぞ歴史に残る伝説のRPGです。「サガと言えばロマサガ2!」という人もいるでしょうし、七英雄を最高のラスボスに挙げる人も少なくありません。スーパーファミコンを代表する一本と呼んでも間違いではないでしょう。筆者がマジで友人にオススメするときは「いいからやれ」と言っています。
主人公は領土拡張を目論むバレンヌ帝国の皇帝ジェラール。七英雄の一人であるクジンシーに父を殺され、即席の王として民を導いていかねばならなくなりました。世界中を旅し、あらゆる地域の問題を解決しながらも、自国の発展も気にしていかねばなりません。
本作のユニークな点は四つあり、一つ目は「閃き」です。もう説明不要でしょう。二つ目は「陣形」。どの位置に誰がいるかによって速さや守りが変わってきます。陣形を知っている人物をパーティーに入れることで増えていく作りが面白いですが、こちらも今となっては珍しくありませんね。
三つ目は「開発」。バレンヌ帝国は一日にしてならず! 冒険の合間に帰ってきて、臣下にアレコレと指図し、大学の設立や武具の開発を進めましょう。RPGの中にシミュレーション要素が入っており、それらが絡み合っているのが面白いですね。これをおろそかにするといつまで経っても強力な術や武具が手に入りませんよ!
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四つ目は「継承」。皇帝は「継承の法」という力で、今までに培った力を次代の皇帝に授けることができます。道中で力尽きたり、寿命が来たりすると、時代が進むので、新しくパーティーを組み直さなければなりません。長い冒険で凝り固まったパーティー編成を選び直したり、開発を見直したりするチャンスです。このシステムのおかげで、他のシステムが有機的に動いているのがよくわかります。
(ちなみに、この継承のシステムを利用した「ルドン送り」という非人道的な裏技もあったりします……)。
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シナリオの作り方もとても面白く、七英雄というヴィラン側の問題が中心となって語られます。主人公を待ち受けるイベントトリガーとして置かれているわけではなく、訳あって世界中に散らばった彼らの行動原理を読み解くことになるので、必然的にシナリオへの解像度も上がっていくわけですね。是非とも隅々まで探索し、自分だけの帝国記を作り上げてください!
戦闘とイベントだけの超ストイックなRPG『サガ スカーレットグレイス 緋色の野望』
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最後は『サガ スカーレットグレイス 緋色の野望』をご紹介。こちらはPS Vitaで発売された『サガ スカーレットグレイス』の拡張版となっていますので、今から買うならこちらをオススメします。現在遊べるサガシリーズの中では最も新しいタイトルでもありますね。
今作の特徴は何といっても、街とダンジョンが無いこと! キャラクターが動き回る全体マップと、イベントが発生するロケーションがあるだけで、あとは戦闘しかありません。暗い洞窟を歩き回ることも、華やかな街を見て回ることもしません! バトル、バトル、バトルの連続です!
よって、最初は面食らうかもしれませんが、やってみると意外としっくりくるのがサガの凄いところ。相変わらずの河津節全開のテキストも面白いし、何がどう繋がってフラグが達成されているのかわからないイベント群も驚きの連続で、いつものサガが待っています。
そしてなによりも何千回と遊ぶことになる戦闘システムは、もうコマンド選択式バトルの最高傑作と豪語していいほどよくよく練られた作りになっており、表面部分を解説するだけでも記事がひとつ書けちゃうくらいの奥深さがあります。
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ちょっと違った感じだけど、でも底抜けに面白いRPGがやりたいという人に激オススメです!
以上、『サガ』シリーズの魅力に迫る&オススメ3選でした。他にも小林智美氏の溜息が出るほど美しいイラストや、伊藤賢治氏が弾く名曲の数々など、語らないといけないポイントは山ほどあります。ですが、まずはこのめくるめく『サガ』の世界を体験してもらうのが一番だと思うので、ぜひぜひ遊んでみてください。今こそ国産RPGの伝説のひとつに触れられる最良のタイミングですよ!