
どんな色にも染まりうる、雲のように自由なヒロイン。これが、筆者がネミッサに抱くイメージです。
『真・女神転生』シリーズの派生作品である『デビルサマナー ソウルハッカーズ』のヒロイン・ネミッサは、主人公が手にしたガンタイプPCに封印されていた実体を持たない女悪魔です。彼の幼なじみであるヒトミに憑りつき、体を乗っ取ることでようやく自由を手にしたネミッサは、まずは自分を封印した何者かを探し出してボコボコにしようと……と書くと、あまりいい印象を抱かない人もいるかもしれません。まぁ、悪魔ですしね!
ところが、主人公や彼が属するハッカー集団・スプーキーズの仲間たち、そして体を借りているヒトミの意識などと交流を重ねるうち、そんなネミッサにも少しずつ思いやりや仲間意識のようなものが芽生えていきます。
悪魔であるだけに魔法に長けていることもあり、ほどなくして駆け出しのデビルサマナー(悪魔召喚師)として戦いに身を投じる主人公の最高のパートナーとなっていくのでした。
彼女には上述した通り実体がないほか、使う魔法の系統すら未確定です。どのような魔法を習得するかは、ゲーム序盤でプレイヤーが選ぶ選択肢によって決まります。
また、2012年に発売された3DS移植版のパッケージイラストを見てみると、ネミッサの顔が見切れており、表情がうかがいしれないデザインになっているのが分かります。口元は笑みを浮かべていますが、はたして彼女はどのような表情でそうしているのでしょうか。
体を持たず、使える魔法すら決まっておらず、どのような表情をするかもこちらの想像に委ねられている(ゲーム中では彼女の表情も普通に描かれますが)。そんなネミッサは、主人公との出会いからどのようにでも変わりうる、さまざまな可能性を持つ存在であったともいえます。
彼女が人の心を学べたのは主人公たちが(アナーキーなハッカーであるとはいえ)人としてまっすぐな考え方をしていたからで、分かりやすい悪人と出会っていたら悪に染まっていたのではないか……そんなある種のピュアさのようなものも感じさせるのが、ネミッサというキャラクターなのです。
本作は物語や結末に分岐はなく基本的に一本道ですが、本家の『真・女神転生』シリーズは主人公の選択によって所属する組織や物語の展開が大きく変わるのが魅力の一つです。そんなシリーズから派生した作品のヒロインとして、ネミッサの描かれ方は実に順当で、この上なく魅力的だったとあらためて感じました。
最後に余談ですが、本作は今日でもしばしば「昨今のインターネット社会の在り様を鋭く予見していたゲーム」として話題に挙がります。物語のキーパーソンの1人である若き社長・門倉が、今のネット社会(の一面)にもピタリとあてはまってしまうような物言いをするシーンがあるからです。
本作が発売された1997年は、ダイヤルアップ接続定額サービスのテレホーダイが始まってまだ2年ほどの頃。言い換えれば、インターネット環境がまだまだ一般家庭に普及しきっていなかった時代です(少なくとも、当時自宅住まいの学生だった筆者にはまだネット環境はありませんでした)。
もし、今後初めて『ソウルハッカーズ』をプレイされる方がいましたら、そんな当時の世相も頭の隅に置いてもらえると本作がいかに慧眼であったかがより深く感じられるのではと思います!