GDC 2014の「How to Turn a New Leaf at the Animal Crossing(どうぶつの森で心機一転する方法)」と題したゲームデザインセッションで、プロデューサの江口勝也氏とディレクターの京極あや氏は、『どうぶつの森』の世界で新しい冒険を作るべく、どうやってシリーズの本質を抜き出したかを明かしました。
■15年間近く続くシリーズをさらに成長させる
シリーズ最初の『どうぶつの森』は2001年にN64で発売されました。本シリーズはプレイヤーが擬人化された動物が住んでいるバーチャルタウンに引っ越し、田舎暮らしの平穏を楽しく過ごすというもの。
人生シミュレーターとも言える『どうぶつの森』にはエンディングがなく、具体的な目的もありませんでした。しかし、ゲームタイムは現実の時間と同時に流れ、お正月やプレイヤーの誕生日といった休日とイベントはゲーム内の村でも祝われます。
シリーズの続編もこのシステムを引き継ぎ、同時にゲームの内容も徐々に変わっていきました。ただし、開発者はこのデザイン方法を続ける事だけではプレイヤーに新しい経験を提供出来ず、ゲームの中心から脱線しないようにシリーズを進化させる方法を見つけなければなりませんでした。しかし、目的のないゲームの中心をどうやって定義するのでしょうか。
この謎を解くために、『どうぶつの森』の開発チームは25年間以上の歴史を持つ『ゼルダの伝説』シリーズから影響を受けたと言います。
■『どうぶつの森』の真髄とは
『どうぶつの森』は最終目標のないゲームであるため、開発チームがシリーズの核を一言で纏めるのは困難でしたが、ある一つの共通点があることに気づきました。それはコミュニケーションです。
プレイヤーは周りの人と交流出来ます。手紙やプレゼントを送ったり、他人の家も訪ねられます。友達とゲームを遊んだり、キャラクターを自分の家へ誘ったり、同じ村で数人のプレイヤーが住むことさえ出来ます。『どうぶつの森』の世界を友達と一緒に楽しむのはプレイを継続する原動力になります。
それだけではなく、ゲームの世界で一緒に時間を過ごすのは、現実の世界でもプレイヤー同士の人間関係が育まれていきます。
■シリーズのコミュニケーション要素を促進させるには
それでは、どうやって『どうぶつの森』のソーシャルコミュニケーション性を促進すればいいのか開発者は考えました。まずは、出来るだけ多くのユーザーに対してアピールするために、開発チームを多様化させたのです。
始めに、女性のスタッフ、あらゆる年齢層のスタッフ、シリーズに馴染みの薄いスタッフを開発チームに加えました。こうすれば、色々な物の見方と意見を拾うことができます。そして、作曲家を含めスタッフ全員からアイデアを集めました。それまでゲームになかったアイデアがたくさん出てきて、ソーシャル的特徴が前作に比べると大幅に増えていったのです。
例えば、『とびだせ どうぶつの森』でプレイヤーはいつでもスクリーンショットを取って、フェイスブックやツイッターなどにアップロード出来ます。服をデザインし、QRコードを作り、他人とシェアーも出来ます。他のプレイヤーの町を訪ねる事も可能です。
ソーシャル的な特徴はゲーム内だけに限りません。「しずえ」というプレイヤーのアシスタントキャラクターは自分のツイッターアカウントさえあります。また、ニンテンドーネットワークのMiiverseでは『どうぶつの森』の美術コンテストが行われます。こうした仕掛けで任天堂は『とびだせ どうぶつの森』を持っていない人にもシリーズの楽しさを伝えていったのです。
■『とびだせ どうぶつの森』の成功
この戦略は成功を収め、『とびだせ どうぶつの森』は発売されてから738万本のセールスを記録。シリーズの将来がどうなるのか不確かですが、『どうぶつの森』の心機一転はニンテンドー3DSと任天堂のゲームデザイン感覚の進化へと繋がるようです。
■江口勝也
・1986年に任天堂に入社
・『どうぶつの森』の一作目のディレクター (2001年)
・『とびだせ どうぶつの森』のプロデューサー
■京極あや
・2003年に任天堂に入社
・任天堂のEADで初めての女性ゲームデザイナー
・最初に手がけた『どうぶつの森』のタイトルは『街へいこうよ どうぶつの森』(2008年)
・『とびだせ どうぶつの森』のディレクター