深海に佇む「ビーナスの花かご」
あんまりゲームと関係ない私事なんですが…。
先日、ROV(遠隔操作型無人潜水機)を用いた深海生物の撮影を見学してきました。
すると、モニター越しに水深200メートルの深海底で見られたんですよ!「カイロウドウケツ」が!

カイロウドウケツとは英語圏では「Venus' Flower Basket(ビーナスの花かご)」というたいそうロマンチックな名でも呼ばれる美しい海綿動物の一種です。

モニター越しとはいえ、まさか自然下で生きている様子を観察する機会に恵まれるとは思ってもいませんでしたよ。なんせ深海生物ですからね…。
ところが!その後、何気なく『あつまれどうぶつの森(以下、『あつ森』)』をプレイしていたら…。

はい、素潜りで採れちゃいました。カイロウドウケツ。
深海なのに……。すごいね。あつ森ワールドの住人……。
まあ『あつ森』ではほかにもダイオウグソクムシやメンダコといった深海生物を素潜りで捕獲できます。
ゆえに、ことさらに驚くことではないのかもしれませんが……。

それでも、いくら美しいとはいえ動きもしない海綿動物である「カイロウドウケツ」をあえてラインナップに加えるというその開発陣のセンスに脱帽せざるを得ません。
かな~り個人的な趣味を持ち込んだものではないかと邪推されます。
う~ん…いい趣味してますな!!
とはいえ、カイロウドウケツは海綿動物の中ではかなりのメジャーどころではあるのです。
その理由は彼ら自身のガラス細工のような美しさ(実際、レース細工のような骨格は石英ガラスと同じ二酸化ケイ素でできています)だけでなく、その奇妙な「同居人」の存在にもあります。

(同居人の)夫婦仲が睦まじいから「偕老同穴」!
カイロウドウケツという奇妙な響きの名は漢字で「偕老同穴」と書きます。
これは夫婦が生きてはともに老い、死しては同じお墓に葬られるという古事成語から転じて、夫婦仲が睦まじいことを指す語でもあります。

これはカイロウドウケツ自体の夫婦仲を表すもの……ではありません。カイロウドウケツの内部に暮らす「ドウケツエビ」という小さなエビの特徴なのです。
ドウケツエビは基本的に雌雄1匹ずつ、つまりカップルでカイロウドウケツ内に棲んでいるのです。
彼らはミジンコのように小さな幼生のうちにカイロウドウケツの網目から内部へ侵入して大きくなるため、いずれ外に出ることができなくなってしまいます。
こうなるといよいよ一蓮托生と言いますか、浮気などしようがない状況なわけです。
うーん、これはまさしく偕老同穴!

一見すると冗談のように奇妙な生態ですが、ドウケツエビからしてみればガラスの壁で覆われた安全なマイホームが手に入るわけです。エサもカイロウドウケツの食べ残しを頂戴できます。過酷な深海で暮らすにはかなり有効な戦略かもしれません。
……ちなみに、ドウケツエビを住まわせることによってカイロウドウケツ側が得られるメリットは特に無いと言われています。
……いいように使われてますねー。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
YouTubeチャンネル