荒れ果てた名もなき村、中央に立つは一人の侍。周囲を複数の剣客が取り囲み、じっくりと間合いを計っている。そこに吹き抜けるは一陣の風――剣戟の口火を切るのは誰か、生死をかけた緊張の静寂です。
いわゆる「チャンバラ」のお約束の場面ですね。バッサバッサと敵を斬り伏せる主役になってみたい、映画好きでなくても一度は思ったことがあるでしょう。その夢がいよいよ叶うときがやってきました。
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今回先行プレイレポートをお届けするのは、元寇の対馬というユニークな舞台設定と、正式に名前を使う許諾を得た「黒澤モード」で注目を浴びる『Ghost of Tsushima』。一体どのくらい「時代劇」なのか、気になっているプレイヤーも多いでしょう。
最初に断言します。本作は紛れもない「チャンバラ」でした。単なる「和風アクション」という表現とは一線を画す、プレイヤーが「殺陣」を演じるために作られたゲームだったのです。
切った張ったの大立回り 八面六臂の戦いを演じ切れ!
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エンターテインメントの前には、史実も道を譲る
国重五郎(石橋蓮司) from「スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー~」
『Ghost of Tsushima』は「黒澤明の侍映画をゲームにする」というコンセプトで製作されました。大河で見る鎌倉時代のイメージと比較すると違和感があるでしょうが、これはコンセプトを実現するためにあえてとられた手法であることをご了承ください。(開発メディアセッションより)
逆に言えば、ゲームにおける「チャンバラ」体験のために全てを注ぎ込んだということです。アクション、画面構成、音響に至るまで、あらゆる要素から並々ならぬ情熱と徹底的なこだわりが感じられます。できることなら初回から黒澤モードを選択して、闇夜とかがり火の美しい印影に身を投じる喜びを味わっていただきたいです。境井仁がズバッと剣を振り抜き、斬られたモンゴル兵が膝からゆっくり崩れ落ちるのを見て、プレイヤーはこう叫ぶでしょう――自分は今、黒澤映画の主役を演じているんだ!
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「チャンバラ」へのこだわりがよく表れているのが剣戟の場面です。敵兵はまず仁を数人で取り囲み、じりじりと仕掛けるタイミングを狙います。いつ、どこから斬りかかってくるか? アクションが起こる前の「静」がプレイヤーの緊張を高め、太刀筋を見極める集中力を与えてくれます。
そして順番に斬りかかってくる相手をいなし、素早く連撃を浴びせる防御と攻撃のコンビネーション。ただ斬り合っていると言うよりも、無駄な一振りが恥ずかしくなってしまうような、本当に映画の殺陣を付けている感覚です。
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そして一番の花形「一騎討ち」は専用の演出が加わり、たっぷりと立ち会いの時間をとって気分を盛り上げてくれます。操作は簡単でタイミングを見切るだけ。失敗すればもちろん即死。その代わり、成功すれば「椿三十郎」のような見事な居合抜きが披露されます。
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敵兵の方もただやられているだけではありません。それぞれ個性的な「斬られ芸」を見せてくれます。福本清三氏のように倒れるまでゆっくり時間を掛けるので、こちらも残心で応えてあげるのもいいですね。フォトモードで細かいセッティングもでき、一度起動すると戦闘そっちのけでベストショット探しに熱中してしまうかも。ちょっとそこの君、いい感じに頼むよ――なんちゃって。
彼を知り己を知るべし 百戦錬磨モンゴル兵の戦い方
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降伏せず反抗して戦い続ける者は、誰であれ皆殺しにせよ
チンギス・ハーン
1274年10月5日、対馬・小茂田浜にて「文永の役」が開戦します。日本へ発った兵力はモンゴル人・中国人・朝鮮人の混成部隊約30,000人。対する対馬側は僅か100騎程度。オープニングでは日本側に容赦なく火矢や爆弾の遠距離攻撃が浴びせられ、圧倒的武力の前に壊滅してしまいました。
敗戦後の対馬はあっという間にモンゴル軍が占領、あちこちに野営地が設営されています。略奪に怯え次々に捕らえられる村人の姿を見て、仁は武士として民を守るため、たった1人でも戦いを挑みます。
占領された村の解放や宿営地に捕らわれた村人の救出を繰り返し、対馬奪還を目指すのが本作の主な流れ。最初に仁は侍として真正面から戦いを挑もうとしますが、下手を打てば捕虜が殺されると気づきます。そして、野盗のようだと嫌う夜討ちに手を染めるのです。
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当時のモンゴルは中国から中東に至るまでの広大な範囲を征服し、軍備も様々な地方の影響を受けていました。宿敵コトゥン・ハーンは偃月刀と戟の双刃を携え、一般兵の曲刀と盾は中東風のフォルムです。さらには各地の技術者から新しい兵器を導入していました。おなじみの陶器爆弾「てつはう」はもちろん、弩に爆弾カタパルト、火炎放射器、銃の祖先まであったそうです。
そして何より集団統率の練度が非常に高く、遠くまで響く号令と陣太鼓で展開や撤退のスピードがとても速かったのです。モンゴル人は子供の頃から乗馬と弓術に親しみ、ほとんどの男性は兵士として十分戦える練度がありました。前衛で相手を射程距離まで誘い込み、遠距離射撃を一斉に浴びせる。これがモンゴル軍の基本的な戦術です。
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ゲームプレイにおいてもこの連係攻撃は脅威となり、開けた場所で一度見つかれば、斬り合いの最中でも次々に射かけてきます。必ず号令があるので聞き逃さなければ避けられますが、こちらの得意な剣戟を乱されて防戦一方です。拠点には盾兵が多く、防御崩しに躍起になっているとすぐやられてしまうでしょう。数撃を受ければ落命する本作では、相手の得意なフィールドで戦わないことが攻略の鍵となります。
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そこで登場するのが、侍の誇りを捨てた「冥人」の戦い。視線をかいくぐって気づかれずに倒す、いわゆるステルスアクションです。これまで不意打ちは卑怯だと信じてきた仁がいきなりやるのですから、慣れないうちは非常に泥臭い殺し方で、操作しているこちらが嫌になりそうです。戦闘を重ねてスキルや道具が増えていくと、忍者のように素早く討ち取っていけるようになります。しかし、そこには仁が信じてきた侍の姿はありません。武勇を示すのが正しいのか、手段を選ばずとも村人を救うのが正しいのか。冥人の技が熟達するほどに、仁の葛藤はより深くなっていくのです。
時代劇をテーマにしたゲームはこれまでも多く制作されてきましたが、本作はその歴史を塗り替える金字塔となるに違いありません。所作の一つから吹き抜ける一陣の風に至るまで、このゲームの中にある全てがチャンバラの殺陣を演じる体験に繋がっていました。このゲームを起動したその瞬間から、プレイヤーは三船敏郎にも、黒澤明にもなれるのです。
侍の誇りとは、名誉とは何か。純度100%まで鍛え上げられた新時代の侍エンターテインメント『Ghost of Tsushima』。2020年7月17日の全世界同時発売までもう間もなくです。
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