砂の粒子が太陽に照らされてキラキラと輝いている。風に吹かれたのか少し波打っているのが印象的だった。このたった10秒ほどのシーンは「だからPS3で発売するんだな」と、説得力のある映像美を持っていた。
太陽は陽炎を起こし、だだっ広い砂漠に石製の卒塔婆のようなものがゆらゆらと存在を示している。なんだろうここは?その疑問を持ったまま映像が切り替わると、赤いローブに身を包んだ女性(私にはそう見えた)がぽかんと座禅を組んでいるのを発見した。そこにうっすらとコントローラーが表示され、ああもう動かせるのかということに気づく。いったいキミは何者だい?そう思いながら、目的もわからずぐるぐると移動したり辺りを見渡してみたり。製作者が自分のグランマにも遊んでほしいということで、操作は1分もあれば感覚的にわかるようになっている。
次に見つけるのが冒頭でもお伝えした“石製の卒塔婆のようなもの”だ。ここから、このなんだろう?という好奇心が赤い人物を動かす動機となっていく。砂山の上に佇む卒塔婆には、なにか細長い布が先端についていて風になびいている。すぐに駆けつけたいものの、砂の斜面に足がもつれ、先走る好奇心に反比例する進歩にはちょっともどかしい気持ちも交じる。そうしてようやくたどり着くと赤い人物はただ山のほうを見つめた。
次はなにかが光っている場所へと向かうことにした。その光は象形文字を思わせる外見で、まわりには赤い人物のローブと同じ素材だと思われるいくつかの布切れがお札のようにチラチラと舞っている。風に吹かれているだけかもしれないし、意思を持って回遊しているのかもしれなくてミステリアスだ。
光に触れると赤い人物のローブに異変が起きた。背中へかかる生地が少し伸びてマフラーのようになっている。◯ボタンを押すと「ホワン」という赤い人物の言語だろうか、魔法だろうか音が鳴り響く。それに共鳴するようにお札はスティールドラムのような音色で応えて発光した。その光は赤い人物へと宿り、消費することで空を飛べるようになっていた。
光を見つけるごとにマフラーのようなものはどんどん長くなっていき、お札の光を頂戴できる質量も増えていく。長く飛べることができれば、行ける場所も広がっていくようだ。
先程から“ような”という表現を連発しているが、これが一切説明のない『風ノ旅ビト』の持ち味なのだ。
現実世界でも大きな違いを経験できる海外へ行くと感動することがある。ただ、同じものを見ても人によって持ち帰るものが違うこともまた多くある。それは、その人がこれまで歩んできたストーリーが大きく影響していて旅によって自分の持ち物が引き出されるからだろう。製作者以外の人がマチュ・ピチュをトレッキングしてもこの感覚をゲームにしてしまおうと思う人は少ないと思われる。そういう自分だけの気づきがあるから旅は素晴らしいものであり、人生にかかせないものだと思う。
本作はまさに旅そのもので、プレイヤーによって感じることは変わってくる。各地に散らばる石碑に触れると壁画帳のアニメーションで背景を知ることができるが、それが何を示唆しているかはプレイヤーが自由に決めていい。世界を解き明かしていくのが自分であることがこの作品なのだ。目に見えるものでは、上で述べた光はスルーできるものもあるためプレイヤーによってマフラーの長さが変わってくる。このマフラーが経験という可視化であったとしたら、少しおもしろい。
できればどんなゲームかわからない状態でプレイするのがいいと感じたので詳しい説明は避けているが、物語が進むと不思議な布に出会うことになる。この布は確実に意思を持っていて、こちらに纏わりついてきたり先導してきたりとってもチャーミングだ。
物語というのは日常に非日常が訪れることで物語となることが多い。ジブリ作品の「猫の恩返し」を拝借すると、ムタという太った猫がファンタジーへの導入を担っているだろう。主人公のハルが好奇心でムタを追いかけてしまうことで、いつの間にか猫がしゃべるという非日常へと本格的に足を踏み込んでいるのだ。
本作はゲームであることから、未知なる布による非日常へと誘われる主人公をそのまま体感できるのが素晴らしい。自宅からできるこの魅力的な小旅行『風ノ旅ビト』は、価格1,200円(税込)。それではみなさま、よい旅を。
ローカライズ担当の岩瀬さんへのインタビューでは、オンラインでの仕様についても語ってもらいました。この後掲載しますので、こちらもぜひチェックしてみてください。
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