師走の忙しさの中、コタツでゲームという甘い誘惑と戦う季節です。
これくらい低気温が続くと、そろそろ「あの魚」がまた報道メディアを騒がせる頃合いでしょう。
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はい。『あつまれ どうぶつの森(※以下『あつ森』)』にも登場する「リュウグウノツカイ」です。
美しい深海魚として有名なリュウグウノツカイですが実は体格も巨大で、大きなものでは全長10メートル以上(!)にもなることが知られています。
10メートルて……。ほとんど怪獣ですね。
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出現は地震のまえぶれ!?
魚体は銀色に輝くリボン状で、身近なところではタチウオによく似た印象を受けます。しかし実際にはタチウオが分類学上はサバ目にあたるのに対し、リュウグウノツカイはアカマンボウ目という聞き慣れないグループに属します。いわゆる他人の空似です。
また、ヒラヒラと伸びた赤いヒレも大きな特徴です。
特にトサカ状に尾を引く背ビレを髪の毛に見立て、この魚を人魚のモデルとする説も存在します。
やはりこれだけ異様かつ美麗なルックスをしていると、人はある種のロマンを掻き立てられずにはいられないのかもしれません。
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さらに、冒頭でも触れたとおり冬~春季の低水温期になると主に北陸など日本海側の海岸へ彼らが打ち上げられ、ニュース番組に取り沙汰されることが毎年の恒例行事のようになっています。
かつてはこの奇妙な現象をして「地震や天変地異の前触れだ」と騒ぎ立てる向きもありましたが、これはあくまで迷信とされています。
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このような現象が起こる理由については
・冬場は表層の水が冷えて深海底に近い水温になるため深海魚が浮上してきやすい。
・水温低下により発生した湧昇流(深海から水面へ向けて吹き上がる潮流)に巻き込まれる。
・エサとなるプランクトンやエビ、イカなどを追って浮上する
などなど様々に考えられます。
しかし、未だハッキリとしたことはわかっていないのが現状のようです。
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『あつ森』ではアジやカレイなどと同様に海岸からヒョイと釣れてしまうわけですが、こうしたケースが実在することを考えると、案外「なくはない」ことなのかもしれませんね。
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「アマビエ」の正体!?
また、最近ではコロナ禍で一躍スターとなった怪異「アマビエ」との関連を指摘する声も見受けられるようになりました。
・海底から岸辺へやってくる
・災厄の前兆(予言者)となる
・長い頭髪、尖った口と円い目など見た目に共通点がある
といった要素から着想を得たアイデアのようですが、たしかに!と手を叩きたくなる説ですね。
これを支持する声も多くなり、本種の標本を展示している魚津水族館ではアマビエではなくリュウグウノツカイそのものをモデルに疫病退散の御守りグッズを展開しています。
やはり、どうしたって人にロマンを感じさせる魚なのですね。リュウグウノツカイというやつは。
味はおいしくない……
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なお、近縁の魚にはサケガシラやフリソデウオ、アカナマダといったものがいますが、いずれも深海。
リボン状の魚体に赤いヒレなど共通点は多いものの、リュウグウノツカイの華美さには一歩およばず知名度的にはいずれもマイナー。やはりリュウグウノツカイはスペシャルな存在なのです。
ちなみに、私は底びき網にかかったリュウグウノツカイをもらって食べたこともあります。
が、肉がやたらと水っぽくあまりおいしいとは言えないものでした。
みんなが憧れる深海の大スターにも、欠点はあったんですなぁ……。
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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