■自分のペースでゲームを進行できる「ワールド」に、冒険の要素がぎゅっと濃縮
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RPGには物語がつきもので、それは主に冒険の中で描かれます。これは『サガ エメラルド ビヨンド』も同様ですが、その構成はやはり一般的なRPGと比べてかなり異色です。
街を出るとフィールドが広がり、草原や山を越えた先にあるダンジョンに入り、その中を探索して最奥のボスと戦う。その道中、幾度も敵と戦い、MPやアイテムを適度に使いながら進んでいく──こうした適切な戦略と長期的なリソースの運用が、大半のRPGにおけるゲーム性の核です。
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ですが『サガ エメラルド ビヨンド』の場合、いわゆる街やフィールドといった分け方はなく、ひとつの世界をまとめた「ワールド」が多数存在し、その世界同士を繋ぐ「連結領域」で結ばれています。住民も街も敵とのバトルも全て凝縮された「ワールド」を渡り歩き、主人公ごとに用意された目的を目指す。これが『サガ エメラルド ビヨンド』の主なゲーム進行です。
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今回のプレイで選んだ「ディーヴァ ナンバー5」は、見目麗しい容姿と美しい歌声を持った女性型のメカですが、禁じられていた歌を歌ったことでメモリを封じられ、歌うことができなくなりました。そのボディも小柄なロボットへと換装し、日々の目的を失った彼女は、自分の「心」を問う冒険へと挑むことになります。
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そんな「ディーヴァ ナンバー5」を待ち受ける「ワールド」はいくつもあり、今回筆者が辿り着いたのは3つの部族がそれぞれ問題を抱えている世界でした。その問題に「ディーヴァ ナンバー5」が関わることで、物語が進展していきます。
物語全体が動く「メインストーリー」や、世界への理解が深まったり報酬がもらえたりする「サブイベント」、敵と戦う「バトル」といった要素があるのは、他のRPGと変わりません。
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ですが本作は、「道中で幾度も敵と戦う」といった雑魚戦は存在せず、ストーリーやイベント上で必ず戦う敵を除けば、バトル発生のポイントに任意でアクセスして戦うのみ。道中の足かせになりやすい偶発的な戦闘は一切なく、必要なバトル以外を無理強いされない稀有なシステムになっています。
もちろん、敵と戦えばそれだけ強くなれますし、後々に控えているであろう強敵とのバトルにはキャラの育成が欠かせないでしょう。ですが、それを強制的に押し付けられたりはせず、自分が戦いたいタイミングでバトルに挑むことができます。育成のペースやプレイの配分をプレイヤーに委ねており、その自由度の高さも本作が持つ特徴のひとつです。
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「道中の雑魚戦」を駆逐した『サガ エメラルド ビヨンド』は、タイパにこだわる傾向のある現代にマッチした構成と言えるかもしれません。求める時だけ存分に戦えて、それ以外は必要分だけで済む、実に秀逸なゲームデザインです。
■濃密さと「余白」の削除が、プレイの没頭と周回を促すデザインに
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「連携」が鍵を握るバトルは毎回試行錯誤があり、それが結果に結びつくので満足感も得られます。一方で、ランダムに遭遇する雑魚戦などは強いられず、バトルの回数はプレイヤーの気分に合わせて調整可能。パーティが十分育っていれば、ストーリー上のバトル以外は一切無視してクリアまでひた走ることもできそうです。
また、メインストーリーやサブイベントの発生場所など、要素の全てが「ワールド」の中にギュッと詰まっています。広大なフィールドを冒険するRPGと比べると、移動の手間は皆無と言っていいほど。そのため、出来事が矢継ぎ早に起こり、物語もバトルもテンポよく進みます。
こうしたゲームデザインを通して見ると、バトルにせよイベント関連にせよ、ゲームとしての面白さを維持したまま「余白」を削ぎ落している印象を受けました。
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本作には6人5組の主人公がおり、「ディーヴァ ナンバー5」もそのひとり。セーブデータは主人公ごとに残せるので、本作の物語を一通り堪能しようと思ったら、最低でも5回のプレイが必須です。
しかも、周回プレイを支えるシステムが用意されており、育成状況の引継ぎも可能。サブイベントはプレイヤーの選択次第で分岐するので、2度3度と繰り返したくなる仕掛けもゲーム内に備わっています。
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ひとつひとつの要素を深め、しかし手間は少なく調整し、「余白」は可能な限り削除する──そんな、RPG体験を極力まで煮詰めたようなゲームデザインが、周回プレイへの意欲と興味を増大させてくれることでしょう。
実際のプレイではまだそこまで達していませんが、「濃密な体験」と「周回プレイへの誘い」の果てにこそ、『サガ エメラルド ビヨンド』が伝えたいテーマが隠されているのかもしれません。
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そこに何があるのかはまだ分かりませんが、「辿り着きたい!」と強く思わせるゲーム体験と物語を感じた『サガ エメラルド ビヨンド』の先行プレイでした。いずれ、その「場所」へ到達したいと思います。そこに、皆様もいることを願いながら。
(C) SQUARE ENIX