PC向けデジタル流通プラットフォームのSteamは、現状においてベストではありませんが、ベターな回答の一つでしょう。頻繁に安売りセールが行われているとはいえ、10~20ドルのゲームが販売されている状況があります。しかしSteamはコアユーザーの巣窟でもあり、カジュアルゲーマーが多いモバイルゲームとは同じゲームでも反応が異なります。移植に際してどのような点に気をつければ良いのでしょうか?
この「スマホの有料ゲームからSteamへ」というルートで成功を収めた数少ないタイトルが『Plague Inc.‐伝染病株式会社‐』(NDEMIC CREATIONS)です。GDCで創始者のジェームズ・バーグハン氏は、「なぜPCに行きたいのか自分の動機を理解する」「モバイルゲームをPCに移植する際のリスクをあきらかにする」「モバイルゲームに対するPCゲーマーのネガティブなイメージを回避する」という3つの教訓について説明しました。
■モバイルから移植されたPCゲームは「悪魔の使者」?
2012年にiOSとAndroidでリリースされ、世界で4500万ダウンロードの大ヒットを記録した『Plague Inc』。プレイヤーが病原菌となり、全世界でパンデミックを引き起こして人類を絶滅させるという、インディならではの尖ったタイトルです。同社はイギリスのディベロッパーで、エボラ出血熱の感染者が西アフリカ諸国で拡大したことも、不謹慎ながら追い風となりました。第一作のタイトルとしては予想外の成功だといえるでしょう。
しかしPCゲーム好きのバーグハン氏としては、モバイルだけに留まらず、これをPCに移植する願望を捨てきれませんでした。「もちろん収益を上げたいとか、ブランドを強化したいとか、いろいろ表向きの理由はありました。しかし結局のところ自分がPCゲーマーで、移植が楽しそうだったからというのが本音です」と開発の動機について語ります。
もっとも自分の経験から、モバイルとPCゲーマーはゲームに対する認識が異なることもわかっていました。「SteamのユーザーはモバイルゲームからPCゲームへの移植を悪魔の使いのように憎んでいる」とバークハン氏は語ります。「勝つために課金するようなゲームばかり」「内容に乏しい(深みがない)」「操作系などがPCゲームに最適化されていない」「すでにモバイル版を持っており、あえて買う必要がない」などが、その代表例だといえるでしょう。
そこで移植にあたっては、モバイル版の利益を使って大改造をするしかない……バーグハン氏ははじめに腹をくくったといいます。大きく「1:モバイル版をそのまま出す」「2:内容はそのままに価格を上げる」「3:内容を増強して価格は据え置き」「4:内容を増強して価格を上げる」という4つの選択肢を考えたとき、4が最適だと考えたのです。
実際にスマホ版が0.99ドルに対して、PC版は15-20ドル(記事執筆時では14.99ドル)という強気な価格設定にもかかわらず、結果的に50万本以上の大ヒットを収めることが出来たのは、内容や売り方にこだわったからだと言います。
具体的には「シナリオエディットとオンライン上でのシェア機能」「オンラインでのマルチプレイ対戦」「UIやグラフィックのグレードアップ」「リプレイ機能の追加」などが実施されました。中でもグラフィックは非常に洗練されており、プレミアム感を演出するポイントとなっています。マップには3D演出が加わり、ナラティブ要素の追加や情報の見せ方なども工夫されました。
他にキーボードという入力デバイスを活かして、ホットキーの追加などコアゲーマーが喜ぶ仕様も追加されました。Steamならではの実績追加やクラウド上でのセーブ、映像解像度の設定なども地味ながら重要だったと言います。
■ユーザーと真摯に向き合い、お金の匂いをちらつかせない
ゲーム開発と並行して行われたのが、既存ユーザーやPCゲーマーコミュニティとの関係性構築でした。タイトルは元のブランドを活かしつつ、プレミアム版であることを示すために『Plague Inc.』から『Plague Inc. EVOLVED』に変更。ロゴもオリジナルを活かしつつ、よりディティールアップが行われました。
ユーザーに対しても公式ホームページに掲示板を設けて、「なぜ単価が上がるのか(移植費がかかるため)」などの公式発言を行い、PC移植に対する考え方や姿勢を繰り返し説明していったと言います。一方でマネタイズやDLCといった、PCゲーマーが荒れそうな姿勢は極力見せないように注意したと説明されました。こうした努力の結果、前述のような成功を収めることが出来ました。
「もっとも次善の策として、モバイル版と同じ内容のゲームを、そのままの価格でリリースするという手段も考えられたと思います」とバーグハン氏は語ります。ただし、結局のところ、それでは自分が楽しめなかったとのこと。また自分の例も絶対ではなく、あくまで一例として捉えて欲しいと語っていました。
いずれにせよ、スマホゲームではこれからミッドコア向けアプリの増加が予測されています。日本企業にとってもアプリの海外展開を考慮する上で、Steamが選択肢の一つとして入ることは明らか。しかしSteamには固有の文脈が存在します。我々にとって、あまりなじみのない分野だけに、傾聴するべき事例だったといえるでしょう。
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