ついこの間まで「今年は冷夏か…?」なんて言ってたのがウソのように真夏日が続いていますね。
僕はこの時期になると、毎年ある魚を思い出してしまいます。
その魚とは『あつまれ どうぶつの森』にも6~8月限定で登場する「ライギョ」です。

ライギョとはタイワンドジョウ科の魚の総称で、東南アジアを中心に東アジアから南アジア、アフリカへかけて数十種が知られています。
どことなくヘビを思わせる顔つきから英語では「スネークヘッド」とも呼ばれます。



ライギョの仲間はもともと日本には分布しない魚でしたが、現在では主に「カムルチー」と「タイワンドジョウ」の二種が本州四国九州の各地に見られます。


かつて食用に持ち込まれたものが放流された結果、野生化したものと考えられています。
なお、カムルチーとタイワンドジョウは顔つきもさることながら、体の模様がまるでニシキヘビやマムシのよう。これがまたなんとも妖しい魅力を放っているんです。
しかし、スネークなヘッドをした魚を食用に……?ああ、キモチワルイ……
って思うじゃないですか?
いえいえ!実はライギョ、とてもおいしい魚なんです。
東南アジアでは誰もが喜ぶ高級魚として珍重されています。
『あつ森』でライギョの売値が5500ベルと高額なのはこの辺りを反映していたり…?

残念ながら川魚を食べる文化が希薄な日本ではイマイチ定着しなかったようですが……。
なお、さきほど「夏になると思い出す」と書いたのはこの魚が夏期に活発になるため。
この時期にライギョの棲む沼へ行くと、水面のカエルを捕食する「バフッ!!」という大きな音が響くのです。
それにしても「ライギョ」とはなんとも不思議で強そうな響きですよね。
なんせ漢字で書くと「雷魚」です。
なぜこんなにもいかめしい名前がついたのか?その由来は「一度獲物に噛みつくと雷が鳴るまではなさないから」という言い伝えによるものだそうです。スッポンと同じような伝説ですね。

さすがに雷が鳴るまで…というのは大げさかもしれませんが、実際にライギョは非常に顎の力が強く、一度口を閉じてしまうと人間の力でもこじ開けるのは困難なほどです。
……この特性のため、リアルで魚釣りをしていてライギョが釣れると針を外すのがすごく大変なんですよね~。
これはつまるところ噛みつく力が尋常でないということ。
しかも上下の顎には鋭い歯がたくさん並んでいるため、食いつかれた獲物はたまったものではありません。一度くわえた獲物は決して逃がさないという強い意志を感じてしまいます。

そういえば『あつ森』ではライギョは「池」にしか出現しませんが、これは実際の生態を反映したものと考えられます。
ライギョ、特に日本で見られるカムルチーとタイワンドジョウの両種は水生植物の茂った沼のような止水域を好みます。
川でも見られないことはありませんが、流れの緩い淀みに居ついていることが多いようです。

こうした沼や池というのはライギョが活動する夏場には水中に溶けている酸素が少なくなりがちで、鰓呼吸を行う魚にとっては棲みにくい環境となります。
しかし、ライギョはある特殊能力でこれを克服しています。
それは「空気呼吸」!
つまり魚のくせに水面で息継ぎをするのです。鰓に併設された「上鰓器官」なる器官が肺に代わってこのような芸当を可能にしているのです。
暑くて淀んだ水辺で生きるのに特化した進化と言えましょう。
ただし器用貧乏な面もあり、鰓呼吸と空気呼吸を同時に併用しないと溺れてしまうのだとか。つくづく不思議な魚です。
■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
YouTubeチャンネル