ことの始まりは、アップルが6月2日(日本時間では6月3日)に開催したWWDC 2014でした。WWDC(Worldwide Developers Conference)は、アップルが毎年開催している開発者向けの会議の名称。今年の目玉は、アップルのスマートデバイスに搭載されている「iOS」の最新バージョンとなる、iOS 8のお披露目でした。
そのiOS 8に関連する発表のなかで特に注目したいのが、健康管理アプリ「Health」です。iOS用のアプリには、体重計の大手メーカー・タニタによる同社の体組成計と連動したアプリなど、すでに多くのサードパーティーによるさまざまな健康管理アプリが存在しています。Healthは、そうしたアプリが計測・管理する健康情報を1つに集約する機能を持っています。そしてゆくゆくはアップルが米国内の医療機関と提携し、統合したデータを参照して医師が患者にアドバイスをする……というような仕組みの構築も視野に入っているそうです。
さて、WWDC 2014開催の約3ヶ月前、同じように健康分野への進出に名乗りを挙げたメーカーがありました。そう、任天堂です。岩田社長は今年の1月30日に開催された経営方針説明会で自社の事業を「人々のQOL――Quality of Life(生活の質)――を向上させるもの」と再定義し、ビデオゲーム事業とは独立した新たな取り組みの一環として、健康をテーマとした事業を始めることを明らかにしました。
これだけを見れば冒頭で述べたように「任天堂とアップルが健康分野で激突」と取れなくもありません。実際、二社のしようとしていることがまったく競合していないと考えるほうが無理があるでしょう。ですがその一方で岩田社長の発言をよく見ると
・健康な方に向けていかに健康をモニタリングし、適切な提案ができるかを事業領域とする
・娯楽企業の強みを生かし、健康に必要な「努力」と「継続」を楽しく提供したい
・ノン・ウェアラブル(持つ必要、身に着ける必要がない)なプラットフォームを提供する
・健康をテーマにするのは最初のステップである
など、アップルのHealthとは異なる方向性も確認できます。「お手軽に楽しく、健康を維持するための努力をする」――文字にするのは簡単ですが、任天堂がどういったアプローチでこの困難なテーマに立ち向かうのか、続報が待たれます。
岩田社長はかつて「任天堂はありとあらゆるところに先手を打てるほどリソースがあるわけではない。だからこそ、作っている商品の目利きが大事」と語り、アップルの創設者にしてカリスマであった故スティーブ・ジョブズも生前に「アップルは他の企業のようにリソースを持つわけではないので、未来がある技術を選んで採用する必要がある」とインタビューに答えたことがあります。似た理念を持つ二社が、同じように目を付けた健康分野。任天堂とアップルの挑戦はどれだけ実を結ぶでしょうか? 健康で悪いことはなにもありませんから、興味を持てそうなところがあったら全力で乗っかってみるのも一興でしょう。
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