リアル志向のレースゲームとして地位を確立している『Forza Motorsport』。その特徴はリアルな世界をゲームの中に再現することです。世界中のコースをいかにしてゲームに取り込んでいくか、これまでも試行錯誤がありました。Shek氏はまず"Old School"な例として過去のやり方を紹介しました。
コース制作にあたり、前作までメインで行なっていたのは実地での写真と映像撮影です。コースを実際に走りながら、カメラを構えて撮影を行なっていきます。前後左右、カメラとビデオカメラで、都合8週しながら景色を収めていきます。また、撮影だけではデータ化するには不完全ですので、工事現場で使うような傾斜を測定する機器を用いたり、GPSパックを背負った人を歩かせてより正確さを期す、というような事が行われていたそうです。
しかしこうした"Old School"なやり方には幾つか問題点があります。撮影データは手持ちのカメラが基本でしたのでかなり揺れたりブレがありました。また、歩きによるGPSデータはどうしてもジグザグなデータとして取れてしまいますので、補正が必要になってきます。さらに、世界中のコースにロケを行うわけですが、入念に行なったとしてもデータの撮り忘れが発生してしまうケースがあります。「ああ、あの場所撮り忘れた!どうなってたっけ・・・」とスタジオに戻ってから後悔しても後の祭りです。もはや誰にも分からないわけです。
Shek氏は過去のコース制作でどのような点に時間を要していたかをグラフで紹介。それによれば、修正や磨き上げる部分が圧倒的に大きいのです。そうした部分をいかに圧縮していくかが課題となりました。
■新たに導入された手法の数々
Xbox Oneという次世代機になったことで『Forza Motorsport 5』には技術的に幾つもの挑戦が行われました。その一つが物理ベースのマテリアルとライティングで、これを適切に実現するために撮影時において正確な(環境光に依存しない)データを採取する必要がありました。このため、今回の撮影では「ColorChecker Passport」という機器を用いました。これは複数の正確な色を出力する携帯型のデバイスで、これと対象物を一枚に収めることで、撮影環境による色の変化を容易に調整できるようになりました。
また、コースでの撮影においては「グーグルストリートビュー」で用いられているような全天球カメラを利用。クルマの上部に固定して360度を撮影することで繰り返しを省き、ある程度揺れやブレを吸収することができました。
さらに3Dレーザースキャナーを用いた環境のデータ化にもチャレンジ。これはレーザー照射により周囲の環境を3D化するというもの。データ量が膨大になりますが、短い時間でかなり正確なデータを取得することができます。得られるデータはポイントクラウドという3次元座標の集合体で、これをオートデスクの「ReCAP」や「3ds Max」を通じて3Dモデリングに落とし込んでいきました。先進的な取り組みで、オートデスクの協力も得られたとか。自動生成の3Dモデリングは最終的にはデザイナーによる調整が必要になりますが、ラフ作りの工程を大幅に削減できたとのこと。課題としてはアーティストにとっては慣れない作業であることや、データ容量の大きさが挙げられていました。
最後にShek氏は、これらの手法の導入には安くないコストが必要であることを認めた上で「どんな技術も必ず安価になる日が来る」と強調。また、コストが増える一方で削減できる工数もあり、全体としては予算を圧縮することができたとしました。求められる品質が上がれば上がるほど自動化は大きな鍵となります。Shek氏は「アマゾンのドローンのようなものでコース全体を一瞬でデータ化するような日もくるかも」と冗談めかして話しましたが、そういう未来も遠くはないかもしれません。