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「魔術師ワードナ 営業時間AM9:00-PM5:00 ***在室中***」
この人はなに!? 仕事でボスやってるの!? 攻略本を片手にファミコン版『ウィザードリィ』を遊んでいた小学生時代。ついにたどりついた最下層の地下10階でラスボスのワードナが出現する部屋のトビラに書かれた文字を読んだとき、筆者はとても混乱しました。この"営業時間の謎”を紐解くには、少し本作の背景に触れる必要があります。
『ウィザードリィ』は1981年にApple製のPC・Apple IIで発売された3DダンジョンRPGです。その後、1987年にファミコンへの移植版がアスキーから発売されました。
FC版『ウィザードリィ』は「PROVING GROUNDS OF THE MAD OVERLORD」というシナリオを描いており、日本では「狂王の試練場」と訳されています。物語はシンプルで、「魔術師ワードナが狂王トレボーから魔除けを盗んで地下迷宮に潜伏した。冒険者の一人となって迷宮に挑み、魔除けを取り戻せ」というものです。
筆者から見たファミコン版『ウィザードリィ』は「ものすごくかっこいいダークファンタジー」でした。現在も変わらず活躍されているイラストレーター・末弥純氏のデザインによる恐ろしげなモンスターたちや、音楽家の故・羽田健太郎氏による楽曲が形作る世界は重厚というほかなく、すぐに虜となりました。
しかし、本作のそうした雰囲気はどうやら"ファミコン版スタッフのナイスアレンジ"とでもいうべきもので、大元の作品はそこかしこに制作者のユーモアが込められていたらしい…と知るのは、初プレイから何年も経ってからの話でした。
冒頭にある"営業時間"もそのひとつです。他には、トレボーとワードナという名は本作の生みの親2人の名前の逆さ読みだったり(Robert Woodhead→Trebor→トレボー/Andrew C.Greenberg→Werdna→ワードナ)、作中で屈指の強さを誇る武器「カシナートの剣」の元ネタは、当時アメリカで流行ったらしいフードプロセッサーのメーカー名をもじったもの(Cuisinart社/クイジナート→カシナート)だったりというものが、有名なネタとして挙げられます。
カシナートの剣は、Apple II版では「Blade Cusinart'」というような名前であったそうです。「コイツはみんながよく知ってるあのイカしたフードプロセッサーの刃さ! 斬れないものなんてあるわけないだろう? HAHAHA!」みたいなノリだったのかもしれません。
そうした経緯を知ってもなお、筆者の中での『ウィザードリィ』は重厚なファンタジーのままでしたが、いろいろ納得がいったのも事実です。なにせ、本作の次に遊んだファミコン『ウィザードリィII リルガミンの遺産』でも、迷宮内をタクシーが走ったりしていたものですから!
筆者は『ウィザードリィ』のディープなマニア…とまではいきませんが、ファンではありますので、ゲームで遊ぶ以外にも攻略本の名著「ウィザードリィのすべて」を何度も読んだり、往年のゲーム雑誌「必本スーパー!」で連載された石垣環氏によるコミックの単行本を全巻そろえたり、ベニー松山氏の著による小説2作品のおもしろさに打ち震えたり、アトラスが本シリーズをモチーフにして2001年にPlayStation 2でリリースした『BUSIN Wizardry Alternative』シリーズに舌鼓を打ったりしていました。
初期の『ウィザードリィ』や『BUSIN』シリーズは、今も仕事中や外出時などにサントラをよく聞きます。本作にかぎらず、幅広い展開をしているタイトルはゲームを遊ぶこと以外にも作品に触れられる手段が多くてよいですね。
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