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さて、そんなわけで今回は、8月6日に発売された3DS版『メゾン・ド・魔王』をレビューしていきましょう。本作はもともとXbox 360のXbox LIVE インディーズゲームで配信されて人気を博し、PCにも移植されています。そしてついに、ニンテンドー3DSにも登場することになりました。
オリジナルの作品は“プチデポット”というチームが制作しており、今回の移植はプチデポットとメビウスの協力により成り立っています。本作はどんな作品かというと、魔王となってモンスターの住むアパートを経営しつつ、そこに攻め入る冒険者どもを倒すシミュレーション・ゲームです。
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▲魔王が脱サラしてはじめたアパートはちんけですが、これでも重要な拠点です。
プレイヤーは魔王となり、自分のアパートにモンスターを住まわせます。まずは家賃を設定したり家具を配置してあげて、モンスターたちの生活環境を整えていくのが第一です。適切な状況にしておけば、一日ごとに家賃収入が入ってきます。
こう書くと魔王らしかぬのんきな世界に見えるかもしれませんが、やはり魔王は魔王。このゲームの最終的な目標は何かといえば、自分のアパートに住むモンスターたちで強力な軍団を作り、世界征服を目指すのです。
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そんなかわいくも危なげな連中を冒険者たちが無視するはずもなく、アパートには人間たちが攻めてきます。冒険者は何もせずともたまに紛れ込んできますが、クエストを受注すると賞金付きのカモとしてわんさか出てくるわけです。そんな時は魔王が指示を出し、住人たちを使って戦いを繰り広げます。
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魔王は、扉を叩いてモンスターに戦う指示を出すか、あるいはモンスターを選択(もしくはタッチ)して退却させるという、ふたつの指示だけで戦闘をこなします。とてもシンプルですが、モンスターは種族やランクによって攻撃方法や能力が異なるため、それを活かした戦略を組むのも楽しさのひとつです。
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たとえば、防御力の高いモンスターを先に出し、その後ろに遠距離貫通攻撃のできるモンスターを出します。すると、こちらは一体だけしかダメージを受けないのに相手を一網打尽にできるわけです。
もっとも冒険者たちも単純なヤツらだけではなく、さまざまな戦闘能力を持ったものが登場します。足の早い盗賊や強烈な魔法を繰り出す魔法使い、更にアパートが大きくなれば王女まで攻めこんでくるので、住人の特色を生かしてアパートを守りましょう。
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以上が『メゾン・ド・魔王』の基本システムですが、それ以外にも“住人たちの観察”は重要で楽しい要素です。住人の行動は上画面にテキストで表示されており、しかも個体ごとにさまざまな行動を起こします。そのため、それぞれの違った生活を覗き見できるのです。
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また、住人たちの行動は部屋にある家具によっても変わります。ゲーム機を買ってあげればひたすらにそればかり遊んでいたり、魔法を使うモンスターなのに筋トレに必死になっていたりと、生活感がにじみ出ています。
ところで、今回3DS版を遊んでいた際にピヨリコ族ピヨリコの「ピヨノ」というモンスターがとても面白いことをしてくれましたので、ご紹介します。
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そもそもピヨノは、101号室に住んでいたカップルの子供として誕生しました。魔物たちは時に恋人を見つけることもあり、こうして子供を作ることも。はじめこそ子供は戦闘に参加できませんが、親から能力を受け継ぐこともあるので、強いモンスターを確保したければ子供は大切な存在です。
ふたりの両親のもと、すくすくと育っていったピヨノちゃん。「ぬいぐるみが欲しいっピ!」などと言っていたのでそれを買ってあげたりして、私もかわいがっていたわけです。
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しかし、彼女に不幸が訪れます。金を稼ぐためにあるクエストを受けたのですが、そこで登場する魔法使いがとにかく強かったのです。住民たちはことごとくなぎ倒され、残ったのは部屋の隅で震えるピヨノちゃんだけ……。あまりにも悲しい出来事でした。
こうなると魔王としては、家賃も払えないうえ戦力にもならないピヨノちゃんをすぐ追い出すべきなのですが、しかし大家としてそこまで非道なことはできません。ほかの3部屋で家賃収入と戦力をまかない、ピヨノちゃんには無償で部屋を貸すことに。成長するまでの辛抱ですし、育ったら存分に働いてくれることでしょう。
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こうしてピヨノちゃんは大人になったのですが、彼女は無職のままでした。まァ、無職なのでいつも戦闘には参加してくれるのですが、しかし家賃を入れてくれないのは困りものです。これまで援助してきたことを考えれば、一刻も早く金を入れて欲しいわけですから。
そんな彼女はずっと働かず、そのうち同棲相手ができるもののそいつも働かず、いい加減に追いだそうとしたところで子供を作りやがりました。こうなると子供が育つまでは家賃を待とうと決めたわけですが、なんとピヨノちゃんは子供が成長しきらないうちに夜逃げをしやがったのです!
まさしく恩を仇で返す行為ですね。こんなことならピヨノの糞野郎が幼いうちに、外へ放り捨てるべきでした。そのほうがお互いのためになったかもしれません……。
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プチデポットの開発担当者さんは実際に大家として未払いの苦痛を経験し、その経験から本作を制作しようと考えたそうです。そんな珍しい擬似体験ができるのも、本作の特徴と言えます。
ところで、家賃を払えず夜逃げされるのは苦しいですが、買ってあげた家具は残るのでたくさん投資してあげましょう。部屋に良い家具があるとモンスターが強くなりますし、更に良い家具は上位モンスターが来る条件にもなっています。
ちなみに、ピヨノが置いていったぬいぐるみは、次に住んだスーモン一家の子供が大事に使ってくれました。もちろん家賃をきちんと払ってくれるモンスターたちですので、感動すら覚えました。
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『メゾン・ド・魔王』のおおまかな楽しみは以上ですが、本作はクエストを自分から受けるタイプなので、好きなペースで進められるのも素敵ですね。住人を大事に育ててもいいし、犠牲をいとわず魔王らしく戦ってもいい。ちなみに、そういうプレイスタイルの差でアパートに住む魔物が変わってきます。
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ちなみに、ニンテンドー3DS版とXbox 360・PC版の違いですが、内容としてはほとんど差がありません。あるとすれば、3DSでの操作に対応(タッチペン操作にも対応)しているほか、他機種に比べ画面が小さいので拡大・縮小ができるようになっているくらいでしょうか。
気になる部分は、やはり画面が小さいことです。モンスターたちのグラフィックもそれに伴って小さくなっており、絵が潰れてしまっています。そのため残念なことに、スーモンの巻きすぎなまわしや、モクハナンのつぶらな瞳がほとんどわからないです。
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ただし、それ以外の移植具合はおおむね良好です。つまづく部分もありませんでしたし、作中の曲が聴けるサウンドモードも嬉しいものです。ちなみにサウンドモードには隠し曲があるそうで、条件を満たすと聞けるようになるとのこと。
そんなわけで、これまで『メゾン・ド・魔王』をプレイする機会に恵まれなかった人は、ニンテンドー3DSでアパート経営者であり世界征服者でもある“魔王”の体験をしてみてはいかがでしょうか。
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『メゾン・ド・魔王』は「これまでになかったまったく新しい革新的なゲーム」というわけではないですが、アパート経営や防衛戦(タワーディフェンス)や生活の覗き見、そしてシニカルなテキスト・世界観といった楽しい要素がいろいろと詰まっています。そう、まるでさまざまな住人が楽しげに住む魔王のアパートのように。
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ニンテンドー3DS『メゾン・ド・魔王』はニンテンドーeショップにて配信中で、価格は864円(税込)です。