18分間の制限内に4名のチームで、パスタの乾麺など限られた材料を使用し、できるだけ高いマシュマロタワーを製作する・・・社員研修などの定番課題です。しかし「一番高いタワーを作ったのは大人ではなく、幼稚園児だった」とホスフェルド氏は言います。理由は簡単で、幼稚園児チームは18分間で5回も「作っては壊し」を繰り返したからです。
これに対して大人チームは計画し、準備して、1回で完成させましたが、高さでは劣りました。このことはプロトタイプとイテレーションの重要性を示しています。
しかしゲーム開発の現場では、そのプロトタイプ製作すら時間がかかっています。1995年のアクションゲーム『GNOME』では2週間でしたが、2012年の『Gears of War 3』では12週間もかかりました。このままいくとPS4・Xbox ONE時代では、恐ろしいことになります。その際に理由に挙げられるのが「ゲーム作りはクリエイティブな作業だから」というものです。
では「クリエイティブな作業」とは何でしょうか。ホスフェルド氏はこれを「アイディア」「発想を広げる」「発想をまとめる」「構造化する」「製作する」「磨く」という6つのプロセスに分解し、いわゆるゲームデザインが「構造化する」段階にあたると分析。そして、この構造化を目に見える(=プレイできる)段階に落とし込むことが、プロトタイプに相当すると分析しました。
続いてプロトタイプ製作におけるアニメーターの役割は何でしょうか? ホスフェルド氏は「ゲームのコミュニケーターで、UIやFX、オーディオ担当などと、この役割を分け合うことになる」と語ります。そしてアニメーターはゲームデザイナーが必要とする素材を、できるだけ早く提供する必要があるとしました。
そこで用いられるのが、アンリアルエンジンをはじめとしたゲームエンジンというわけです。「素早く、しかし醜くない素材を」「コミュニケーションは必要最小限で」「有りモノをうまく再利用しながら」作ることがポイントだと言います。何か新しい機能やアイディアを組み込んだら、すぐにユーザーテストを行って効果を検証しつつ、全体としてまとめていきます。ここでは聖域を作らずに、徹底的にユーザー視点で検証することが肝心です。
また、この段階と並行してコンセプトアートの製作と、技術面での検証を進めていきます。特にコンセプトアートの作業が長引くと、プロトタイプの開発期間も延びるため、できるだけ短縮することが必要です。
ホスフェルド氏は「ゲームプレイの要素がコンセプトアートの苗床となる」「仕様がコンセプトアートを定義する」「コンセプトアートが仕様に影響を与える」と整理。完成したコンセプトアートに従ってキャラクターを、まずは動かしやすい形でモデリングし、テストする必要があるとしました。また2Dのイラスト絵が3Dモデルになり、実際に動かせるようになることで、開発チーム全体に共有でき、改めて見えてくるものがあると語りました。
なお、プロトタイプのメンバーは出来るだけ少人数に留めることが重要で、スペシャリストよりもゼネラリストで、手戻りを面倒くさがらない人が向いているとしました(実際にプロトタイプ作りにはアニメーターでも適正があるそうです)。一方でプロトタイプを見せられても、それだけでは評価できない人も残念ながら存在します。そのため評価の際には、必要に応じてアーティストのサポートが求められるといいます。
最後にホスフェルド氏はプロトタイプ製作を通して「パイプラインの開発コスト見積もり」「ゲームエンジンに追加する機能の見通し」「他に必要なプログラムやミドルウェアなどの洗い出し」「スタイルガイドの定義」「本製作に移る上での不明点の洗い出し」などが得られるとコメント。他に問題や障害があるからといって、プロトタイプ製作を回避してはいけないとしました。プロトタイプ製作の期間も縮小しており、今では1週間(!)で製作が可能とのことです。
「早い段階で何回も失敗しよう。ただ一つ重要なのは明確なゴールを持つこと」「テックアート・マッシュルーム(デジタルなマシュマロタワー作り)が明日のゴールだ」……ホスフェルド氏はこのように続けます。
もっとも、文字通り1週間でプロトタイプを製作するとなると、コンセプトアートにかけられる日数は1-2日となります。主人公や世界観などが決まらなければ、プロトタイプ製作にも進めない……そう考える開発者も日本では多いでしょう(1週間という期間は比喩としても、シューターにジャンルを限定することでの割り切りもありそうです)。
ゲームエンジンの整備など開発環境が整ってきた中で、コンセプトアートの設定といかに融合させるか……。日本企業にとって、新しい課題が見えてきたと言えるかもしれません。
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