なお、今回はどうしてもご紹介したい部分の関係上いつも以上にネタバレしてますのでご注意くださいね。
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『レンドフルール』の舞台は滅びを迎え、古の神々が去った世界。ただ1人、慈愛の女神・ミレーヌだけは手を差し伸べ、彼女の生み出す「グラース」と呼ばれるエネルギーによって世界はかろうじて保たれていました。
主人公・ヴィオレットは眠りについた女神に代わる「レーヌ」として、天上の聖域「パルテダーム」から衰退する地上「ソルヴィエル」へグラースを供給するのが役目。重責から目を背けず、どんな局面でもレーヌとして最善を尽くそうとする意志の強い女の子です。そんな彼女を助けるべく地上から選ばれた4人の「騎士」を中心に、壮大な物語が幕を開けます。
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ヴィオレットと騎士の交流を描いた「第1部」では、騎士たちの心の内を理解し、信頼と忠誠を勝ち取るのが目的。そして世界やキャラクターの真実を知る「第2部」、愛情または忠誠に分かれる「第3部」に突入し、各種エンディングを迎えます。第1部は全体的にほのぼのとした日常ですが、第2部から「何事?!」と思う事実が次々と明かされ、それを知ったキャラクター達が何を思い、行動していくかを描いた第3部はとくに目が離せません。
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ちなみに本作は、通常「○○を行いました」といったようなトロフィーの説明も一味違うものになっています。ストーリーをより理解する上では見逃せませんよ。
さて、本作で最も重要であり特徴的なのが「ラヴィール」というシステム。さまざまな目的のためにキャラクターと対話を行うというもので、その結果によってストーリーが分岐していきます。
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手順としては、あらかじめ会話の糸口を探しておき、必要な情報をセットした上でラヴィールを開始。時間制限のある選択肢やコマンド入力を経て、会話を優位に運べば勝利し、失敗すれば敗北します。ただし、必ずしも選択肢を選ぶ、勝利するのが正しいというわけではありません。あえて沈黙する、負けるのも愛情や忠誠を得る手段の1つとなります。
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とはいえ、勝つとプレイを助けるアイテムの入手やクリア後のオマケ要素を閲覧するために必要な「ポイント」をたくさん得られます。最初は勝利を目的とするのもいいでしょう。とくに情報収集が有利に働く「金平糖」は、すぐに手に入れておきたい必須アイテムです。
普通、乙女ゲームで思い浮かべる選択肢といえば「いかに攻略対象キャラクター好みの受け答えをするか」ですよね。しかし、このラヴィールでは主人公の意見をはっきりと伝える、異なる意見を説き伏せる、隠している本音を聞き出すなど、相手と真っ向からぶつかる状況がたびたびあります。ものすごく個人的な感覚では、某「それは違うよ!」的な学級裁判とか、某「異議あり!」的な法廷バトルとかに近い気がしました。ちょっと難しい部分もありますが、選択肢とは違うキャラクターへ一歩踏み込んだ内面が垣間見えるシステムです。
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■レオン(CV:興津和幸)
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それでは、攻略対象キャラクターをみてみましょう。まずは北国ピヴォワンヌの騎士・レオン。ヴィオレットに一目惚れしたという理由で選ばれていないにも関わらず騎士を志願し、会いたい一心で試練を耐え抜いた、ある意味大物です。
どのルートだろうとヴィオレットが第一で、彼女を守る騎士であろうと好意的に接してくれるレオン。常に頼ってほしいオーラ全開で、ヴィオレットに良いところをみせよう、格好悪いところは見せたくないと必死な姿はとても微笑ましく思えました。何かと秘密や駆け引きの多いパルテダームの中でも、明るく裏表のないレオンは接していてほっとします。
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ただ、レオンは自分自身でも気づいていない事情を抱えており、それは「ヴィオレットを好き」という彼が騎士になった最大の理由に大きく関わります。もし、その気持ちそのものが「何か」の影響だったら…レオンの葛藤はなかなか不憫に思えました。愛情エンドは「これから幸せになってね」、忠誠エンドは「本人はこれで良かったかもしれないけど切ない…」という感じです。
■ルイ(CV:浪川大輔)
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南国カンパニュールの騎士・ルイは、美しい容姿に上品な物腰、育ちの良さを感じさせる立ち振る舞いと豊富な知識、ヴィオレットにも好意的と一見騎士として完璧な青年。駆け引きにも長け、時には仲間ですら騙す狡猾さも持ち合わせています。
ヴィオレットに対しても恋人であれば言ってほしい言葉・行動をさらりとやってのけ、本気かどうか判断のつかない態度で翻弄。恋とも愛とも言えない曖昧な気持ちのまま、少しずつ近づいていく2人の何とも言えない距離感がたまりませんでした。
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一見非の打ちどころがないルイですが、普通では考えられないほど物事に対する執着がありません。その原因は、彼が「呪い」と呼ぶ非常に根深いもの。さまざまな出来事を乗り越え、迎えた愛情エンドでは率直に「良かったね」という思いに加え「あのルイが…?!」とある姿にびっくり。忠誠エンドは「これがお互い、1番の望みなんだろうな」と静かに受け入れられました。
■ギスラン(CV:近藤隆)
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東国クリザンテームの騎士・ギスランは、グラースの恩恵が少ない厳しい環境で生きてきた軍人。自分にも周囲にも厳しく、おまけに目つきも悪く口調もキツイため誤解されがちですが、根は優しい青年です。ヴィオレットをきちんと認めてからは態度がかなり軟化し、彼女のために何かできないかと不器用に頑張る姿は「可愛い」に尽きます。可愛いよギスラン。
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しかし幸せな時間を過ごせたのは、ほんのひと時。決してグラースに頼り切ろうとはせず、誇り高く生きようとするギスランに、東の騎士の宿命ともいうべき悲劇が降りかかります。到底受け入れられるようなものではないのに抗えない、どうしようもない現実を前に慟哭する彼の姿は、本作で1番痛々しく、印象深かったです。
そんな彼がヴィオレットのために愛情エンドの結末を選んでも、誰が責められるでしょうか。また忠誠エンドは他の誰でもなく、ギスランだからこそ選べたんだろうなと、2人の決意に胸が締め付けられる思いでした。
■オルフェ(CV:KENN)
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西国ウィエの騎士・オルフェは、各地を放浪する吟遊詩人。誰とでも仲良くなれる世渡り上手な一面を持ちながら、生まれがはっきりしない孤児のため自分に自信が持てず、当初は世界の命運を担う騎士の役目にもやや消極的でした。しかし似たような境遇のヴィオレットと出会い、変わろうと決意します。
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ヴィオレットを良い意味でレーヌとして扱わず、1人の女性としてみようとするオルフェ。見ていて癒されるようなほのぼのとした交流を重ねる中、女神に頼り切る世界の仕組みそのものへ疑問を抱き始めます。そしてヴィオレットと共にオルフェ自身にも突き付けられた真実は、現状を変えられる可能性も秘めていました。でも、先走ってしまったがための皮肉な結果には「ちょっとでも何かが違ってたら…」と思わずにはいられません。「そんなつもりはなかった」といくら言っても、起きてしまった事実に悪意の有無は関係ないんですよね。
愛情エンドは「これからはしっかりヴィオレットを守ってあげて!!」とひたすら応援したくなり、忠誠エンドは「こうなるのも仕方ないけど、寂しそうな背中を見るのはちょっと辛いなあ…」となりました。
■ユベール(CV:杉田智和)
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パルテダームの宰相・ユベールは、女神に作られた最初の花人。ずっと彼の元でレーヌとして育てられてきたヴィオレットにとって、家族ともいえる大切な存在です。これまではヴィオレットがユベールを慕い、ユベールがヴィオレットに愛情を注ぐという関係が成り立っていましたが、騎士の登場でこうした関係性が大きく変化します。
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最後に解放されるユベールのルートは、すでに他のルートで明らかとなった本当の目的についてより深く知ることができます。何故こうなったのか、改めて彼の口から聞くというのも興味深いですし、ヴィオレット自身の感情の変化も見どころの1つ。ヴィオレットが最も「生きている」と感じられたのがこのルートでした。
どうしても相手を手に入れたいという狂った欲望に取りつかれた時、何もかも捨てて相手の元へ行くのか、それとも相手が帰るべき場所を壊して自分の側にしかいられなくするか。エンドはどちらも味わい深い結末ですね。一つだけ、愛情エンドは最後の最後にものすごーく個人的な趣味として「そのままでも別によかったのよ…?」と言いたかったです。本当に趣味で。
このほか、騎士の守護者として4人を見守る「蝶」も曲者ぞろい。きっぷのいい姐さん肌の揚羽、掴みどころがなく飄々とした裏浪、レーヌと騎士を静かに見守る褄紅、とことん使命に忠実な浅葱、そしてヴィオレットが大好きで邪魔する者は物理的に消そうとする双子蝶・茜と瑠璃。さらに美食家のボヌール卿、マダム・エンジュといった花人たちもストーリーを盛り上げます。
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ちなみに蝶たちは名前が和風、姿も大正時代のような和装。一方、地上の人間、種人や天上の花人は洋装ですが、装飾に細かく和が織り込まれていて、じっくり見ていたくなるデザインとなっています。洋風のパルテダームの室内にもさりげなく和を思わせる小物があり、和洋折衷という感じで非常に練り込まれているなと感心しました。
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さて、最後に個人的な感想をお話しさせてください。本作の登場人物たちは、やがて滅びを迎える世界で、理不尽としか言いようのない運命や重責に翻弄されます。そんな中、たくさんのものを捨てて「愛」を掴み取るか、愛する人の想いとすれ違おうとも「忠誠」を貫くかを選ぶわけですが、それに伴う犠牲は多く、重ねた罪は決して軽くありません。すがれるような神の奇跡もなく、いわゆる「誰もが幸せになるハッピーエンド」はほぼ存在しないといっていいでしょう。
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何の事前情報もなく「主人公と騎士との甘い恋愛を楽しみたい」と思ってプレイしたら、ストーリーに驚いたり、少なからずショックを受けたりする人もいるかもしれません。勿論、ゲームですから気持ちよく遊べることが大前提。ただ『レンドフルール』を「楽しく恋愛できなきゃ嫌!」という理由だけで避けてしまうのは、ちょっとどころではなく、とても勿体ないかなという気がします。
私自身は、逃げようのない世界で信じていたものが崩れた時、彼らは何を思い、何を選択するのか。正しいとも間違っているともいえない、この結末を選んだ理由。つい「これしか道はなかったのか?」と、絶対に有り得ない「もしも」を考えてしまう展開。彼らの生き様、そして愛の行方を「最後まで見届けなくちゃ!!」と思わされました。
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正直なところ、それぞれのエンディングそのものには「これ以外ないな」と思っていますが、過程すべてに納得できているかといえば「いいえ」。だからこそ結果を前提に、彼らの心情を少しでも理解したくて再プレイが止まらず「これは、物凄くハマっているのでは…」という状態です。
すべての乙女ゲーマーに、とは言いませんが、私を含め刺さる人にはとことん刺さるタイトルになっています。薄葉カゲローさんの美しすぎるキャラクターやスチル、ストーリーを盛り上げる荘厳なBGM、まさに「天上の楽園」を表現した背景グラフィックなど、重厚なゴシックファンタジーの世界が気になった方はぜひ遊んでください!