2025年2月10日、Key×ライトフライヤースタジオが贈るドラマチックRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、「ヘブバン」)が配信から3周年を迎えた。日付も変わり、3周年を迎えようとしているほんの30分前、まさに新たな月曜日を迎えようとしているタイミングで、公式Xと公式YouTubeチャンネルでは恒例の生放送が行われていた。
ゲームの最新情報などは一切なく、公式生放送でお馴染みのキャスト陣もいない。3周年記念に描き下ろされたアートビジュアルをバックに、プロデューサー・柿沼洋平氏と開発統括/ゲームデザイン・下田翔大氏らが、たわいもない雑談を交えながら直近の施策を振り返りつつ、3周年をただただお祝いするという趣旨である。
だが、そんな番組であっても多くのヘブバンユーザーたちに視聴されていたのが記憶に新しい。もちろん筆者もスマートフォンを片手に、華もなく成人男性2人きりの生放送をリアタイ視聴していた身だ。
意識はせずともそれだけ自分の生活の中に『ヘブバン』の存在が根を張っていることに気がついた瞬間だった。それは純粋に作品が「好き」だからに他ならないのだろう。先日開催されたリアルイベント「ヘブンバーンズレッド3rd Anniversary Party!」の取材案内がインサイド編集部から打診されたときは、仕事を引き受けられることより、むしろ私欲的な部分から快諾させてもらった。
最近は『ヘブバン』について筆を取ることもめっきりと減っていたのだが、作品に対する熱意や気持ちをテキストに変換せずとも“『ヘブバン』が好きだから摂取し続けたい”とは考えている。その純粋な気持ちに嘘偽りはない。
今回は普段の特殊記事などと趣向を変えて、ゲームライターとして活動してきた筆者自身と『ヘブバン』の3年間について、ゲームファンらしい視点を意識しながら書き殴ってみることにした。締まりもなく、稚拙な乱文に過ぎないエッセイのようなものと捉えてほしい。
ここまで書いておきながら「そんなものはnoteかブログにでも勝手に書けよ」と、ひとりごちる自分もいないことはないが、それはさておく。本稿が1人でも多くのヘブバンユーザーに、何らかの共感をもたらすことができれば、それはそれで幸いなのである。
※本記事では物語のネタバレを含みます。
※本記事に掲載されている内容は、著者個人の見解や活動に基づくものです。
◆まさか3周年まで続くとは思わなかったリリース当初の記憶
『ヘブバン』がリリースを迎えたのは2022年2月10日。カレンダーを遡ってみると平日の木曜日であった。当時の記憶そのものはまだ鮮明に思い出すことができる。この日、筆者は攻略Wikiで知られるゲームメディア「GameWith」で活動していた。
その日は業務の中で『ヘブバン』のゲームレビューを記事化することになったのだが、メインストーリーの過剰な作り込みに圧倒され、うっかり記事化を忘れてのめり込んでしまっていた。なんだかんだ時間に都合を付けて、率直に批評を書き残すことはしてきたつもりだが、今は読み直すのも気恥ずかしい。
このとき自分はゲームライターとしてまだまだ駆け出し始めたばかりの頃であり、『ヘブバン』については認知していたもののノーマークであった。なにせ、選ばれた少女たちが人類の脅威に対抗するため、武器を手に取り戦う......みたいな触れ込みである。
その前年には当時グリーの子会社であったポケラボ(※2025年1月1日にWFSへ統合された)が、『アサルトリリィ Last Bullet』を配信しており、こちらのタイトルも表層的な設定だけをかい摘んで見てみれば、『ヘブバン』と似ている。というより、ありきたり感があったのは否めなかった。
おまけに筆者はこれまでKey作品に触れてこなかったため、「Key初のRPG」と聞いてもそこまでの衝撃がない。むしろ、Keyであることより“ゆーげん氏のキャラクターデザイン”の方に興味があったほどだ。
ゆーげん氏は『ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~』以降の4作品「不思議」シリーズから、NOCO氏と共にメインキャラクターデザインを手がけており、それらの作品にのめり込んできたいちプレイヤーとしては大変馴染み深いイラストレーターだった。
ただ、仕事は仕事なので、何かしらニュースにできる情報があれば『ヘブバン』について発信する機会が自ずとやってくる。そんな日常を過ごしている折に、配信後の注目作として、GameWithに依頼されたゲームレビューこそが、いわゆる“ヘブバン沼”へどっぷり浸かっていくキッカケに繋がった。
遊んでみるとKey・麻枝准氏の紡ぐメインシナリオを読み進めたくて、寝る暇も惜しんでプレイしたのを覚えている。ゆーげん氏のキャラクターデザインも自主的にプレイする意欲に繋がったのは間違いない。
麻枝氏の世界観を生きるキャラクターたちは、一見すると想像が及ばないほどにエキセントリック、そして生きる活力に満ちた人物たちばかりだ。そんなキャラクターたちをゆーげん氏は、見事に一人ひとり丁寧に描き分けている。だが、その裏では『ヘブバン』のために自身の絵柄を変えていく必要があったことが、氏から語られている(※YouTube『ヘブンバーンズレッド』新作ゲーム発表会【WRIGHT FLYER STUDIOS × Key】より)
『ヘブバン』は、主人公・茅森月歌のハイテンションがとにかく強烈である。ゲーム冒頭から茅森と和泉ユキによるボケ、ツッコミの応酬が怒涛の勢いで繰り広げられ、プレイヤーは容赦なく置き去りにされる。
しかしその最中、狙い澄ましたかのようにボケの選択肢がゲーム内で提示され、プレイヤーの選択一つで茅森のボケが加速するのだ。それを選んだプレイヤーも、場の空気を乱す茅森の共犯となる。それが遊ぶ側としてはなんだか心地良い。


配信当初はこうした人を選びそうなノリがなんだかんだとユーザーたちに受け入れられていったことに驚いたものだった。某匿名掲示板においても、本作の天丼ギャグ以外、主にストーリーのボリューム感やシナリオの展開、音楽性、フルボイスなどについては高く評価する声が挙がっていたほど。気が付けばプレイヤーたちは皆、麻枝氏の世界観に釘付けになっていたのである。
筆者はスマートフォンゲームであることを忘れてしまうようなのめり込み方をしていき、やがていちプレイヤーとして『ヘブバン』にハマっていく。本作のギャグ描写とシリアス展開がシーソーゲームのようにかわるがわる転調する様子も、フルボイスだからこそよりドラマティックに魅せられる大きな魅力だ。ちなみに天丼ギャグは三週ほど回って、もはや微笑ましく感じられる。なければないで逆に物足りない。

今になって思えば、ここまでストーリーボリュームにバロメーターを振り切った、やたらと手間の掛かるスマートフォンゲームが、英語圏での海外展開までに漕ぎ着けることになるとは誰も予想し得なかったことだろう。おまけに英語版は日本人プレイヤーにとっても馴染みのある、Yostar Gamesというのが大きい。
麻枝氏による、日本向けのローカル過ぎるギャグ描写を英語圏ではどうローカライズしているのか、興味が尽きないところだが、プレイヤーとしては妙に感慨深いものがある。ただ、当時の心残りとしてはこの反響を読み切れなかったGameWithが攻略Wikiを作らず、競合他社のGame8に『ヘブバン』で主導権を握られたことが、関係者として実に残念でならない。
