まず重視したのが開発スピード。ゲーム指針と実装目標を明確化させ、各マイルストーンのビルドを仕上げることに焦点を当てて、「まずは月末に成果」のスタイルを確立しました。こうした姿勢を各メンバーに徹底することで、チーム運営がスムーズになったそうです。
また、製作の範囲を肩書きで制限せず、たとえばプレイヤーだから企画が担当すると決めつけるのではなく、もっとモチベーションをある人を採用したり、デザイン面ならばデザイナーを採用したりと、小さなチームを作り自発的に製作するように促したことも奏功したようです。ただ、少人数であるがゆえに拡散してしまうメンバーがいたという問題も発生したとか。
ブレスト・仕様化・仮実装・調整・本実装といったワークフローのなかで、1つ1つのタスクの消化サイクルを速める上で重視したのは仮実装の部分。実際に動かさないと見えてこない問題が存在していたため、スピードを重視したそうです。スパンとしては最短で半日、長いもので一週間以内程度。課題を持っていってはこなしてゆきディレクターとすり合わせをおこなうというスタイルは結果的に成功したのです。
そうした手法において重要なのは「なぜこのような仕様なのか」を(開発現場でありがちだが)放置しないこと。具体的には、月末ビルドが完成した時点で全員1日ほどプレイして意見出しをした際のプレイ感を次のステータスの反映することなど。これにより、製作者がただの作業員でなく製作メンバーとしてモチベーションが上げられたそうです。ほかにもユーザーテストやチューニングチームによるレポート対応など、意見出しをSCE側のサポートもありました。とくにユーザーテストとの結果と内部の意見が合致する箇所については優先的な改善対象となりました。
『ソルサク』が目指したグラフィックスは、いわゆるハンティングアクションをベースにしながらも魔法を使ったバトルでかつ4人マルチプレイできるという点が最大の課題でした。コンセプトである「欲望と代償」をダイナミックに表現することを目標に製作は進みます。ただし、スクラッチビルドについてはできるだけ避け、ポストエフェクトや外部パラメータを駆使してできるだけ"遡らない"絵作りを求めたそうです。
さらに、ビジュアルプロトタイプによりルックを模索し、ゲームの世界観をチーム全体で共有することを目標としました。たとえば「ケルベロス」のデザインも最初は日本らしいかっちりとした質感でしたが、議論を経て決定案はより原案の絵に近いテイストに固められました。明と暗が分かれる「タルタロスの街」「オリンピア平原」も独自の世界を構築するべく、3か月でパイプラインを構築し、4か月目でVita上でのゲームプロトタイプ作成を完了させています。細かな所では、キャラクターの設定の分析があります。たとえば、元々は人間だったモンスターがどう動くのか?とバックボーンなどを想像し掘り下げることで、ゲーム性やビジュアルの調整に反映させたそうです。
しかし、ゲーム開発においてリソースのヒト・モノ・カネそして時間は有限です。『ソルサク』では削れるべきところを徹底的に削る方針を採っています。エネミーをオーソドックスな作りにする、テクスチャタイプを無闇に増やさない、工数のかかるデザイン処理を重要な部分以外で使わない、Mayaで完結するようにするといった具合に、倹約家精神が各所でにじみ出ていました。
また、プレイヤーキャラクターもカスタマイズで膨れ上がる部分なので、マスクマップを利用してバリエーションを増やすなどしたほか、上述の製作の指針にあったようになるべく外部パラメーターで調整し、手戻りが発生しないよう工夫したそうです。
こうした方針の副産物として、実機で処理した際の色味の違いといった少々細かな問題にも素早く対応することができるようになりました。
モーションはすべてアニメーターによる手付です。理由としては、修正の発生が目に見えていたことにくわえ、スタジオがなかったことなど。逆に、フィードバックはすぐに返ってきたため、すぐにでもゲームに反映させるくらいのスピード感を持ちえました。2週間で別のゲームのようになっていたとか。
いわゆる「揺れモノ」についてはhavokを採用しましたが、処理の重さを考慮し、レギュレーションをシンプルで限定的なものにすることで最大限の効果を引き出したそうです。
また、ボーンも決して多くはありません。具体的な数字が出た部分では、たとえばプレイヤーキャラが34、ケルベロスが56、スライムが104といった程度。携帯ゲーム機ということをふまえ、コストオーバーしないよう配慮した結果モーション部分でのCPUコストが低減し、ハードウェアととてもマッチしたのです。
背景については、それぞれストーリーを練り込みコンセプトアートに落としこみ、さらにそれをゲームに起こすといった工程を経ているものの、処理面ではコストを払うことができません。ゲーム開発スタート段階からライティングはオフライン処理を採用、キャラクターにはスペキュラーのみの計算にとどめるなど、割り切った舵取りをしました。結果、GPU処理リソースが節約できたのです。開発にあたっては、複数のツールが内製されましたが、内製ライティングツール「LightStudio」もその1つ。ライトマップをエクセルで管理できるようにしていました。
難題だったとするのが魔法製作。どうやったらソルサクらしい魔法になるか?4人になって処理おちさせないか?など、ハードルが高く、さらにはパフォーマンス的にどこまで許されるのかという問題もありました。魔法もコンセプトアートを用意してからゲームを落としこむというフローを採用し、とくに禁術はキービジュアルとしてプレイヤーへ伝えるため入念に創りこんだそうです。
魔法についても内製ツール、その名もそのまま「魔法エディタ」を製作・活用。企画やサウンドスタッフも利用し、キャラのリアクションやパラメーターをなど調整し、すぐに実機でレスポンスなどを確認するために使われました。一見すると地味なものの、いわく「キモになった」ツールだそうです。
エフェクトの最適化の工程も一筋縄ではいきませんでした。デザイナーにもCPU/GPU負荷が視覚的にわかるようグラフ化して出力した上で、さらにマージンを設けたとのこと。不要なものを地道に、かつユーザーに気づかれないように軽量化する工程があったのです。というのも、創り始めのころのパフォーマンスがひどく、チューニングの担当を1人立てることになったという背景があったから。ここから、プロファイル担当者は必要という教訓を得たようです。
また、『ソルサク』のキーファクターの1つ"本"についてもこだわりをみせました。「自分が読んでいるように再現」しようとスタートし、かつGPU負荷を鑑みある程度の妥協点として2Dと3Dのハイブリッドを採用したのです。ここで使われたのは内製ツール「Hilash」(製作者の名前から)。UIと"本"の中の2Dイベントはすべて当該ツールで製作されています。
チーム全体のリソース管理は一本専用のサーバーを立て、こちらも内製「Atami」を活用。リリース・コンバート・ビューワーチェックなどができるツールです。ゴミデータが本番用のデータに紛れ込まないようにするための処置で、デザイナーからは当初少々不満が出たものの、最終的にはコンバートが容易などの理由で受け入れられ、トータルでは良好な結果に落ち着いたようです。
『ソウルサクリファイス』がヒットしたのは、外的要因のみならず、このように神は細部に宿るの精神を地で行く改善が積み重ねられたことにあるともいえるでしょう。「チーム全員がゲーム創りに加わっていたのでスタッフのモチベーションが高かった」という『ソルサク』開発陣の次ははたしてどのような作品になるでしょうか。
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