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今もシリーズが続く、セガのドラマチックアドベンチャーゲーム『サクラ大戦』。その初代ヒロインである真宮寺さくらは「"異文化"をゲームに持ち込んで開花したキャラクター」と言えるでしょう。
キャラクター原案を手がけた人気漫画家の藤島康介氏は本作以前にも『テイルズ オブ』シリーズでゲームに関わっていましたが、脚本のあかほりさとる氏はアニメの原作・脚本やノベル作家として、キャラクターデザインの松原秀典氏は実力派アニメーターとして、それぞれゲームと異なる業界の最前線で活躍するクリエイターでした。
こうした他業界の雄たちが内面と外面を彩り、さくらは「一見楚々とした大和撫子ながら、芯が強く負けず嫌いでヤキモチ焼き」な少女として誕生しました。松原氏によるキャラクターデザインは、藤島氏の原案がそのままアニメになったかのようなクオリティです。
セガの開発スタッフも負けじとそこに乗っかり、1996年という時代ではめずらしかったリップシンクを実現。今日ではめずらしくない技術ですが、当時のプレイヤーたちは「キャラクターたちがそこにいるようだ」と度肝を抜かれたものです。
"異文化"の注入はまだ終わりません。ゲーム発売の翌年1997年からは、舞台公演「サクラ大戦歌謡ショウ」がスタート。舞台を観にいくことで”テレビの画面越しに花組の公演を見るプレイヤー”を”現実の劇場で花組の公演を見る客”へとスライドさせてしまう仕組みは、まるで自分がゲームの中の帝都の住人になったかのような、そんな新鮮な感覚に満ちていました。
歌謡ショウはゲームの声優陣がそのまま自身のキャラを演じているのが大きな特徴で、それまで舞台の観劇経験がほとんどなかった筆者もすんなりと入り込めました。『サクラ大戦』は当初から舞台展開を視野に入れてキャスティングされていることも手伝って、アニメやゲームとはひと味異なるキャスト陣の自由闊達な芝居を堪能できました。
『サクラ大戦』はその後、2000年にTVアニメ化を果たしますが、ここにもプロデューサーである広井王子氏の"仕掛け"が。さくらがヒロインから主人公になり、彼女が帝国歌劇団に入団するところから始まるという、ゲームの前日譚から描かれたのです。
アニメの序盤の展開は「上京したてで芝居や歌の経験がないさくらが花組たちから突き放されつつも、少しずつ信頼を勝ち得ていく」というもので、彼女の前向きさや芯の強さをゲームとは異なる側面から楽しめました。
また、原作ゲームでは天真爛漫な性格をした超能力少女のアイリスが、TVアニメでは設定が変更されて人との触れ合いを極端に恐れる内気な性格に。そんな彼女に優しく接する"お姉さん"なさくらも、ゲームではあまり見られない新たな魅力でした。
作家やアニメーターが土台を固めたキャラクター像を、メディアミックスによる舞台公演やアニメでより深く掘り下げていく。真宮寺さくらが今もなお大勢のファンに愛されているのは、広井王子氏が仕掛けたメディアミックスやスタッフィングの巧みさによる衝撃や熱量がいまも冷めやらぬからではないか……と、当時を知る者の一人としては思います。