「Playing Works!」シリーズとは、2013年から開催されている、1人の作曲家にスポットを当てたライブ企画です。「Playing Works! Best Vol.02」は、そのベスト版として菊田裕樹氏、光田康典氏の楽曲が演奏されました。
■出演者(敬称略)
菊田裕樹、光田康典(ゲストMC)、霜月はるか(ボーカル)、神永大輔(尺八)、水谷美月(ヴァイオリン)、有木竜郎(キーボード)、AKIRA(ベース)、岡島俊治(ドラム)、細谷晋(マリンバ)、宮本憲(ギター)
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ライブの幕開けに奏でられたのは、『クロノ・トリガー』の「樹海の神秘」です。有木竜郎氏のキーボードと水谷美月氏のヴァイオリン、神永大輔氏の尺八をメインに、神秘的にしっとりと奏でられました。続いては「シルバード~時を渡る翼~」。岡島俊治氏によるリズミカルなドラムをバックにして、尺八とヴァイオリンで爽やかに奏でられます。次の「黒の夢」では、イントロから神秘的に響くキーボードに続いて、小気味よく入るドラムと、AKIRA氏によるベースで生まれるハーモニーがなんとも心地いいものでした。続いての「魔王決戦」では、最初に神永氏が尺八を使って風の音を表現します。さらに重厚なベースが響いた後、高く響くヴァイオリンと激しいドラムが入り、まさに激しい戦いを思わせるように力強い演奏が繰り広げられました。
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(前列左)菊田裕樹氏、(中央)光田康典氏
ここで光田康典氏と菊田裕樹氏が登場します。神永氏からは「このお2人が揃うのは、意外とレアですよね。スクウェアに入った時の、お互いの第一印象はどのようなものだったんですか?」という質問。それに対して光田氏は「菊田さんの方が僕よりも1年くらい先に入社されたんですけど、菊田さんって昔は植松さん(植松伸夫氏)にそっくりだったんですよ。あれ、植松さんがもう1人いる?と思って(笑)」と話しました。菊田氏が「スクウェアでは、“偉くなるためには、まずヒゲを生やせ”という話があったんですよね(笑)。だから僕もヒゲを生やそうと思って」と返すと、光田氏は「僕はどうしても出来ませんでしたけどね!」と明かします。
一方、菊田氏は光田氏の第一印象について、「昔からすごくいい男だったので、かっこいいやつが入ってきたな!と思いましたね。あと、当時からものすごい勢いで仕事をしているなというイメージがありました」と語ります。それに対して「お互い、そうでしたね。みんなブースから出てこなかったので」と、光田氏は当時を振り返っていました。
続いて菊田氏の楽曲から演奏されたのは、『聖剣伝説2』より「少年は荒野をめざす」です。カツ、カツ、カツ……と小気味よく響くドラムをバックに、流麗に奏でられるキーボードと尺八をメインに、爽やかな音色が奏でられました。続いて、マリンバ(木琴の一種)奏者の細谷晋氏が参加して披露されたのは「遠雷」です。温かみのあるマリンバの音色が小気味よく響き、さらに尺八、ドラムの音色が重なり、心地よいハーモニーを生み出します。次の「熱砂の秘密」は、砂漠のような荒涼感のある尺八の音色とマリンバのかけあいが絶品の美しさでした。続くボス戦の楽曲「危機」は、マリンバの早弾きとヴァイオリンのかけあいが圧巻! 熱いドラムをメインにしたアップテンポな演奏で、強敵との戦いを彩る迫力にあふれたものになっていました。
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霜月はるか氏
ここでシンガーソングライターの霜月はるか氏が登場します。霜月氏は「私は『聖剣伝説2』と『クロノ・トリガー』のドンピシャ世代で、まさに通ってきた道なんですよ。とても大好きなゲームなので、今日はお二人の楽曲を歌えるのを楽しみにしてきました!」と笑顔で話します。ギターの宮本憲氏も登場して披露されたのは、『クロノ・クロス』や『ゼノギアス』などを手掛けたゲームクリエイター・加藤正人氏と光田氏によるコラボレーションアルバム『kiRite』より「蒼穹」です。霜月氏はとても楽しそうな様子で、伸びやかな歌声を会場いっぱいに響かせていました。
続いては『クロノ・クロス』の「回想 ~消せない想い~」が、しっとり美しいキーボードソロでやさしく響きます。
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ここで、なんと光田氏がギターを持って登場!『クロノ・クロス』の「RADICAL DREAMERS~盗めない宝石~」が披露されます。霜月氏の繊細でやさしい歌声と、光田氏の情感あふれるギターがやさしく重なりあい、研ぎ澄まされた音世界を紡ぎあげていきます。後半は尺八やヴァイオリンらも入ってきて、より豊かで感動的な響きになっていました。
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間髪を入れずに始まるのは「CHRONO CROSS ~時の傷痕~」です。イントロが尺八をメインに奏でられた後、「ワン、トゥー、スリー、フォー!」というドラムの岡島氏のかけ声とともに、光田氏ら奏者全員が入ってきて盛り上がっていきます。楽曲の最後の部分が3度ほどリフレインされたのち、バシッと演奏が終わると、ひときわ大きな拍手が会場に響きました。
演奏後のMCでは、神永氏から「今日はギターを演奏していただきましたけど、今度7月25日と26日には光田さんの20周年ライブが開催されますよね。光田さんはそこでも演奏されるんですか?」という質問がされます。光田氏は「はい。20周年ライブでは、僕のまわりにキーボードが積み重ねられて、打楽器にも囲まれて、僕が見えないかもしれませんよ(笑)」と茶目っ気を入れつつ、「おもしろいライブにしたいと思っていますので、お時間のある方は、ぜひ足を運んでみてください!」と意気込みを語りました。光田氏の20周年ライブの詳細は、こちらをご覧ください。
続いては、前日に開催された「Playing Works! Best Vol.01」と1曲交換して演奏します!ということで、なるけみちこ氏がアレンジを担当した楽曲である、『ドラゴンポーカー』の「ユグドラシル」が披露されます。ギターとヴァイオリンをメインにした、アグレッシブな演奏が響きわたりました。
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次に、再び霜月氏が登場して披露されたのは、ゲーム音楽作曲家のオムニバスアルバム『TEN PLANTS 2』で光田氏が作曲した「銀色のライカ」です。有木氏が奏でる穏やかなキーボードの演奏をバックに、霜月氏のやさしい温かみある歌声が会場に沁みわたっていきます。さらに、『ゼノギアス アレンジヴァージョン - CREID』の「春の子守歌」でも、霜月氏の穏やかな歌声がゆったりと響きました。
続いて菊田氏の楽曲から披露された『聖剣伝説2』の「鋼鉄と罠」は、ドラムとベースをメインにした編成で、重厚感たっぷりの演奏! 岡島氏のリズミカルかつ激しいドラムプレイは圧巻でした。
ここで菊田氏が再登場してのMCになります。神永氏から「ここまでの演奏はいかがですか?」と尋ねられると、「いや~、素敵な曲がいっぱいだよね。難しい曲もいっぱいあるけど」と答える菊田氏。すかさず神永氏が「そうですね。とくに菊田さんの曲が難しくて……」と突っ込むと、観客からは思わず笑いがこぼれます。「マリンバが超絶的ですからね!」と言う神永氏に、菊田氏は「ごめんね、本当に! 菊田裕樹といえばマリンバというのは欠かせないことなので、それはどうしようもないです!(笑)」。
また、次に演奏される「愛に時間を」について神永氏から尋ねられると、菊田氏は「これがまた難しいよね。今回マリンバを演奏してくれる細谷さんは本当に大変だなと思いますけど。まあ、楽曲を書く時から、マリンバ奏者を殺すつもりで書いてますけどね(笑)」と、いたずらっぽい微笑みで語りました。
そして披露された「愛に時間を」の演奏では、細谷氏によるマリンバの早弾きが圧巻のひとこと。右へ左へと移動してマレット(バチ)を駆使し、リズミカルに乱打します。そのさまは思わず見入ってしまうほど見事でした。続く「そのひとつは希望」でもマリンバが大活躍。流麗かつ小気味よく響きわたるマリンバの音色は、『聖剣伝説2』のあたたかみのある音楽世界をこれ以上ないほどに表現していました。ラストバトルの楽曲「子午線の祀り」では、冒頭から激しいドラムプレイが披露され、アップテンポに奏でられるキーボードとヴァイオリンが演奏を盛り上げます。神永氏は、時折ジャンプしつつ、恐ろしいほど早いテンポで見事に尺八を弾きこなしていました。
エンディング曲「最後から二番目の真実」は、尺八をメインに、リズミカルな演奏が響きます。途中に入るキーボードとベースの心地良い掛け合いを経て、最後は盛り上がって終わると、観客からは大きな拍手が送られます!
アンコールでは、菊田氏の作曲した『エスカ&ロジーのアトリエ ~黄昏の空の錬金術士~』の「あめつちのことわり」が披露されます。原曲でも歌を担当した霜月氏が登場し、美しい歌声を響かせました。
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続いてアンコール2曲目は、『ゼノギアス アレンジヴァージョン - CREID』の「LAHAN」です。この曲では霜月氏はピアニカの演奏を担当し、さらに光田氏が再びギターで参加! 賑やかでありながらも、同時に切なさを感じさせる美しい演奏が響きわたります。手拍子が入った後には、「ララララ……」と歌いはじめる霜月氏。奏者や観客もいっしょになって歌い、さらに菊田氏もステージに登場して歌い、会場には大きな一体感が生まれます。
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演奏を終えると、観客からは再度割れんばかりの大歓声と拍手! 最後は光田氏、菊田氏と奏者全員がステージの最前に並んで手をつなぎ、観客の声援に応えます。それに再度応えるかのように、観客からはもう一度、歓声と拍手が贈られます。
神永氏は「本当に、4starって盛りだくさんで、夢のようなイベントですよね。僕は小さい頃からずっとゲーム音楽が大好きで、ピアノで毎日のように弾いていたんですよ。でも、1人だけで演奏するんじゃなくて、ここにはこういう音が欲しいし、この曲はこういう風にやりたいし……という想いがずっとあったんですよね。だから、今日のような場をいただけたのは、とても光栄です」と喜びを語ります。また、神永氏は「僕は小さい頃からストレスがあって。他の人から、いい曲だね、それ何の曲?って聞かれて、ゲーム音楽だよって僕が言っても、ああ、ゲーム音楽なんだ……で終わっちゃうのがすごく悔しかったんですよ。だから毎日、家の窓を全開にして、毎日オリジナルのセットリストを考えてピアノで演奏していたんです。今日は戦闘曲だけでいこうとか、今日は光田さんの曲だけでいこうとか。いろいろ考えながら演奏していたんですけど、今日、その成果が出せてよかったです!」と語り、満面の笑みを見せます。神永氏のあふれんばかりのゲーム音楽愛に、観客からは大きな拍手が送られました。
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(後列左から)有木竜郎氏、宮本憲氏、神永大輔氏、AKIRA氏、細谷晋氏、岡島俊治氏
(前列左から)霜月はるか氏、菊田裕樹氏、光田康典氏、水谷美月氏
前日に開催された「Playing Works! Best Vol.01」はアイリッシュ色が強い公演でしたが、今回の「Vol.02」はバンド演奏を全面に押し出したものになっていて、迫力満点の熱いサウンドを楽しむことができました。特に、細谷晋氏による超絶的なマリンバ演奏は、思わず見とれてしまうほどで、素晴らしいのひとことです。光田氏と菊田氏の手掛けてきた名曲たちが、実力派の奏者たちによってまた新たな輝きを持って生まれ変わった……そんな印象を受ける、素敵なライブでした。
(C)Yutaka NAKAMURA