冬本番になると釣れる魚の種類が限られてくる…。それはリアルでも『あつまれ どうぶつの森(※以下、あつ森)』でも同じです。
夏の間は色とりどりの南国フィッシュたちが釣れたあつ森ワールドだったのに、今や顔ぶれが一気に単調になってしまいました。
しかし、冬だからこそ釣れる魚もいるわけです。たとえば小物ではワカサギ、大物ならこいつ!
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イトウ!!俗に「幻の巨大魚」などと呼ばれることもあるサケやマスの仲間です。
イトウは体長1メートルをゆうに超える大型魚で、なんと過去には十勝川で2メートルにも達するという説もあるほどです。
このことから本種は日本最大の川魚とされることもあるようです。
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イトウは日本では北海道の一部地域のみに分布する冷水性の魚であることから、『あつ森』では冬季限定の出現枠となっているものと思われます。
「糸魚」が転じて「イトウ」になった?
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イトウはサケに近縁な魚であり、同じように海と川を往来するライフサイクルを送ります。
しかし、サケが秋に川へ遡上すると産卵して間もなく死亡する一方で、イトウは10年以上も生きる長寿の魚であり、何度も繰り返し産卵することができます。また、繁殖期が早春だという点もサケとは異なる点です。
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ただし産卵を終えた個体は生き延びはするものの、やはり体力を使い果たして春には糸のように痩せ細ることがあります。
こうしたガリガリに痩せた個体をして「糸のような魚」→「イトウオ」→「イトウ」と名がついたという説もあるほどです。たしかに、サケなどと比べるともともとの体型も細身な魚ではあります。
…伊藤さんが発見したから、という由来ではなかったんですね。
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ペリー提督にゆかりのある魚
また、この魚はもう一つ面白い名前を持っています。学名を「Hucho perryi」というのです。
ん?ペリー?
そう。あの黒船来航でおなじみのマシュー・ペリー提督です。
彼が訪日した際に立ち寄った函館でイトウの標本を入手し、米英に紹介したことからこの名が献名されたと言われています。
こんな具合に、本種は大きさから命名の背景に至るまで、面白い要素の多い魚なのです。
「幻の魚」にしてしまわないために
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さてそんなイトウですが、現在では「幻の魚」なる異名がつくほどにその数を減らしつつあります。
かつては北海道北部を流れる多くの河川や湿地に分布していたようで、イトウのアイヌ語名にちなんだとされる地名があちらこちらにあります。ところが、ダム建設や治水などの開発により生息範囲を減らしてきました。
さらに、成熟までに長い時間を要する魚であるため、一度数を減らしてしまうとなかなか資源量が元に戻らないのも本種を「幻」たらしめている大きな要因です。
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そういえば、アイヌ文化には鹿を丸飲みにする巨大イトウが、その亡骸で川を堰き止めてしまうという伝承もあります。他にもクマを飲み込んだというものまで。
さすがにそこまでのサイズが実在していたとは考えにくいですが、そうした物語が編まれる程度には巨大で人々に親しまれた特別な存在(カムイ)であったのでしょう。
このまま本当の幻にしてしまうことなく、多くの河川にイトウが還ってくるよう環境保全に努めなければならないでしょう。
また、近年は養殖も盛んに行われるようになっており、青森の鯵ヶ沢町などで賞味できます。
天然のイトウがさっぱりした口当たりであるのに対し、養殖イトウは脂の乗った芳醇な味わいだとか。
イトウという魚を知るためにも、ぜひ一度試してみたいものです。
『あつ森』博物誌バックナンバー
■著者紹介:平坂寛
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Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
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