◆「Angel Beats!」コラボの反響とWFSが提示した“再構築”の影響
配信後の『ヘブバン』にとって新規プレイヤーたちを再び取り入れる大きな転機になったのは、やはり前述した「Angel Beats!」コラボだろう。1周年のタイミングで初めて実施されたコラボレーションは大きな話題を呼び、新規プレイヤーへの訴求には十分だった。
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『ヘブバン』プレイヤーの中には「Angel Beats!」を視聴して育った世代がたくさんいる。麻枝氏のファンにとっても思い出の作品として挙げる人が多く、かく言う筆者の周りでも、学生時代は「Angel Beats!」の話題を耳にすることが多々あったくらいだ。
そんなコラボレーションが発表されたのは、1周年記念のリアルイベント「ヘブンバーンズレッド1st Anniversary Party!」だった。当時会場の取材に訪れていた筆者は、「Angel Beats!」コラボのPVが発表された瞬間の会場の反応がいまだに忘れられない。
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アニメのオープニング楽曲「My Soul,Your Beats!」のピアノの旋律が響くイントロが始まると、会場のファンは喜びというよりも一瞬困惑していたのだ。それは「嬉しさ」と「驚き」が同時に込み上げてきたからにほかならない反応だった。
映像が進むにつれて会場のボルテージはやがて最高潮に達していき、大歓声となっていく。映像が終わると余程感極まったのか、今度は客席から啜り泣く声まで聞こえてきた。
それほどまでに麻枝氏の作品に対し、並々ならぬ愛着を持ったファンが多いことの証明であった。今ではインターネットやSNSを通して誰もが自由に気持ちや思いを発信できる。しかし、どこの誰でその作品が本当にどれほど好きなのか、テキストや動画配信だけでは伝わりにくいもの。
こうしたリアルの場で人の情緒が大きく揺り動かされる姿を目撃したことで、そういう世界があることを改めて知ることができた。記者としての貴重な経験にもなったし、『ヘブバン』にそれだけの力があることを知っているからこそ、その光景には説得力がある。
コラボストーリー「コスモスが咲き続けた場所」では、茅森率いる「第31A部隊」と、仲村ゆり、立華かなで、入江みゆきら3人の交流を描きつつ、やがて入江の過去へと物語は収束していく。
これまで描かれなかった分、入江の独白パートは特に濃密に描かれており、「Angel Beats!」ファンにとっても満足できるボリュームとなった。ゆーげん氏が描き下ろす「Angel Beats!」のキャラクターたちも『ヘブバン』の世界に調和して溶け込んでおり、コラボレーションで嫌がる“異物感”はない。
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コラボによる盛り上がりを見せた後、1.5周年では「再構築」をテーマに、ゲーム全体の遊びやすさを向上させる大型アップデートを行った。運営型のタイトルでこうした施策を行うのは珍しい話ではないが、“1.5周年”と比較的早いタイミングで舵を切ったことが、休眠プレイヤーたちの早期復帰に寄与している。
『ヘブバン』はストーリーを除くとキャラクター育成がゲームの主要コンテンツだ。その育成関連に割く時間が大幅に短縮され、ゲーム進行のフローも大きく改修されることになった。これにより新規プレイヤーはよりストーリーを集中して楽しむことができている。
これまで積み上げてきたものを大きく変化させていくのは、開発チームとして恐らく苦渋の決断だったろう。中にはオミットされた要素も多く含んでいたからだ。だが、ライトフライヤースタジオは私情を呑み込んでプレイヤーファーストな姿勢を貫いたようだった。この頃から目に見えてゲーム内での基本的なキャラクター育成が楽になる。
1.5周年の記念施策と合わせて、新規プレイヤーはここでも増加していた。Sensor Tower公開のレポート【1.5周年を迎えたヘブンバーンズレッド、記念施策が好調でDAUが大きく伸び、ランキングも上昇】では、より詳細なデータが公開されている。いちプレイヤーから見ても人に勧めやすいタイミングであった。
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◆WFSの焦りを感じた2年目。『ヘブバン』はRPGであるべきか否か
2周年ではメインストーリー第五章前編と、「Angel Beats!」コラボ第2弾が目玉となった。第五章前編ではついに茅森の過去にスポットが当たる。メインストーリーは毎度相当な開発コストを掛けて制作をしており、情報番組における柿沼氏の口ぶりからは、家庭用ゲームソフトのような作り込み加減であることが伺い知れる。
イベントストーリーを含めて全編フルボイス、かつスタミナ消費なしでメインストーリーを丸々遊べてしまうタイトルは、RPGだとかなり珍しい。そのイベントストーリーもよくあるスピンオフドラマ的なものと言うよりは、ほとんどが“メインストーリー内におけるどこかの時間軸”といったテイスト。といっても、その中には切り口を大きく変えたIF展開のイベントストーリーも見られる。
コラボストーリー以外は基本的にゲーム内にアーカイブされ、いつでも過去のイベントストーリーを楽しむことができる。しかも当時取れなかったイベント報酬まで回収できる親切設計だ。
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メインストーリーの開発が進められている期間中は、こうしたイベントストーリーが毎月配信されていき、他部隊の日常やキャラクターの過去を深掘りしていくというのが主な流れとなっている。
追加されるメインストーリーのリリースに時間が掛かっていることは、これまでも情報番組の中で度々触れられてきた。それについて批判的なユーザーもいる一方、気長に待つユーザーもいる。
市場に出回る多くのスマートフォンゲームタイトルは、アップデートの度に少しずつ物語が進行していく。しかし、『ヘブバン』はほとんどの場合、メインストーリーにひとつの区切りを付けるところまで1度に実装する。
結果、ストーリー体験を損なわないための方針が、プレイヤーを待たせてしまっているという状況が生まれた。ただし、メインストーリーを少しずつ小出しにされる方が、『ヘブバン』の物語の魅力は薄まってしまう。
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長い時間をかけて熟成されたひとつのコンテンツを、配信直後に集中して駆け抜けた方がストーリー体験は確実に濃密。確かにプレイヤーたちがメインストーリーを渇望するのも頷けるが、ぶつ切りではドラマ性が弱まるだろうから悩ましい。
やがてプレイヤーの反応を気にし過ぎたのか、結局ライトフライヤースタジオは第五章中編をPart1、Part2と分けてしまった。その間もイベントストーリーや「Angel Beats!」コラボ第3弾、サイドストーリーの側面を持った「制圧戦」を配信してきたが、第五章中編のPart1、Part2をプレイした上で言わせてもらうならば、やはり勿体無いと感じてしまった。
Part1、Part2は前編・後編ではなく、ボリューム感で言えばプロローグと本編のような分け方で違和感こそ少ない。が、だからこそ一つにまとめてさえいれば、よりまとまったシナリオボリュームとして楽しめたはずである。Part1プレイ後は次が楽しみになるよりも「え、これで終わり?」と、素で声が出てしまっていたくらいだ。流石にこれは、ライトフライヤースタジオの焦りを感じた瞬間であった。
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リリースが遅れることについての批判的な声の中には、開発工数がかかりそうな3D探索パートや、RPGの戦闘部分をオミットして、アドベンチャーパートだけを楽しみたいとする声もある。その理屈自体は理解できるが、それは『ヘブバン』の進化と発展、ライトフライヤースタジオの挑戦と理念を軽視している意見だと思ってしまう。
運営型タイトルなのに家庭用ゲーム機向けRPGに近いプレイフィールを誇る『ヘブバン』だが、そこには同じライトフライヤースタジオのタイトル『アナザーエデン 時空を超える猫』のDNAを随所で感じ取ることができる。この作品もまた腰を据えて遊べるスマートフォンRPGとして知られており、『ヘブバン』が大きく評価されているポイントには、そうした既存作で積み上げている影響も大きい。
3D探索パートは操作性の部分でまだ改善する余地があるものの、作中の世界観を3Dのロケーションで密に表現することが、結果的に章のクライマックスで登場するハブキャンサーの超常的な特性や、キャンサーたちの無機質な恐怖感、あるいは人類にとって脅威である存在を再認識させることに一役買っている。
プレイヤーが茅森を操作して、キャンサーの影響を強く受けたエリアを歩き回ることが、ストーリーにおいても“いつ誰が死亡するか分からない”決死の戦いの緊張感を引き立てている。なので、少なくとも筆者は開発に時間がかかったとしても、3D探索パートで重要局面を描写してあげる必要がある、と良き方向に考えている側だ。
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それに『ヘブバン』プレイヤーたちはストーリーだけを語らない。新スタイルの性能、スコアアタックの感想、キャラクターの2Dイラストや3Dモデル、新楽曲にライブモードのクリア報告、声優陣に関することから柿沼氏の年中半袖姿についてまで、ゲーム内外問わず多彩なのだ。
基本無料のスマートフォンアプリゲームだからこそ、幅広い層のプレイヤー同士がさまざまな要素で自分なりに作品について語り合える。これらの多くが開発を行うライトフライヤースタジオのRPGづくりの中で付帯していった魅力要素だったろうし、遊びやすいRPGだからこそプレイし始めたユーザーは多い。ゆえにRPG要素は必要不可欠な売り文句である。
そして、ライトフライヤースタジオはコーポレートサイトにおいて「新しいゲーム体験を生み出すこと。」「多くの人に楽しんでもらえるものを作ること。」「クオリティに妥協せず、最高のゲームを生み出すこと。」と、これら3つを掲げている。
同社のモノづくりにおける姿勢は『ヘブバン』で大いに発揮されて、やがてプレイヤーたちにも評価されるに至った。ゲーム開発の姿勢はそもそもここからブレていないし、Key側も妥協しないライトフライヤースタジオだからこそ、『ヘブバン』を託しているはず。これらがなければライトフライヤースタジオとKeyの化学反応は起こり得なかったろうし、今ほどのヒットに繋がったかどうか、大きな疑問が残るところだ。
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筆者自身も本作をRPGとして楽しみ、自分のパーティ編成を育て上げてメインストーリー第二章、第四章後編と続き、第五章前編でも、麻枝氏の楽曲に乗せたシナリオ運びで涙腺を滲ませてきた。その感触自体は心地良いものだし、ストーリーもしっかり面白い。物語の続きが読みたくて、戦闘部分を煩雑に感じることもなくはないが、天塩にかけて育てたキャラクターたちと物語を歩めるからこそ、一層ゲームとして楽しめている。
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ゲームライターは日々ゲームの最新情報に触れ、ゲームを遊び、ゲームを分析し、ゲームについてアウトプットする。まさしくゲーム三昧な日常ではあるが、それが仕事になると、別に趣味の時間を設けなければ、他のサブカルチャーに触れている時間がない。
自分の話で言えば、感動的な映画やアニメーションは基本見ないし、評判のノベルゲームはいつも途中で辞めてしまう。だが、『ヘブバン』ならばRPGを遊べて、ストーリーも良い感じの起伏と共に楽しめる。あと泣ける。
泣くことがめっきりと減った最近では、唯一『ヘブバン』に泣かせてもらうことで、心の濁りを洗い出すような生活。そんなRPGとアドベンチャーの掛け合わせを濃密に楽しめている自分は『ヘブバン』に魅了されている証明になれているだろうか。
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『ヘブバン』の2.5周年までには、実に色々なことがあった。筆者は単にプレイヤーとして『ヘブバン』が好きなわけだが、なんだかんだそれが公式の取材以外で仕事に繋がることが増えてきたのだ。
2.5周年を控えている頃、作中のシネマティックを担当したStealthWorks(ステルスワークス)の米岡氏とSNSでやんわりと繋がり、そこから同じく『ヘブバン』で米岡氏と繋がっていた高校生のインタビュー企画が動いた、なんてこともある。
筆者は仕事で『ヘブバン』の周年イベントの取材に出かけて、ほんのたまにSNSで『ヘブバン』について呟く程度だ。だが今になって振り返ると、自分の記者キャリアの中にはいつも『ヘブバン』という存在がいた。
ゆーげん氏のイラスト投稿を記事化したときは、本人がSNSで拡散してくれたのが嬉しかった。だが、ファンの自分と記者の自分は明確に分けなくてはならない。有名イラストレーターや声優陣へのインタビューをしたとき、サインをねだりたくなる気持ちは押し殺す。それが大人というもの。
ゲームライターとして大きく成長させてくれたのは、厳密に言うと他のタイトルだが、自分にとっては今や『ヘブバン』も欠かすことができないゲームである。2.5周年はそんな感謝と共に、ゲーム内のキャンペーン施策でたっぷりと楽しませてもらっていた。
◆やっと来た第五章中編 Part2。これからの『ヘブバン』はどんな話題を生み出すのか
2月21日にはついにメインストーリー第五章中編のPart2がリリースを迎えた。この日を待ち望んでいたプレイヤーは多い。もう少し時間を遡ってみると、2月9日には制圧戦の後編が配信されていて、期間限定ピックアップキャラクターの七瀬七海が実装されている。セラフ部隊員ではなく司令部所属の七瀬は、武器のセラフを扱うことができないため、専用の乗り物であるフロートバイクに跨って戦う。
七瀬は淡々とした物言いで、軍の業務を日々真面目にこなしているキャラクターなのだが、顔色ひとつ変えず淡々とボケもかますシュールさ加減がユニークで、キャラクター人気は非常に高い。「ヘブバン人気投票」ではプレイアブルキャラクターではないのに、2023年度、2024年度ともに上位入賞を果たすほどの人気ぶりだった。
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3部にわたって実装された制圧戦では七瀬が茅森たちに同行し、フロートバイクで任務をサポートする。また、このコンテンツでは七瀬の過去についても掘り下げられていく。
「ヘブンバーンズレッド3rd Anniversary Party!」の中で、七瀬のプレイアブル化は大いに盛り上がった発表だが、タイミングなどから何となく予想していたプレイヤーもいたようだ。司令部のキャラクターで戦うことができるのは七瀬だけでないため、今回の実装を機に、他の司令部キャラクターに期待を寄せているプレイヤーたちもいる。
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これから『ヘブバン』は4周年に向けて動いていくことになる。プレイヤーたちの知らないところで、さまざまな企画や展開がすでに動いているだろうし、それを予想するのもプレイヤーたちの楽しみだ。大きく期待されているのは、他のKey作品とのコラボだったり、TVアニメ化の話だったりだろうか。
メインストーリーも第五章後編がこれから実装されていく。早速、第五章中編のPart2を夜通しプレイして、今回も感情が置いていかれるような心持ちでエンディングを迎えた。ようやく五章に区切りが付くと思うと、物語自体が着々と完結に向けて動いている気がしてならない。プレイヤーたちの間では、ゆーげん氏の描くキービジュアルから、あらゆる予想が立てられているが、果たして麻枝氏は今後どんな方向性にシナリオを転がしていくのか。
ここまで長々と好き放題に書いてきたが、特に誰かに依頼されたわけでもなく、たまにはこういうチャレンジをしても良いだろうと思い立ち、筆を好き放題に走らせてみた次第。今後も自身のキャリアの中でまた『ヘブバン』に関連した新しいチャレンジができたらこれほど嬉しいことはない。
そういえば、昨年末はお酒の勢いでGAME Watch編集部員に『ヘブバン』を激推しするなんて一幕があった。別に仕事に繋げようとかは考えておらず、その編集部員がたまたま『ヘブバン』を少し遊んでいただけの話ではあるが。何はともあれ、今後もプレイヤーとして『ヘブバン』との距離を縮めていきながら、まったり推しであるシャロを育成していこうと思う。ゲームライターとしても『ヘブバン』ファンとしても、末永く楽しんでいきたいものである。
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